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影城は食堂での昼食が終わり風になびかれていた
そこに歩いてくる人影に気づきながら気づかないふりをした
「ねぇ、黒無君・・・でいいよね?」
「あぁ・・・」
振り返ると神路木という少女のそばにいた青いサラサラの髪をした娘がいた
170cmでスラリと長い足、くびれた腰つき、グラマラスなボディは官能的
ふわっと風が吹くと甘ったるい匂いが香ってきた
女には雄の仕草を見せない影城ではあるが目の前の美少女につい声が上ずるのを感じる
「神路木渚、よろしくね」
「神路木・・・恋火の妹か」
渚は大きな目をさらに大きくした
「すごい、大抵の人は身長を見て私の方を姉と思うのに!」
「・・・なんとなく、かな」
「恋火ちゃんは私の双子のお姉ちゃん、小さいのにムチムチしてて可愛いんだから!」
「ムチムチって家族に対していうか?普通」
彼女の顔は明るく姉のことを話すのが楽しそうだ
これからは神路木姉妹のことは下の名前で呼ぶことにしよう
風で乱れる髪をかき分け彼女は自己紹介をし、花壇から飛ぶタンポポの綿毛を見ている
「模擬戦闘での体術、上手かったね。ここに来る前に習ったの?」
「あぁ・・・上達するまで姉に絞り込まれたよ」
「あら、あなたもお姉さんがいるのね」
パァと顔をスポットライトのように明るくする渚
彼女の顔は明るく姉のことを話すのが楽しそうだ
「普段はムスーッとした顔してるけどプリン食べてる時はお饅頭みたいな顔になるのよ」
「・・・プリン」
食堂での騒動を思い出す
今日から1学年の3位は影城となった。4位に落ちてしまった恋火に特製プリンは与えられない
「そのことを言いに来たのか」
「本題はそれ、この1か月で1度だけプリンの輸送が遅れたことがあったんだけどその時のお姉ちゃんの暴れっぷりは相当だったわ、すぐにプリンが来たから怒りが収まったみたいだけど。これからはどうしたものかしら」
「プリンに依存度の高い薬でも入っているんじゃないのか?」
あるかもねーと言いながら渚はクルリと回りこちらを向いておねだりしてきた
「お願い!今日のプリンお姉ちゃんにあげて!!」
「あぁー…」
目をそらしながら影城は言う
「もう他のヤツにあげちゃった…」
「ええーーーーーー」
渚の大きな叫び声を耳にしながら小動物はプリンを口に放り込む
「ん?」
大きな尻尾を横に振りながらまた1人、プリンの麻薬に染まっていく
午後の授業が始まって早々アルカリは告げられる
「お2人には能力を使用した訓練を行ってもらいます」
3人は学園内にある大きな武道場に来ていた、壁床ともにコンクリートのような頑丈な素材だ
恋火が澄ました顔で聞いている
そいつを横目に影城が聞く
「入学前に聞いたのですが能力を使用した実戦訓練は1か月以内には行われないはず」
「この学園では1年生が入学して1か月が経過しています。君も例外ではありません」
それに、とアルバートはつけ加え
「今日やるのは実戦訓練ではなく模擬戦闘、2人で能力を使用し午前のように戦ってもらいます」
「ですが・・・相手は女の子、しかも能力を使ったのでは訓練といっても事故が起こるのでは」
「これに申し込んできたのはここにいる神路木恋火さんです、そのあたり彼女も承知の上です」
恋火は一歩前に出て人差し指を影城の前に出す
「プリンの恨み」
その目には地獄の業火も焼き尽くすような強い闘争心が芽生えていた
「本日特別に能力を解放できるデバイスを借りてきました」
少しススがついている上級生の使った腕に巻くタイプのデバイスだ。異世界人が地球に攻め込んできてから100年の時間の中で作られた中の1つ
「この機械からあなたたちが発現した能力を抑え込んでいた『割(divide)』の能力を一時的に弱め再び能力の使える状態へと変化させます」
両者が共にデバイスを腕につける
すると恋火の画面には力、影城の画面には鎧の文字が浮かび上がる
「戦闘開始!!」
火蓋は切られた
「はああああああ」
『力(power)!!!!!』
恋火の方から機械音が響き渡る
床を軋ませながら突進してくる小さな身体に影城は冷たい風の流れを感じた
ボッ
火のついたコンロのような音と共に避けた顔の5㎝隣を恋火の右腕がかすめる
キーンという耳鳴りを聞きながら2撃目3撃目と避けていく
「避けるな!!!!」
無茶を言うな、避けているのに余波で肉の波打つ衝撃が全身に伝わる
「影城君、この訓練は貴重なサンプルです。どちらかが一方的に攻撃していればリンチと変わりません」
アルバートの声もあまり届いてこない。それほどまでに腕のピストン運動がやかましくそう考えていると1つの感情が浮かび上がってきた
「なんで俺がこんな目に」
プリンを奪ったのも順位が変わっただけのこと、それだけで狙われる筋合いはない
プリンは食ってないし掃除を頑張っている小動物に与えてしまった。今返してくれなんて言えない
ならどうするか
すー、と息を吸う
そろそろ避けるのにも飽きてきた
そうして10mの距離をとる
「逃げるなー!!!」
激怒の言葉を尻目にデバイスに意識を投げる
「いい加減にしてくれ」
『鎧(armor)!!!!!』
あたりが一瞬闇に溶け込む。黒いもやが影城を隠し、晴れると姿は変わっていた
「鋼殻壁」
黒くとげとげした物体に覆われた白銀の鎧、影城の身体にぴったりな西洋の鎧をまとった姿がそこに現れる
「っ・・・ああああああーーーー!!!」
それに驚くが怯むことなく恋火は渾身の一撃を鎧に与える
ゴゥウウウウン
昼食後の腹に響く低い金属音、さながら除夜の鐘のような音を響かせたのち室内は静まり返る
そうして先に口を開いたのは
「なぁ恋火、明日からプリンはお前が食っていいよ」
「やりぃー」
「あ、でも」
「恋火って呼ぶな」
そう言って恋火はくたくたのまま影城にもたれかかり眠りについた