鈴木と伊藤
ある夜
2人の男女の密会
互いに抱きしめあい
そして
「ねぇ聞いた?Aクラスの鈴木楓香さんが行方不明になったって!」
「聞いた聞いた!学園から脱走なんて出来ないのにどこ行ったのかしら」
「きっとあの部屋から出て行ったのよ」
訓練の日々も数日経ったある日、そんな噂が立っていた。影城や恋火、渚の特級クラスの次に優秀なAクラスの女子が一晩で謎の失踪を遂げたらしい。詳しくはまだ調査中だが昨晩に起こったことだったようだ
「調査するわよ」
朝にクラスへ行くなり恋火がそう言ってきた
「俺とお前で?」
影城は心底面倒そうに言った
「渚も一緒よ、あの子頭いいから」
神路木渚の方を向くと笑顔で手を振ってくる。この2人、今日は遅れずに教室に来たと思ったらそんなことを考えていたのか
「断っていいのか?」
「あんた次の授業は保健室で過ごすのね?美人の先生もいるから羨ましいわ」
「・・・」
断ったら俺が健康でいられなくなるらしい。仕方ないな
あっという間に昼になり、今日も成績優秀者第3位までが獲得できる超高級特製プリンを恋火に謙譲したのち自由時間となった
「じゃああんたはあんたで適当に探しなさい。と言っても休憩終わるまでに必ず成果を出すこと、いいわね」
「じゃあね、黒無君」
恋火と渚はプリンを持ったままその場を立ち去り影城1人だけになった
「探すといってもなぁ」
そう思いつつ頼りにしようと思ったのは徹鎖琢磨だ。重度のアニメオタクで現在幼児向けのアニメにはまっているそいつだが成績は割と優秀で学園の色々に詳しい。考えを聞いておくのがいいだろう
「やぁ僕に尋ねてくれるのは嬉しいな。丁度ヒマしてたところなんだ」
「お前は女子学生の失踪事件についてなにか知っているのか?」
そう問いかけると少し思案した顔になって徹鎖は話し始めた
「昨日の夜に起こった事件だよね、失踪したのは鈴木楓香さん。この学園から人がいなくなることなんてありえない、学園から寮に行くのも敷地内だし外に出ようと思ったら警備している人たちがいて外出届を出さなければ出られない。厳しい指導や訓練に耐えかねて実戦前に退学する生徒もいたらしいけど正式な手段を踏んで退学届を学園に出さなければいけない」
徹鎖はコーヒーを飲みまた話す
「脱走なんてしなくても無理強いはされない。嫌になれば退学という手段があるのだから。それでも逃げようと思ったのなら行き場所は1つだけだ」
「それはどこなんだ?」
「送(transfer)の能力で人や物を転送するための部屋だよ。君も聞いたことくらいあるだろうけど、その昔ワープホールを作る能力者によって世界中に穴が開けられその穴から地球に異世界人が侵略してきた。人々は故郷と命を守るため戦ったんだけどいちいち前線に人を送り込むのが大変でワープホールの少し手前にその人や物を転送する設備を整えている。その部屋が学園にはあるんだよ」
「上級生たちが実戦に行くときに使用する手段がそれか」
「そうだね、その部屋にも中に入るには権限が必要だから中に入ったという線は除外かなぁ1年生のAクラスの女の子1人だけを前線に送るわけないもん」
部屋は使用されていないとしたら学園内にまだいるのか
「いいや、もうどこにもいないだろうね。彼女は消されたんだ。何者かに」
徹鎖と別れ時計を見るとまだ休憩が終わるまで時間があった
2番目の人間を訪ねて見ることにした、といっても人間と言っていいのかわからない
「あっ黒無さん!」
廊下で掃き掃除をしている小さい体がこちらに気づき嬉しそうに大きな尻尾を振る
リースという名前で130cm程度の小柄な身体にそれを覆うようなリスの尻尾。異世界からやってきたドワーフだ。本来人間側からしたら敵なのだが100年もの歳月に渡る戦争の中で友好関係を築いた異世界人とは契約を交わして学園での補佐や身の周りの世話をしていいことになっている。それでも厳しい審査を受けて合格した者のみとなっているため危害を加えてくることもない。
「お疲れ様です。今私は掃き掃除をしています。ここからあっちまでやってます。」
小さい手を大きく広げて説明してくる。かなり年月生きてきたらしいが人間に例えるなら小学生の少女のようである
「時間があったら少し話を聞かせてほしい。昨日失踪した学生についてだ」
「あー。それですね。道を歩く学生さんたちがみんな話題にしてます。でも私に話しかけてくる人いなくて退屈してました。」
リースは自分の世界にいる時もよく人間と喋っていたという日本語ですらすらと話し始めた
「私が聞いたのは結構遊んでいる女の子で彼氏が100人いたとか。お金にだらしなくて借金をしていたとか。あと校舎裏に誰かといたとか。ですね。」
「話におひれやせひれがついているような気もするが、まぁいいか」
そんな子だったのかも知れないしなと思いながら情報の1つである校舎裏に向かった
「ん?誰かいるな」
校舎裏につくと1人の影があった
「あら、こんにちは」
保健医のアルヴェーヌが波を描くように手を泳がせている
「なにをしてるんですか?」
影城が聞くとふふ、と笑みを浮かべながら彼女が答える
「ちょっとね」
それだけ言うとアルヴェーヌは軽い会釈をしてそのまま去っていった
「おかしいわね」
「うーんあれは魔法かしら?」
アルヴェーヌと入れ替わりに恋火と渚が現れた。今まで隠れていたかのようだ
「はぁ?隠れてたに決まってるでしょ。あの保健医がなにかやってたから見てたわけ」
「なにをしてたんだよ」
「あれは多分魔法ね。アルヴェーヌ先生は異世界人でも珍しい吸血鬼なの」
吸血鬼の異世界人は本来太陽の光を嫌っていて夜行性であるが日中でも仕事ができないというわけではない
「あれは吸血鬼が得意とする血液を操る魔法よ。どうやらこの辺りに血痕が付着していたみたい」
「血痕だと?誰かがここで怪我をしたのか?」
はぁ~と恋火が溜め息を出す
「あんたバカぁ?失踪事件の目撃情報を元に現場で血を採取している学園側の人間がいたら関連性に気づくでしょ。それに事件当時もう1人その場にいて女子学生とあっていたという情報まで出てる」
「どうかしら黒無君、私たちその人に心当たりがあるから一緒についてきてもらえない?」
時計を見る。休憩時間はそろそろ終わりそうだ。あとは午後の授業が終わってからにしよう
そして午後の授業が終わった頃、恋火たちに連れられやってきた空き教室では
「一体どういうことだい、君たち」
「あんた昨日の晩に楓香と会ってたでしょ、話を聞かせなさい」
恋火が話しかけた相手は失踪した女子学生、鈴木さんの彼氏だった男子だ
「僕は楓香とは昨日会ってないよ!今日の朝になって彼女の訃報を知ったんだ」
「あんたがどっかに連れて行ったんでしょ!言え!言いなさい!!」
「うわあああやめてくれ、暴力反対」
「まぁまぁお姉ちゃん。君が昨日鈴木楓香さんと会っていた目撃情報があるの。それに学園側はもう証拠を見つけたわ」
渚が嘘の情報でカマをかけようとする。まだアルヴェーヌの調査結果は生徒たちが知る由もない
「う、嘘だ!君たちの言っていることはデタラメだ」
「どうして分かんのよ!おらっ」
「待て待て恋火。君、名前も知らないがじゃあ昨日君はどこにいたんだ」
「アリバイかい?いいだろう!僕は昨日寮の自分の部屋で寝てたよ」
「遅くまで寮には戻らなかったって知り合いの生徒は言ってたわよ」
「うう・・・し、知らない知らない!」
すぅ、と息を吸って恋火は話し始めた
「あんた、能力が暴走したんじゃないの?抑制されていた能力が暴発して彼女を追い詰めたのよ」
「知らないよう・・・会いはしたさ、でも気づいたら楓香はいなくなってたんだよ」
彼氏は顔を手で覆いふるふると震えている
「うーん、そうねぇそもそもあなたの能力ってなんなの」
「ぼ、僕の能力は土の壁を作ったり泥で攻撃するんだ」
「でも変だわ。あなたは能力をこの学園に入学してから使っていない。そのくらいは調べてるの」
これは本当にしらべたのだろう。それならなぜ彼は能力を使わないのか、いや使えないのか
「ちょっと手荒だけどごめんなさい」
渚がそういうと恋火が彼の襟首をぎりぎりと締め上げる
すると
「や、やめヤベベベベベベベ」
泥が彼の生存本能に従い彼の身体を覆いつくす。寸前で手を離した恋火の見つめる先でさきほどまでいた男子学生は泥から解放された
「ウウウ・・・」
そこには見違える姿があった。顔のあるはずのところは巨大な口がヒルのようにうごめき手はミュータントのように4つの指でドロドロとした粘着質のなにかが流れ出ている
「なんなのよ、これ!!」
「お姉ちゃん!これ本で見たことある!異世界人の中でも人を食べることを主にしている怪物!ただの学生がなぜ・・・」
「そこまでよ」
振り向くとアルヴェーヌが氷の魔法で彼を、いや彼だったものを攻撃する。氷が着弾した部分が床と怪物を凍り付かせ動きを止める
「伊藤君。あなたを鈴木楓香さん殺害容疑で拘束します」
その後から来た学園のガードマンたちが怪物の姿をした伊藤を取り囲み影城たちも外に追い出された
後日談
保健医アルヴェーヌは多くのことを語らなかったが怪物と化した伊藤を目撃したということで恋火たちにざっと話をしてくれた
伊藤は入学初日から不調を訴え能力を使用した訓練を受けなかった。幼少期に発現し抑制剤を打たれるまで土や泥を扱う能力は問題なく使用できていたとのこと
しかし能力は暴発した。いつものように彼女、鈴木と会い何気なく話をしていた校舎裏で突然ヒルのような怪物に変身し鈴木の身体を食ったあと記憶が曖昧なまま夜を過ごしたという。ちなみに恋火は鈴木とある程度仲が良かったらしく少しの間口数が減っていた気がする
その後アルヴェーヌの話とほとんど似た内容が学園内に知られそのニュースは長い間噂のタネにされるのであった




