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48体目 羽化

「どうして智恵さんが……」

「ごめん! 時間が無いから後で!!」


 言うや早し、智恵さんとリード氏は敵の大群目掛けて飛び立った。

 途中の魔物は通り過ぎさまに斬られたようで、次々と倒れてゆく。

 そのままエビルファレーナに突撃したかと思えば、周りを旋回する。

 複数体の分身で見るが、軌道を見切れない。

 気づけばエビルファレーナは大きな傷を増やし、飛ぶのが困難になりつつあった。


「強い!」

「いいや、おかしいだろ……」


 強いのは分かる。

 錬斗の発言に続けてオレからは疑問の言葉が出た。

 召喚された者は触媒にされた物や召喚者によって強化や弱体化がされる。

 ムギは召喚士(サマナー)として一流になれる素質がある。

 それにしたって、智恵さんのあの強さは異常だ。


「早すぎて何がなにやら……。あのお方のレベルはおいくつですの?」

「……私の能力でも判別しきれないわ。多分、6000ぐらい……」

「6000なんて、いったいどうやって……」


 赤、黄、青のお嬢様方々が順番に言った。

 レベル6000というのはあまりにも不可解だ。

 霊魂になった状態でレベルを上げたことになる。

 その魂が宿る砂時計をリード氏が持っていたことも気になる。

 この戦いが終わったら絶対に問いたださねば。


「……敵の攻勢が弱まってる今のうちに、態勢(たいせい)を整えましょう」


 木崎さんの指示に従いそれぞれが傷の治療を始める。

 オレは分身の一部を敵の前面に回し、ヴァイスさんと協力して敵を食い止めた。


 余裕ができたため状況を確認する。

 救援が来たことは頼もしい。

 しかし森の奥地から来た者が1番乗りというのは、良い意味合いを持たない。

 街にも数十人は居るはずのレベル1000越えが数人しか参加していない。

 ボスに対抗できるであろうレベル3000越えに至ってはゼロだ。


 リード氏が即断即決で来た可能性はある。

 だが追加の参戦は期待しない方がいいだろう。

 参加していない強者の多くは、こう考えているに違いない。

 この緊急事態で参戦すれば白羽の矢が立ち、今後何か会った時に1番に戦場に出されると……。

 ここで出た場合のリスクを考えれば、安全を取るのは普通。

 危険を(かえり)みないのは、英雄願望が強いかよほどの善人であるかの2択だ。


「やった!! あのでかいのを倒したぞ!!」


 少し離れた位置から男性の大声が聞こえた。

 倒したといっても、胴体をずたずたにして羽を切り落としただけ。

 エビルファレーナは海に落ちこそしたが、倒しきれてはいない。


 よく見ると、叫んだ男の仲間に撮影をしている者が居る。

 ドーレが配信して良いかと聞いてきた時は却下したが、結局情報が拡散されてしまう。

 映像に残るのは言葉よりも多くのことを分析されてしまうから厄介だ。

 まさしく、百聞(ひゃくぶん)一見(いっけん)()かず。

 余計なことをしてくれたものだ。


「……なぜでしょう。嫌な予感がします」

「予感って?」


 セレナさんが不吉なことを言い出したので聞いてみた。

 後はエビルファレーナにトドメを刺すだけで終わるところだ。

 智恵さんとリード氏も大技を出すべく力を溜めている。

 この状況から(くつがえ)されるようなことがあるというのか。


「あの大きな魔物の中に、より強大な何かが……」

「冗談はよしてよ……。あれより強いなんて……」


 セレナさんの回答には木崎さんが反応を示す。

 そして海に落ちているエビルファレーナを全員が注視した。


 リード氏は風の魔法で鋭い竜巻を作り出し、空中で操作。

 上手くタイミングを合わせ、中に飛び込んだ智恵さんと共に急降下させる。

 そのまま巨体へと命中。

 衝突で大爆発が起きた。


「……倒せたのでしょうか?」

「いいや……」


 オレはスイカの呟きに半ば反射的に答えた。

 水柱が立ち昇ったのだが、攻撃の威力に対して大きい気がする。

 大きくなった理由は、すぐに答えが出た。


「羽化しちゃった……」


 ドーレがエビルファレーナを指して羽化したと言う。

 成虫のような姿なのに羽化とはどういうことだろう。


「魔物としての(かく)が上がったのか?」

「≪エルダーファレーナ≫。長年掛けて成長したファレーナが進化した姿だよぉ……。あーしも初めて見たけど」


 ドーレの言うエルダーファレーナという蛾は色が白い。

 先ほどの攻撃を回避したらしい姿から察するに、あの巨体からは想像できないほど早いようだ。


「え……? わあぁ!?」


 立っているのも厳しい風が吹き荒れた。

 スイカが飛ばされそうになり、オレが背後から受け止めるも地面を数メートル滑らされる。

 杖を地面に突き刺してやっと止まることができた。

 他の面々も地面に武器を突き立てて踏ん張った。


 エルダーファレーナは周りの被害に気を使わない。

 飛翔する衝撃だけで建物のガラスが割れた。

 ソニックブームまで発生しているようだ。


 雑魚の魔物もまだまだ湧いて出ているようだが、その多くが空を舞っている。

 対応しきれなかったらしき冒険者も何人か飛んでいる。

 戦場がぐちゃぐちゃになって戦うどころではない。


 上空ではよく分からない超速の戦闘が行われている。

 敵が進化しようと、優位はくずれていない。

 リード氏はやや押され手気味だが、2人で力を合わせて一方的にダメージを与えている……ように見える。


「いけません……! あと少しで実体化が解除されそうです!」

「マジか……」


 智恵さんは実体化してから3分も経っていない。

 ムギの召喚は短い者でも5分は維持できたはずだ。

 あまりにも実力差があり、実体化を続けられないのだろうか。


 あるいは触媒が砂時計というところに原因があるのかもしれない。

 智恵さんは最初から時間が無いと分かっていた。

 砂時計という点を考慮すれば、決まった時間きっかりで解除されるという制限があっても不思議ではない。


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