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47体目 召喚



 赤咲さんが電話を終えて間もなく、彼女の執事――≪ヴァイス≫さんがギルドへ駆けつけた。

 オレたちが泊まっているホテルに居たはずなのに、なんと早いことか。

 事が起きてからすぐに行動を開始したに違いない。


「ヴァイス! 装備は持って来ましたわね!」

「勿論でございます。ミナミ様とセレナ様の装備もございます」

「すぐに着替えます! 用意を!」


 思わず振り向いてしまった。

 着替えは円形のカーテンが有るようだから問題ない。

 気になった点は、セレナさんまで戦おうという意志が感じられたところ。

 魔塔と比べてあまりに危険すぎる。

 失礼を承知で聞くしかない。


「まさか戦う気か?」


 目線だけセレナさんに向けて聞いた。


「お父様には叱られるでしょうけど、あなたが戦うのに逃げられないわ。セレナの心配も要らないわよ。最悪の場合は身代わりがあるから」


 後半部分はオレにだけ聞こえるよう告げてきた。

 最悪の場合ということは、できれば使いたくない奥の手だろう。

 身代わりという発言から察するに、特別なアイテムもしくは能力でのダメージの移し変えだ。

 他にも候補はあるが、過去の記録にも似たようなものがある。

 十中八九2つのうちのどちらかだ。

 

「みなさん! 行きますわよ!」

「どこまでもお供します」


 赤咲さんや執事のヴァイスさんもやる気満々。

 錬斗も冷静に見えて気分が高揚しているようだ。

 無茶はしないだろうが、オレだけ行かないわけにもいくまい。

 せめて前線には出ないよう誘導させてもらう。



 戦況は5分もしないうちに動いた。

 戦闘に参加する人も増えたが、退場するペースも速い。

 この前と違い雑魚の中でもレベル1000に届きそうなほどに強い奴が居る。

 そのため耐えきれずに逃げる者が多い。


 そしてエビルファレーナに狙われたパーティーは、ことごとく粉砕された。

 羽ばたかれるだけでも毒が振りまかれ厄介な状態だ。

 オレたちはセレナさんによる耐性付与の支援魔法で動けるが、暴風のせいでいつも通りとはいかない。

 前線から一歩引いた地点で漏れてきた魔物と戦っているが、辛い戦いになっている。


 オレ自身は直接の戦闘をほぼしていない。

 分身で怪我人を助け出す役目を請け負ったため、時々盾になる程度だ。

 本気で戦ってしまえば消耗が耐え難い物になる。

 これが最善だ。

 それでも体力と集中力は湯水のように減っていく。

 高レベルの救援が着くまで耐えられればいい。

 転移門が使えずとも、この国にも強者は居るはず。


 それにしても、戦線を保てているのは奇跡的だと言える。

 負傷者がかなりの人数出ているは勿論、逃亡者には困らされる。


「ひ……ひぃ!! こんなのやってられるか! 俺は帰らせてもらうぞ!!」

「ま、待てよ! くそっ! なら俺だって!!」

「私だけ置いていかないでー!」


 また1つのパーティーが戦場から消えた。

 戦闘義務が無い者ばかりだから仕方はない。

 だが戦うと決めたなら最後まで責任を取れとまでは言わずとも、引継ぎぐらいはしてほしい。

 持ち場を放棄して逃げる者が多くては戦線が維持できない。

 分身でカバーに入るのも限界だ。


『レベルが1アップしました』

『レベルが1アップしました』


 集中力が切れた瞬間、分身の半数が消滅した。

 ドーレが付いていた分身も消えたようだ。

 本体のオレも激しい消耗から膝を着く。


「とうやん~! 平気ぃ?」

「塔也さん!」


 一緒になってムギまで駆け寄ってきた。

 体力はまだ分身の数を制限すれば何とかなる。

 しかし精神的な消耗がここまで激しいとは思わなかった。


「大丈夫。混戦状況なせいで分身からの情報が多すぎて眩暈(めまい)がしただけだから。数を減らすから……」


 その時、後方から静かでありながらエビルファナーレに負けないぐらい大きい気配が近づいて来た。

 文字通り飛んで来たらしい。

 なぜかは不明だが、その人……エルフは、オレの近くに着地した。


「やはりあなたでしたか。お久しぶりです」


 彼の名は≪リード・アルセルク≫。

 どういう偶然か、この人はカグツチ・ホムラ氏のパーティーメンバーだ。

 ともに活動する頻度は1番少ないらしいが、右に出る魔法使いは居ないと言われている。

 この前気になって調べたから、彼のことはよく知っている。

 頻繁にティアナの森にあるエルフの里に里帰りしているという情報もあった。

 ここに来ても何ら不自然ではない人選だ。

 とはいえ、彼が以前からオレを知っている理由にはならない。


「……どこかで会いましたっけ?」


 最近になって知ったというならまだしも、久しぶりというのはなぜか。


「……小さい頃でしたからね。覚えてないのも無理はない」


 オレが5歳未満の時に会ったことがあるようだ。

 小学生に入った後ならば忘れるはずもない。

 そんな昔のことなのに、子ども1人を覚えているとは記憶力の良い人だ。


「それよりこの状況をなんとかしましょう。ムギさんは……あなたですね。こちらをどうぞ」

「……あたしにですか?」


 ムギは砂が薔薇色の砂時計を渡された。

 受け取ったところで砂時計を見つめたまま固まる。

 何か気になることがあるようだ。

 オレから見ても妙な気配を感じる。

 これは、窃盗丸のような魂の気配だろうか。


「…………智恵……お姉ちゃん……?」

「……え?」


 砂時計に、智恵さんの魂が宿っているとでも言うつもりか。

 少しだけ期待してしまったが、ありえない。

 物に魂がが宿ったり呪縛霊のようにその場に残ることはある。

 しかし智恵さんが亡くなったあの状況では、魂が残るようなことはないはず。


「さあ、あなたの能力で彼女を召喚してください」

「……」

「……うん。分かった」


 ムギは霊魂の言葉を聞いたのか、いつもの要領で実体を生み出した。

 生み出されたのは、オレのよく知る智恵さんだった……。


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