45体目 戦いの始まり
オレたちはスイカの故郷、≪ルーネ王国≫へとやって来た。
オレを含めて合計7名。
観光も考え、まずはパーティーメンバーの5人。
そこに木崎さんと赤咲さんを加えた面子だ。
≪転移門≫を使ったため、移動に時間は掛かっていない。
手続きは少し面倒だったが、提案した身が出向くのが礼儀だ。
王宮の応接室で話し合うことになっている。
木崎さんのパーティーメンバーであるセレナさんの故郷でもある。
迎えに来てくれるというが、お姫様にそんなことをさせて良いのだろうか。
画像をネットで調べた限り、外に出る際は変装はしているようだ。
本来の姿はロングヘアーで、髪色も青みが強い。
以前見た時はショートボブの水色の髪だった。
「皆様お待ちしておりました。さっそくですがこちらへどうぞ」
挨拶もそこそこにギルドの外へ出ると、リムジンが2台止まっていた。
目立たないよう気をつけているようだが、セキュリティ・ポリスらしき人物が10名ほど確認できる。
お忍びとはいえ、警備はしっかりしているらしい。
ここまで警戒しているのに、冒険者をやらせるとは何事か。
オレが知らないだけで、安全装置的なものがあるのだろうか。
きっとそうに違いない。
君主制の国どころか外国に来るのも初めてだ。
空気も別の世界に来たかのように感じる。
とはいえ気候や街並みの変化は魔塔の内部で慣れているから、気分の問題だろう。
都市を出て北の方面へ進むと、≪ティアナの森≫と呼ばれる広大な大森林が広がっている。
そこのどこかにエルフの里もあるらしい。
事前に祖父祖母に会いに行くかとスイカに聞いた。
だが里は遠く行く理由も無いので、遠慮するとのこと。
会いたくない事情があるわけでもなく、単純に疎遠なだけらしい。
さらに森を北東に出て海岸沿いに進むと、赤道直下に存在する≪ウントリカ≫という都市がある。
天に向かい伸びる≪天地の魔塔≫が存在する国だ。
魔塔を外から見れるのはここだけで、ここには多種多様な種族が住む。
現在では観光名所として有名になっている。
オレたちも帰りに寄っていく予定だ。
勿論遊んでいるだけではなく、分身は訓練中だ。
高難易度の緊急クエストを発生させる下準備と言えばいいか。
クエストはオレの実力に合わせ作成できる範囲が決まるため、鍛えてから作る。
次は是非とも1000階層越えたい。
プレゼンには、スイカの冒険者カードを持参した。
つい1月前まではレベル1だった子が150近くにまで上昇したのだ。
偽造でないことも確認してもらったから、他者の超速レベルアップが実現可能だという証明になる。
後はオレを起用することで得られるメリットやデミリットを説明。
こちらからの条件なども資料に目を通してもらいつつ細かく話した。
途中で質問は何度もされたが、問題無く終わる。
即日で可決はせずに、大臣たちと話し合い後日返答をもらうことになった。
その後国王に食事に誘われて拒否しようとしたら、木崎さんに足を踏まれた。
しかしそこで諦めずに断ろうとしたら、久しぶりに腹パンをかまされた。
レベルはオレの方が上でも、ステータス値は木崎さんの方が上らしい。
食事の誘いは木崎さんが勝手に承諾してしまった。
国王の≪リュード・クローリス≫氏は親バカだった。
早い段階で錬斗と同じようなタイプだと判明した。
娘のこととなると盲目となり、猪突猛進になってしまうようだ。
武器まで取り出した時はどうなるかと思った。
大臣が止めに入らなかったら国際問題に発展するところだ。
割と日常的ことだから気にしないで欲しいとのこと。
そこからは面倒なことになると判断して、セレナさん関連の発言には気をつけさせてもらった。
この国には2泊3日した。
1日目は話し合いからそのまま王宮に泊まる。
2日目は特記することも無い普通の観光になった。
精々、錬斗がちょっとした事件に巻き込まれた程度だ。
問題は常夏の国≪ウントリカ≫での、観光2日目に起きた。
正確には1日目にも問題は有った。
錬斗が騒動に巻き込まれたり、錬斗が騒動に巻き込まれたり、錬斗が騒動に巻き込まれたりだ。
どれだけトラブルに引き寄せられる体質なのだと思いもした。
半分は自分から首を突っ込んでいたが、それでも多い。
その内1つは赤咲さんを巻き込んだ暗殺未遂事件。
オレは関わっていないので詳細は知らない。
どこぞの国の王女の暗殺を阻止したのだと言っていた。
その王女を見る機会が1度有ったが、錬斗に惚れていたと思う。
所有権を持っているオレも巻き込まれてしまうから、変な気を起こさないことを祈るばかりだ。
ついでに赤咲さんも、今朝から錬斗に対して積極的になっている気がする。
そして旅行を始めてからウントリカに着いてから2日目の今日。
その魔塔からのシステム音らしき声は、昼過ぎに浜辺で遊んでいる最中に聞こえてきた。
『緊急事態が発生しました。第一多次元防御壁を突破されました。第二多次元防御壁を突破されました。緊急遮断を行います――成功しました』
第二多次元防御壁とやらが突破された時点で≪天地の魔塔≫付近に強大な魔力を感じた。
緊急遮断が何かは分からないが、気配がどんどん増大するのが止まった。
直後――。
『≪ウントリカ≫に大規模のゲートが発生します。付近の住民は避難してください』
ついに魔塔の外に、魔物が現れた。
いつかは起きると思っていたが、オレたちが居る時に発生したのは運命必然か。
どうしても仕組まれているように感じてしまう。
きっと、これまでの経験からくる過剰反応だろう。




