41体目 後ろ盾
全員が集合次第、状況を確認していく。
すると、オレの学友の名前が≪カセット≫ということを思い出せた。
彼は操られている最中肉体の限界を超えていたらしい。
体を起き上がらせるのは無理だと言う。
しばらく話し合っていると、またしても遠くで喧騒が起きた。
そこは分身に任せ、侵入した隠れている魔物を周りの冒険者と共に排除する。
それがしばらく続いたところで、遠くで大きな光の柱が立ち昇る。
後で聞いた話によると、高レベルの冒険者が強引にゲートを壊したのだという。
徐々にゲートが大きくなっていたから、正しい対処だとレイナも言っていた。
ゲートは基本的には自然消滅を待つ。
そうしないと魔塔に貯まった魔素が、外の世界に溢れてしまうと考えられているからだ。
しかし今回はイレギュラーなため、現場判断で勝手にゲートを粉砕したのだとか。
出てきた魔物も取り逃しがないよう殲滅された。
結界内に被害が出たということで、世界中この話題で持ちきりだ。
オレに関してはこの件で注目は浴びなかった。
それでも模写という能力のことで、ついに警察から釘を刺されることになった。
生体模写は犯罪にいくらでも応用できてしまう。
表向きは丁寧な口調で、脅しなどと言える言葉は使っていない。
それでも「もし能力を悪用したら分かってるだろうな?」といった感じで忠告された。
もうひとつ面倒なことも起きた。
生体模写を応用すれば他者のレベルを上げられるとバレてしまった。
スイカやドーレからは漏れないように注意していたが、錬斗から漏れた。
地下に入った後の説明を終えてから、世間話中に言ってしまったらしい。
口止めをしてなかったから仕方ない。
それに遠からずバレることだ。
ノーリスクでレベルが上げられると分かれば、当然様々な機関が動く。
「私どものレベルも上げることは可能だろうか?」といった具合だ。
虚偽を伝えるわけにもいかないため、「レベル不足なので簡単にはできません」と答えた。
事実能力のレベル不足で赤の他人の模写は難しい。
逆に言えば、レベルさえ上がれば容易になるという確信もある。
今のところは警察に質問されただけだ。
しかしそのうち、楽にレベルを上げられると知り接触してくる者が増えることは間違いない。
「――というわけで、なんとかならない?」
「って言われてもねぇ……」
困った時の木崎えもんだ。
対人関係では彼女が1番頼れる人物だ。
今回の件も何とかしてくれるに違いない。
「ちなみに、どれぐらいの効率でレベルを上げられるの?」
「今は1日で……レベル1の人を60にするのは余裕。頑張って80ちょい? 模写の準備も能力のレベルが上がれば、1時間も掛からなくなると思う」
オレ自身のレベルも上がっていくから、効率はもっと上がる。
1月後にはレベル1の人を150にはできるはず。
「現状ですらそれだと、少し不味いことになるわね」
「だから面倒にならないうちに、なんとかしたいんだよな」
「うーん……そうねぇ……」
木崎さんは長考しだした。
誰からもオレとしては余計な接触はしてほしくない。
だが望み通りいくはずもないことは想像つく。
「簡単に思いつくのだと、どこかの大きな組織に所属することかしら。後ろ盾になってもらえるし、簡単には接触できなくなるわ」
「でもそれだと、相応のものを提供しないとダメだよな」
所属した組織の者のレベルを上げるという条件は間違いなく付く。
手間が減るだけで、面倒なことには違いない。
「考え方次第じゃない? 自衛隊とかなら戦力にもなってくれるでしょうし。いっそのこと他国の軍隊って手もあるけど……」
「ふうむ……」
将来のことを考えれば、戦力になってくれる者が増える組織に属するのが1番だ。
オレに対するマイナス要素もプラスに転じることになる。
表向きは別の部分で様々な利益を貰う。
そして条件に含まなくても、勝手に大きな戦いに参加してくれる立場の組織が理想か。
自衛隊なら強いコネもあるから、問題なく手を結べる。
「ちなみに他国って、そんな伝手あるのか?」
「セレナに頼めば多分いけるわ。スイカちゃんの出身国よ」
「あ~……あの国か」
50年近く前にゲートが発生して大きくの損失を出した国だ。
奴隷制度も採用してるほど必至だから、取り入るには丁度良い。
奴隷になっていない冒険者の絶対数が少ない分、高レベル冒険者を多く提供できることがとてつもない利益になる国だ。
見返りも相応に期待できる。
「仮に取り入ったとして、予想されるメリットとリスクは?」
「その場合は……小並君今日は時間――分身を使えばいくらでもあるわね。ちょっと時間を掛けて詰めましょうか」
最近周りの者から、分身を使えば時間ぐらい作れるだろうという認識をされている気がする。
実際そうなのだが、決め付けられることには慣れそうにない。
その後の話し合いは夜深くまで続いた。
やはり他国に取り入るのはリスクが大きい。
日本国家との兼ね合いで色々揉めるだろうということだ。
かといって日本に属しても、遠くない未来では「うちの国にも貸してくれ」「条件次第です」といった感じで政治利用されることは目に見えると言う。
勿論オレに対しての様々な保障はされるだろうが、利用されることを考えるだけで嫌になってくる。
「ならいっそ――」
オレは答えを出した。
その答えを聞いた木崎さんは頭を抱えた。
しかし大変ではあっても、将来を見越した場合は悪くない手だと納得してくれた。
そして分身は、木崎さん宅に数日間缶詰にされるのであった……。




