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38体目 ドレイン

 その人は錬斗とのトレーニング中に来た。

 オレも顔と名前だけは知っている。

 カグツチ・ホムラ氏と同じパーティーに在籍する≪神崎(かんざき) 羽織(はおり)≫さん。

 若干17歳にしてレベル3000を突破した鬼才だ。

 種族はウサギと人間のハーフだったか。

 普段は白いロングヘアーだが、戦闘中は邪魔にならないようショートヘアーにできるらしい。

 一見すると人間にしか見えないが、よく見るとウサギのような尻尾があると聞く。


「あなたたちがホムラのやつが言ってた新人? 名前は確か……天取と錬斗だったかしら」

「天取錬斗なら俺だが……ですが」


 オレも含んでいるようだから、≪新人≫というのは「地下入り冒険者として」という意味だろう。

 錬斗は最近≪天の試し≫を超えた。

 レイナに頼み危険度が低い内容にしてもらったのは内緒だ。


「あれ? じゃあそっちのは?」

「ジョンタロウです。どうぞよろしく」


 オレは偽名で答えてみた。

 会いに来た人の名前を忘れる者には丁度良い対応だろう。


「そう。そんな名前だったわね! わたしは神崎羽織! 特別に名前で呼んでもいいわよ」

「…………改めて、名刺代わりにどうぞ」


 まさか騙されるとは思わなかった。

 勘違いされ続けるのも面倒なので、冒険者カードを使いデータを送信する。


「あらありがとう。……トウヤ? じゃあジョンタロウは本名なのね」


 錬斗が羽織さんを、「こいつマジか」といった目で見ている。

 そんな偽名を合体させたような名前の者などいてたまるか。


「トウヤが本名だよ。小並塔也」

「へ……? じゃあ……」

「さっきのは偽名だ。普通騙されるか?」


 錬斗が偽名だと告げると、羽織さんがプルプルと震えだす。

 そして気力が高まっていく。

 微妙に空気も震えている気がする。

 周りにゴゴゴという擬音を付けたら様になりそうだ。


「だ……」

「だ?」

「だましたなー!?」


 羽織さんが叫びながら飛び掛ってきた。

 咄嗟に右腕を防御に使うが、逆に手を取られてしまう。

 そのまま関節技を決められた。

 明らかに手加減されているが、それでも痛い。


「うぐっ……。痛い痛い痛い!! 腕取れる!!」

「こんな腕取れてしまえー!!」


 人によっては役得な状況だと言うだろう。

 しかし冗談抜きで腕が取れてしまいそうなぐらい痛い。


「ギブ! ギブアップ!!」

「許すかぁ!!」


 降参の意を示すが拒否された。

 そのまま本当に腕がお釈迦(しゃか)になりそうなところで解放され、次は背中から左腕を(ひね)り上げられた。

 そんなやり取りが5分ほど続いてから本題に入る。


 なんでも、オレや錬斗は最近の注目株(ちゅうもくかぶ)として有名になっている。

 カグツチ・ホムラ氏も注目していると聞き、直接見に来たのだとか。

 実力を見るついでに稽古をつけてやるから、2人で掛かって来いと言う。

 オレは断ろうと思ったが錬斗が乗り気だったので、水を差さずに挑戦することにした。


 当然ボコボコにされて、最終的にはレベル上げをしていた分身の維持すらできなくされた。

 日が沈んだ頃にスイカやドーレを連れた分身が帰宅。

 羽織さんもそのタイミングで連絡先をよこし傷薬を置いて帰った。

 そして薬を飲んだり塗ったりしている最中、ドーレの能力が判明する。


「とうやん大丈夫ぅ? エネルギー分けてあげようかぁ?」

「うん? ドーレそんなことできたのか?」

「最近レベルが上がって、自然とできるようになったのぉ」


 吸血鬼のハーフだというから、吸収(ドレイン)系の能力を覚えてもおかしくはない。

 しかし奪うだけではなく、与えることも可能なのは珍しい。


「口から渡すのが早いけど、どーするぅ?」

「遠慮しておく。手からでもいけるだろ」


 オレはドーレと手を繋ぎ、生命力を譲渡してもらう。

 だが、そこで気付くことがあった。


「……これって魔力も混じってないか?」

「要らなかったぁ? じゃああまり上手くないけど、生命力に変換して渡すねぇ」

「譲渡までできるのか……」


 悪魔は精神力(まりょく)を生命力にするのが上手いという逸話が多く残っている。

 食事を摂らず魔力を生命力に変換するのが種族的本能に根付いているらしい。

 レベルが低いのに高難易度のエネルギー変換技術を扱える辺り、ドーレも例外ではないようだ。


「それにしても随分と渡してくるな。どこにそんなエネルギーがあるんだ」


 ドーレはあまり食事を摂っていない。

 そのため生命力は並みよりは高いが、多くはない。

 魔力が高いのは確認しているが、変換してもここまで譲渡できる量は無かったはずだ。


「それは……この前寝てるあいだに、たっぷり吸わせて貰ったからぁ……?」

「疑問系? というか、なんで吸った」

「だって美味(おい)しかったんだもん。吸収なんて初めてだったから歯止めも効かなくてぇ……」


 美味(うま)かったのなら仕方ない。

 しかし吸収されていることに全然気付けなかった。

 分身を多く出すと消耗速度も速いから、1体分を少しずつ取られても気付けなかったか。


 後で気づいたことだが、ドーレは魔力の回復速度が異常なまでに早かった。

 そのため生命力への変換と合わせて大量に譲渡できたわけだ。

 疑問系だったのは、空気中の魔素などを吸収して回復していることに、本人も気付いていなかったからだ。

 息を吸うように魔力を回復するとは、悪魔とは凄い種族だ。


「吸うのは良いとしても、今後は許可を取ってからにしてくれ」

「吸っても良いのぉ?」

「体力はダメだけどな」

「魔力だけで良いよぉ。今度寝る時にいっぱい吸わせてねぇ」


 なにやら意味深な発言に聞こえてしまった。

 それもムギが「吸う……? 美味しい……?」などと呟きながら、オレの顔や下半身を見てきたせいだ。

 決してオレが変態だから、誤解を招くような思考に飛んだわけではない。


「あれ。そういえば、なんでムギが居るんだ」

「泊まりに来たんですが、分身から伝わってませんか?」

「オレは伝えたぞ」


 羽織さんにしごかれていたから気付けなかった。

 よく思い出してみると、適当な返答をしていた気がする。

 分身を解除して記憶の継承をしてみれば、理由が分かった。

 金曜がたまたま休日だから、夜はスイカやドーレと過ごしたいというものだった。

 施設にも話は通してあるから問題ないようだ。

 先日引っ越して以来、少しずつムギが家に侵食してきてる気がするのは気のせいか。

 中学を卒業したらそのまま居つきそうな予感を抱えつつ、オレの冒険者活動は続く。



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