37体目 一撃必殺
現在は休日を火曜と木曜日としている。
これはムギは学校もあり、平日の活動が制限されることに起因する。
休みの日はドーレやスイカを連れて遊びに出ることが多い。
ただし分身はレベル上げを続ける。
未来のことを考えれば休んでなどいられない。
とはいえ休息がないのは不味いから、ほどほどに留めている。
単純にレベル上げが楽しいから、疲れない程度にやっている。
「ご主人様。アレはなんですか?」
スイカはあれこれと物事に興味示すことが多い。
ゲームセンターを知らないというので来てみれば、見慣れない機械について聞かれっぱなしだ。
「あれはクレーンゲームって言ってぇ。このアームで景品を穴に落とせば貰えるゲームだよぉ」
こちらの世界に来る前に色々調べたのか、ドーレは様々なことに詳しい。
雑学ではオレも敵わないかもしれない。
エルフが珍しいのか、スイカは注目を浴びやすい。
ドーレも付けている鎖付きの首輪や手枷のせいか人目を集める。
違法なわけではないが、周りからの目線は気になる。
通報されやしないか内心不安でしかない。
「お待たせしました!」
「お疲れ。早かったな」
「急いで来たので!」
学校を終えたムギが合流した。
制服のままなのだが、この前買った赤いチョーカーを付けている。
ムギに関しては一時的なものだろうから、しばらくしたら外すと思う。
「その首の、さっそく着けたのか」
「はい!」
これはこの前、ドーレの首輪や手枷が太く鬱陶しいと思ったことが始まりだ。
邪魔だからせめて寝る時は外せないのかと聞いたら、「あーしの象徴的な物だから……」と落ち込み気味に言われた。
オレは、ならもっと小ぶりで似合いそうなのを買ってあげるから、それを着けたらどうだと言った。
だがドーレは、少し悩んでから首を振って拒否した。
そして笑顔で「これが良い」と言うのだが、彼女の経歴を考えれば本心でないことは分かる。
なので少し強めに、オレが買ったのを着けて欲しいと、真面目に懇願させてもらった。
どうしてもダメなら諦めるけど、考えて欲しいとも伝えた。
すると「考えてみる」と言い姿を消して、次に現れた時には是非買ってくれと言う。
多分、外す許可を貰いに行ったのだと思う。
許可された理由は、心臓を握っているから外面上の飾りなどどうでもいいといったところか。
とはいえオレにファッションセンスなどない。
ムギに頼んでどれが似合うかを一緒に考えてもらい、最終的にはオレが決める形で購入した。
その時にムギも興味をもってしまい、付き合ってもらったお礼としてプレゼントすることになったわけだ。
「むぎむぎ~!こっち来て一緒にプリクラとろぉ!」
「うん! 塔也さんも行きましょう!」
名前についても、オレは頑としてドーレという本名で言わせてもらっている。
0017号と呼んでとは言われたが、戦闘中呼ぶには長いと言ったら引き下がってくれた。
気のせいかもしれないが、ドーレは以前より笑顔が自然に見える。
内心までは見通せないが、オレの対応が間違っていないことを祈るばかりだ。
そんなこんなで気を使っていたからか、生体模写が可能になったのはドーレが1番乗りだった。
彼女は霊魂の心臓部ともいえる≪霊核≫なるものを奪われているらしい。
だから模写ができないかもしれないという不安はあった。
それでも模写できた辺り、霊魂は肉体にちゃんと残っているようだ。
最近はこれが魂なのではないかという感覚も薄っすらと感じるようになってきた。
それが切っ掛けなのか、生体模写がレベル10になれば能力が進化するとなんとなく解かる。
その能力を極めきった時が、分身能力の完成の時だ。
試しにドーレの模写体を出し経験値を流すと、レベルが大幅に上がった。
魂の声も聞こえたので、レベルの偽造はしてなさそうだ。
オレは地下界を詳しく知らないが、魔物と戦ったことがないとは驚きだ。
かくいうオレはレベル285になった。
だがレベルアップの速度が緩やかになって来た。
そろそろボスに挑む時期だ。
本体はレベルの水準に追いつけるように日々筋トレを重ねている。
魔力や体力は分身を使っていれば自然と上昇していった。
それでもまだまだレベルに比較すると身体能力が低い。
こればかりは高速でレベルが上がる弊害といったところか。
嬉しい悲鳴とはこのことだ。
11月に入り、スイカも模写できるようになった。
残すはムギだけだ。
ムギを模写できない原因は、理解できない部分が多いせいだ。
学校もあり訓練時間を取れなかったから仕方ない。
現在のパーティーメンバー内で1番付き合いが長いのに最後まで残ったことで、ムギの機嫌が悪くなった。
放置すれば他のメンバーにも悪影響を与えかけない。
模写するための訓練と言って買い物に誘ったりして機嫌を取らせてもらった。
好意を寄せてくれた結果の不機嫌だから、機嫌取りも悪い気はしない。
そしてパーティーも、本格的な活動をさせることにした。
知識面や実際に動いた際の連携訓練はしてきた。
次は実戦訓練だ。
まずは10階層のボスの討伐。
とはいっても戦いにすらならなかったのだが……。
初挑戦のスイカやドーレも、生体模写を利用してレベル50以上まで上げておいた。
これで苦戦することなどありえない。
スイカは水魔法を極めてもらうことにした。
いくつか選択肢を示し、その中から本人に決めてもらった形だ。
ステータスの確認やSPの割り振りは、スイカの権利を有するオレの冒険者カードからでもできる。
それでもやる気などは重要だから、本人の意思はできるだけ尊重したい。
結果、10層の蜘蛛のボスは1撃で壁の染みとなった。
水の大砲――≪ウォーターキャノン≫と呼ばれる魔法を叩きつけられた結果だ。
おかげでドーレが挑戦権を得ることができなかった。
スイカは広範囲・高威力の魔法を鍛えていくことになっている。
ウォーターキャノンは上位の魔法を覚えるために必要な魔法。
もう少し鍛えれば、≪メテオシャワー≫という魔法が現れるはず。
ドーレは人形使い。
自動人形に戦わせる人が呼ばれることの多い職業だ。
だがその30センチほどの人形を投げつけ爆発させるとは、誰が思おうか。
威力も高く、こちらも数体投げつけるだけで再挑戦した蜘蛛のボスを倒しきった。
そしてドーレには、種族特有の能力がもう1つあった……。




