36体目 超速レベルアップ
『レベルが1アップしました』
レベル上げを開始した初日は不調に終わった。
ボス戦後だったのもあるが、狩場を決めかねていたのが原因だ。
『レベルが2アップしました』
2日目も大差ない結果に終わる。
レイナたちにお勧めの狩場をいくつか聞きはした。
しかし長期的に狩りを続けるとなれば、簡単に決めることではない。
実際に試して、しっくりくる場所を探すのに時間が掛かった。
少しずつ階層を登るよりも、高い階層で楽に戦える場所を見つける方が効率が良い。
2日目で252階層に良さそうな場所を見つけた。
敵は無数のツルを刃のように扱ってくる植物系の魔物だ。
よく分身の手足などが体を離れて宙を飛び交うが、負傷覚悟なら楽に倒せる。
怪我をすること前提の戦闘方法など狂気の沙汰だが、分身だから問題ない。
明日からこの階層で定点狩りを開始する。
『レベルが1アップしました』
『レベルが1アップしました』
『レベルが2アップしました』
『レベルが1アップしました』
1日でレベルを5も上げることができた。
このレベル帯でこの速度のレベルアップは早々お目に掛かれない。
分身の数だけ経験値が入るとはいえ、自慢できる数字だ。
そして、4日目。
同じ魔物と戦い続けているため慣れてきた。
分身も傷は負っても消える回数がかなり減った。
これで最後にまとめて経験値を得る遊びを実行できる。
1体に経験値を集約するように分身体を解除していくことで、これまで分身が得た経験が集合する。
『レベルが6アップしました』
レベル225になった。
ステータスが上昇するから、途中途中で解除してレベルアップするのが1番効率が良い。
しかしたまには纏めて解除してみたくもなる。
このレベルになると、1レベル辺りの上昇値は誤差だから許して欲しい。
これからやろうとしていることの練習だとも、言い訳してみる。
SPは46貯まったが、生体模写の強化にはまだ足りない。
強化に必要なSPは訓練で93に減らしたから、追加で必要なSPは47。
オレは290階層まで挑戦権が解放されているから、問題なく強化できる範囲だ。
そして、10月が終わる前に250至ることができた。
先日から分身を271階層と274階層に分けてレベル上げを開始。
11月7日頃には283階層で活動するようになり、レベルも270に到達。
「さっそく上げるか」
強化に必要なSPも91に減って貯まっているSPも丁度91になった。
膨大なSPを必要とするから緊張感も大きい。
オレは目を瞑り、祈りながら冒険者カードの画面をタッチ。
精神に書き込まれるかのような経験で確信を持ちつつも、ゆっくりと目を開け冒険者カードを確認した。
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―能力―
・生体模写レベル2【増強必要SP213】
・限界分身数:1272体
・限界生体数:256体
・限界同時操作数:512体
・限界生体模写数:2体
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他者をコピーした分身は、2体生み出すのが限界らしい。
錬斗以外を模写することは難しそうだ。
なんとなく分かる条件は、相手を理解すること。
戦闘中の行動パターンや内面を強く理解するほど制度が上がりそうだ。
だが、重要なのはそこではない。
精度に関しては燃費が悪い今現在は、まったく求めていない。
自身の分身を出せる数が激減するから、戦闘能力の合計値で劣ってしまう。
仮に自分以上の実力を持つ者を模倣しようとしても、一定以上の性能を引き出せそうにない。
重要なのは、模写体を生み出せる一点だ。
分身は基本的に、元になった人の人格そのままに勝手に動く。
模写体の場合、オレの意思はほとんど介入できない。
しかし逆に言えば、少しだけなら介入することができる。
その少しの介入が重要なのだ。
「こんなところか……。準備できたぞ」
「そうか……。いいぞ」
模写体を作った後準備が整い、勉強中の錬斗に呼びかけた。
錬斗は冒険者カードを持ち出し経験値を確認する。
そしてオレは分身を解除し、錬斗の模写体に経験値を流す。
『レベルが2アップしました』
残念ながら、全ての経験値を流すことはできなかった。
これまでの感覚から判断すると、3割といったところか。
残す7割は本体であるオレに還元された。
それを感じ取ってから、錬斗の模写体を解除する。
『天取錬斗のレベルが13アップしました』
「っ!?」
「おお。他人のレベルアップも聞こえるのか」
他者のレベルアップの場合、冒険者名を参照されるようだ。
藤嶺ではなく天取と聞こえているから間違いない。
その錬斗は驚きで体を強張らせている。
レベルが一気に上がって肉体的に違和感が発生したのだと思う。
模写体を解除した際、微量だがオレにも経験値が入った。
模写体が得た記憶的な経験は、見聞きした情報だけオレにも還元されたらしい。
技術的な経験が還元されなかったのが少し残念。
技術の継承が可能なのか能力のレベルを上げても不可能なのか、この辺りは要検証だ。
「……こんなにあっさり、13も上がるのか」
「前準備が少し面倒だけどな」
後で確認してみたら、模写体が得た記憶的な経験などは錬斗にも還元されていた。
錬斗の場合技術面の経験も還元されたらしい。
オレがレベルアップするほど、低いレベルの者が得られる経験値はより大きく上昇するはず。
レベル差がそこそこの錬斗ですらこれだ。
このまま続けても、250ぐらいまでは超速でレベルアップするだろう。
しかし錬斗に関しては実験に使っただけだから、しばらくはお預けだ。
「すごぉい! 上手くいったんだね」
「ああ。でもまだ割合が少ないから、もっと能力を磨かないとな……」
ドーレが賛辞を挙げつつスキンシップを取ってくる。
この子はスパイなわけだが、違和感を与えないためにも重要な情報以外を隠す気はない。
オレ自身の場合、能力の行き着く先さえ隠せれば問題ない。
後は地雷になり得るらしいから、レイナが転生者であることと、クマーが逆行者であることを内密にする。
事情を知っている人たちと打ち合わせをしたから、バレることはあるまい。
「では、冒険者活動の方針は訓練中心ですか」
「だな」
ムギの言うように、今後は訓練中心で活動させる。
オレ以外のレベル上げは重要ではなくなった。
ならば技術や精神面の修行をした方が有意義だ。
後は生体模写レベルを上げ、模写できる者を増やす。
せめてこの場に居るスイカ、ドーレ、ムギの3人は模写を可能にしたい。
これから先は、オレ自身のレベルが重要になる。
もう少し上がったら、またレイナに頼み≪ボスラッシュ≫をするのも手か。




