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33体目 心の距離

 ドーレは10秒ほどで考えをまとめたようだ。

 オレの腕を掴んだままゆっくりと素性を明かし始める。


「確かに私は悪魔だよ。名前は≪ドーレ≫。でも(だま)そうだとかそういうつもりじゃ……。家族はこの前死んじゃって、地下界は弱肉強食な面があるから周りに助けも望められなくて……。だから地上に来たの」

「…………」


 嘘はついていない。

 ただし断言するのを避けている。

 こちらに発言の補完をさせることで騙そうという魂胆(こんたん)だ。

 同情も誘っている。

 それでも助けて欲しいという本音が(わず)かに見えた。


――計画通り


 オレは内心ほくそ笑む。

 散々想定してきた道筋の1つに乗った。

 しかし……。


「なんでもするので、仕事をください……」


 その感情の根深さまでは想像しきれるものではなかった。

 抱き付いている腕により強く胸を押し当て、顔は見えないように下げている。


「なんでもって……」

「なんでもです」


 この時オレは、強い怒りの感情を覚えた。

 騙そうとしていることに対してではない。

 こんなことを言わねばならないドーレの境遇への不満はあると思う。

 しかし怒りの本質は別のところにある。

 自分自身に対しての怒りだ。


「……そんなこと言うな。問い詰めるようなこと聞いて悪かったな。2つ目の条件は無しでいい」


 少し反省せねばなるまい。

 裏切れないよう対処する気だったがやめにした。


「じゃあ…………」


 オレはドーレの頭に手を置き軽く撫でる。

 少し続けていると、力が緩んだので拘束から逃れさせてもらった。


「レベル差があるけどムギもパーティーに合流するか? まだ組んでなかったよな」

「塔也さんが良いなら……是非」


 レイナやクマーの行為に難色を示したというのに、オレも同じことをしてしまった。

 良い未来へ進ませるために必要なことだとしても、他者を操るようなことはしたくない。

 オレは魔塔内部に広がる空を見遣り呟く。


「本当、何してんだろうな……」

 

 どう足掻いても過酷な未来はやってくる。

 正しくオレが望んでいる未来へ向けて進んでいるはずだ。

 なのに(むな)しく感じてしまうのはなぜか。

 どんな想いで心を満たしても、すぐに冷め切り抜け落ちる。


 これは本当にオレが望んでいることなのか。

 レイナやクマー、もしくはその他の何者かに導かれているだけではないか。

 そう思うとどうしても、全てを投げ出してしまいたくなることがある。


「ああそうだ。ドーレ、学校とか家は?」

「学校は行ってないから活動はいつでも。年齢は17歳。家はホテルに泊まってて、活動拠点を探し中だよ」


 拠点が無いならば丁度良い。

 元々想定していたうちの1つの回答だから、予定通りに実行させてもらう。


「なら(うち)に来るか? 引っ越す予定だし、スイカも同姓が居た方が気楽だろう」

「すいか……?」


 望むままに他者を動かすことに罪悪感はある。

 しかしだからこそ、その想いを力に変えるよう努力せねば。

 尖兵を招き入れることによる危険性は呑み込むことにする。


「な、ならあたしも一緒に!」

「ムギには家があるだろ」

「自立します!」

「すんな」


 最近は好意を隠そうとしないから困りものだ。

 ムギは高校生なら自立しててもおかしくない境遇だがまだ中学生。

 それに居候するなら自立という発言も微妙になる。

 好意も憧れに近い感情なようなので、早く諦めることを願うばかりだ。


「ひとまず休憩にして、みんなで今後を相談するか」

「……はぁい」


 ドーレの口調が戻った。

 真面目モードが解けたか。

 演技派らしいから油断はできない。

 表面上は普通に接するとしても、内心は警戒しようと思う。





 相談した結果、本格的な活動開始は少し後にした。

 オレは自身や能力のレベル上げを優先したい。

 それにスイカやドーレには基礎知識がない。

 錬斗を含め1月ほどは知識を詰め込む予定だ。

 その後は模写具現での実験が上手く行くかどうか次第で方針を決める。


 全員の了承も得て、日が沈む前に訓練を終えた。

 そのまま解散と行きたがったが、ドーレがさっそく家に来たいと言う。

 尖兵としては距離が近いと都合が良いのだろう。


 部屋は1つしかないから3人で寝るには流石に狭い。

 それでも物理的にも精神的にも距離を近づけるチャンスだ。

 そこで試しに「オレと同じ布団になっても良いなら」と言ってみたら、乗ってきた。

 スイカも同じ部屋なわけだから、手を出される可能性も低いはず。

 後は暗殺を仕掛けられないよう、あるいは仕掛けられても無事で済むよう細工するしかない。


 最終目標は心の距離を限りなくゼロにし、こちらに寝返らせることだ。

 相当難しいことだが、頑張ればなんとかなると信じるしかあるまい。


 裏切られるのは嫌だし怖い。

 しかしドーレが尖兵であることをオレは知っている。

 裏切られることすら想定内なら、それはもう裏切りとは言えまい。

 オレの期待が裏切られる可能性が(つい)えるならもはや無敵だ。

 そんなアホなことを考えながら、その日は暗殺を恐れるあまり、分身にドーレと同じ布団で寝てもらうのであった。



 そして本体は、魔塔の攻略を開始する。

 1週間ほどの短期間で肉体を鍛えただけだが、ステータスも能力も多少は安定した。


「準備はよろしいですか?」

「ああ。始めるか」


 ここ数日はレイナと魔塔の攻略について話し合いを重ねた。

 その時に地下100階層のボスを無傷で倒せれば、都合の良い緊急クエストを発生させられると聞かされた。

 地下100階層の安全マージンは110だから問題なく倒せるはず。

 倒し終えたら、≪ボスラッシュ≫の始まりだ。


――塔也から各キャラクターへの感情数値化――(付き合いが短い人ほど変動しやすい)


 憧れ:親愛:恋愛(基本的には100が上限)

のぞみ50-50=0:100-95=5:100-100=0←両極端に持ち合わせて相殺している

智恵25:25:20

レイナ0:20:15←最近親愛度が80ぐらい減って10ぐらい回復した

ミナミ0:80:45←実は相思相愛。しないが、両者共にプロポーズしたらギリギリOKする

ムギ10:75:5

クマー15-15=0:5:マイナス25

清川5:60:0

双樹0:30:0

錬斗60:55:0

窃盗丸0:90:0

スイカ0:75:0

ドーレ0:100:0


憧れ50=自身もそうなりたいと想い行動したりファンになりだすレベル

親愛50=その人のために忠告できるぐらい(100なら死ぬかもしれない危険に飛び込める)

恋愛50=告白でOKを貰えるぐらい

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