32体目 身バレ
みんなが帰宅してようやく一息つける。
体力的には平気なのだが、精神的疲労感には抗えない。
だが家に人が集まったのは悪いことでもなかった。
最初は硬かったスイカも、レイナに着せ替え人形にされるうちに緊張がほぐれてくれた。
途中からはムギも参加して、オレについて色々話したらしい。
酷使するつもりがないと分かったようだ。
今も本を読んでいて我が家のように過ごしている。
実際のところ我が家には違いない。
それでも図太い面があるのは王宮に侵入した時点で明白だ。
奴隷になってこれとは、ある意味での才能か。
奴隷は主とのあいだに、奴隷紋として呪いを施される。
使う気はないが、その気になれば対象を殺せるほどの呪いだ。
外傷の残らない痛みを与え、命令を強引に聞かせられる。
命令に抗うから仕方なくという理由なら、奴隷紋によって健康面などが損なわれても警察も動かない。
主を悪意を持って攻撃しようとすれば、自動で耐えがたい激痛が走る。
万が一主が死んだ場合でも、道連れとして処刑されるのがデフォルトの契約だ。
道連れにしないよう変更する場合も、奴隷に伝える者は多くない。
統計的に見ても、明らかに事故が増えるからだ。
「あの……。冒険者活動をしたことがない私をなぜ買ったのか、聞いてもいいですか? そういう目的でもないようですし……」
「……うーん。投資みたいなものか……?」
「投資、ですか?」
オレが扱えない水魔法が扱える。
生態模写の実験材料。
期待はしてないが、もしかしたら戦力になるかも。
その3点が理由。
もう1つ重要な理由もあるが、それは機会があるかすら不明だ。
「気楽にな。上手くいかなくても責めたり待遇を変える気はないから」
「は、はい……」
勿論、こちらを舐めるような態度だったりは別。
あくまで≪奴隷≫という理由で判断する気が無いだけだ。
個人的な人としての好き嫌いでの対応はさせてもらう。
翌日はさっそく、水魔法についての考えを聞いてみた。
理論も感覚も分かり易く説明されて、オレは水魔法についての知識を深めた。
そして水魔法を修得するのに必要なSPが増加した。
「なん……だと…………」
冒険者カードを見た時、思わず呟いてしまった。
なぜ修得が遠ざかったのかは理解できる。
理論や感覚を聞いたがために、余計に意味不明になってしまったからだ。
魔法は物理学を無視して使用している者も多い。
なので魔法を理論派で使っている人物であるほど修得から遠ざかることもある。
そんな不毛な訓練をしている最中ついに来た。
「あのぉ、少し良いですかぁ?」
「何?」
天上界からの尖兵である0017号こと、≪ドーレ≫だ。
配信者を装ったスパイだと聞いているが、まだ配信は開始していないらしい。
「この前の決闘見ましたぁ! あーし、それでファンになっちゃってぇ……。一緒に写真撮っても良いですかぁ?」
距離が近い。
両手にスマホを持ちながら媚びる感じにも不自然さは感じない。
事前に知ってなければ騙されていたと思う。
「ネットに拡散しないなら良いよ」
「やったぁ! じゃあじゃあ、あっちで撮ろぉ?」
実のところ最近、撮影を希望する者が来ることが多い。
どういうわけか自宅の場所がバレてしまったようで、学生などが多く来る。
写真を取るだけならまだ良い。
だが動画配信や撮影投下を交渉してくる者も居る。
特にオレが地下入り冒険者だと知って、お近づきになろうとする女子学生が何人も来たのが面倒だった。
ムギがここ毎日来ていて助かった。
兄を口実にしているのは分かった。
それでも学生を追い払うのが楽になるので許容している。
「ありがとぉ。待ち受けにするねぇ」
写真も撮り終わったが、これで終わりということもあるまい。
資料を作るための写真の可能性は無い。
オレの画像などネットで探せば拡散されている物がいくつも存在する。
毎度拡散しないように言っても、こればかりはどうにもならないものだ。
「キミ、もしかして冒険者か?」
「分かっちゃいますかぁ? 実は最近なったばかりで、良ければ色々教えてもらえたら嬉しいなぁ」
先ほどからスキンシップが多い。
身長は低いがスタイルは凄く良い。
資料によると身長や体型の操作はできるらしい。
低身長で庇護欲を誘い、大きな胸で別の欲も誘っているのだろう。
罠だと分かっていても悪い気がしないのは、もはや生物としての本能か。
「すいません。そういうのはお断りしてるので」
「良いよ」
「えっ!?」
ムギが割り込んできたが、オレは容認した。
これまでは断ってただけに驚きを隠せないようだ。
「スイカに教える必要もあるしな。条件が呑めるならだけど。えーっと、名前は?」
「名前は0017号でぇす! 条件ってなんですかぁ?」
「もしかして塔也さんって、そういう趣味ですか?」
「違う」
ムギがとんでもない誤解をした。
オレは断じて小さい子に欲情するような趣味は持ち合わせていない。
「えーっと、条件だったな。条件は2つある。1つ目は素性を教えて欲しい、2つ目はその答え次第だ。上手く隠してるようだけど、人間じゃないよな。亜人でもなさそうだし、悪魔の類か」
「えっ……」
「悪魔……!?」
ムギは武器に手を掛けた。
しかしオレは、腕に抱きつかれつつも無警戒を続けた。
こちらからの害意はないという意思を伝えるためだ。
「そんなぁ。変わった魔力かもしれないけどぉ、あーしは列記とした人類ですよぉ?」
「それならそれでも構わないけどな。条件や対応が変わるだけだから。せめて本名は教えて欲しいけど、本当に素性は明かせないってことでいいのか? 3分間待ってやる」
「…………」
尖兵であることまで明かして欲しいとは望まない。
だが少しでも素性を明かしてこちらに寄り添ってくれるなら、オレも可能な限りのことをさせてもらう。
ここはドーレにとっての、大きな分岐点だ。
――各キャラクターから塔也への感情数値化――(人によっては頻繁に上下してます)
憧れ:親愛:恋愛(基本的には100が上限)
のぞみ30:100:75
智恵0:50:50
レイナ100:30:測定不能
ミナミ0:90:50
ムギ80:35:35
クマー測定不能:測定不能:マイナス50
清川0:75:0
双樹50:65:15
錬斗0:10:0
窃盗丸100:100:(忠義100のため)測定不能
スイカ0:5:0
憧れ50=自身もそうなりたいと想い行動したりファンになりだすレベル
親愛50=その人のために忠告できるぐらい(100なら死ぬかもしれない危険でも飛び込める)
恋愛50=告白でOKを貰えるぐらい




