30体目 奴隷の購入
オレは錬斗を呼び出し、生体模写の練習台になって貰った。
能力名の通り錬斗をコピーして実体化する。
真似事ではなく、本人を実体化させる辺り尋常ではない能力だ。
簡単に身に付く技術ではないが、これができれば応用力がかなり高まる。
能力が進化したのに模写ができない原因は、精神に技量が追いついてないから。
それと他者と関わることで発動できる能力でもあるからだ。
能力に振り回され制御しきれない事例は時々聞く。
本来なら技術力もスキルポイントを使用したりじっくり訓練することで身に付くものだ。
しかし精神的に急激な成長や暴走をすると、制御しきれなくなる。
オレ自身で言うなら氷魔法が暴走で、生体模写が成長による技術力不足を起こした事例か。
現状オレには不足しているものが多い。
レベルに対して体力と魔力以外のステータスが低い。
そして高い火力の攻撃手段や分身以外の技術力も無い。
魔力の数値は同じレベル帯の冒険者の中ではかなり高い方だろう。
それでも≪技≫を持っていないから、魔法の威力は特化型の人の3分の1程度か。
そろそろ1度、レベル以外の部分を磨くべき時だ。
こういう時分身からの経験の還元は実に役に立つ。
技術面は精神的部分なので素早く磨き上げることが可能。
肉体面も体力が増えてきた今なら、分身の数を減らして鍛えても効率は悪くないはず。
これもレイナがくれた指輪が、天の試しの報酬で強くなったお陰だ。
分身は8体出し3体を魔法の訓練に。
3体を錬斗との生体模写の訓練に。
1体が両方を離れた場から見て客観的に意見を述べる役目。
本体は自宅で筋肉を付けるためのトレーニングをしている。
そして残す1体の分身は、奴隷の購入へ向かわせた。
購入するべき奴隷……仲間にするべき奴隷の候補は絞った。
特に、カタログに載っていた奴隷に落ちた理由や、冒険者活動を強く希望するかを参考にさせてもらった。
希望以外の仕事も命令すれば拒めないが、モチベーションは大事だ。
やる気の無い者を購入する気はない。
落ちた理由も、本人に落ち度が無い人物を選ばせて貰った。
普通なら犯罪行為で奴隷に落ちた者を仲間にした方が遠慮なく使い潰せそうなものだ。
しかしオレの場合、遠くない内に情が移って甘くしてしまう。
ならば最初から、甘くし甲斐のある者を選らんだ方がマシだ。
技能面では後衛タイプの人を中心に絞った。
壁役にするのは気が引けるから、前衛は錬斗に頑張ってもらう。
そもそもオレの能力を考えると前衛は邪魔にすらなり得る。
パーティーが見つかるかは不明だが、錬斗も別のパーティーで活動させるのがベスト。
仲間は後方から支援や攻撃をできる者がいい。
結果候補に選んだのは3人。
後方支援職を希望するレベル91の馬人族と人間のハーフの女性。
高火力の魔法を扱えるレベル48の梟族の男性。
冒険者登録だけしている、まだ外国語を聞き取れないエルフの女の子の3人だ。
残念ながらオレの収入では、地下に入っている冒険者を購入することは不可能だった。
エルフの子は種族的に大人気なため、年齢や能力とは不釣合いに3人の中で1番高額だ。
若く弱いのが良いと言う者が多そうなところからは目を逸らす。
これから面談を経て買うかどうかを決定する手筈になっている。
重要な事柄だ。
本体も分身と五感を共有して確認する。
1人目はダメだ。
話してて分かったが、冒険者としての気概を感じない。
冒険者活動も、家事全般に対してのやる気もある。
だが安全な階層に留まり、比較的楽な生活を望む者だった。
冒険者から落ちた奴隷の王道なのだが、オレの目的とは合致しない。
2人目は悪くない。
地下が解放されたことで冒険者としての熱意が戻ったらしく、上を目指す主人を強く希望している。
だが、値段が高い。
そして才能があるようにも見えない。
同じレベルだった頃のオレの方が、数倍強い魔法を使えそうなぐらいだ。
これで人気沸騰中だと言うから反応に困る。
高くなっている理由は地下が解放されたからだろう。
需要が大きく増したに違いない。
「私の能力はどうですかな!? 多種族の中でも高い魔力を誇る梟族! その中でも神童と言われた自慢の魔力と魔法です! 主になっていただいた暁には、全身全霊で尽力させていただく所存であります!」
「……そうですね。一応全員の面談を終えてから決めようと思います」
「はい! 良い返事をお待ちしております!」
会話での印象も悪くはない。
悪くはないのだが、年上なせいか敬語が出てしまう。
そして最後の1人と会って、オレは驚いた。
エルフの魔力は高いと聞く。
カタログで見た8歳の子が魔力値で、人間の成人男性の10倍以上だというのも凄まじいとは思った。
だが実際見てみると、数値以上にその純度が素晴らしいの一言に尽きる。
魔力が自然と一体化している。
純度と流れがこれだけ綺麗な魔力を見たことが無い。
他のエルフを見たことはある。
しかし魔力を隠蔽している者しか居ないのか、はっきりと魔力を感じ取ったのは初めてだ。
『≪スイカ≫です。よろしくお願いします』
『よろしく』
日本語の聞き取りはできないらしいから、お互いに魔力を込めた言葉での会話だ。
これなら両者が何を言っているか通じる。
魔塔の内部では必須ともされる技能だから、オレは聞き取り変換の技術まで扱えるようになった。
仮に相手が魔力を使えずとも、外国語を聞き取ることが可能だ。
魔法の扱いが苦手な場合は、言葉で苦労しない階層で活動することが多くなる。
挨拶が済んだ後は質問を繰り返した。
性格は礼儀正しく素直そうだ。
一応経歴に嘘が無いか確認するため、本人の口から言わせてみた。
作り話であればどこかに違和感を残すはず。
目線、動作、魔力の流れ、体温、声の高さなど、全てを誤魔化すのは一流の者でも難しい。
オレは能力の関係もあり、散々人の観察を続けてきた。
早々誤魔化せるものでもない。
騙される可能性があるとすれば、真実を話しつつ誤認させてくる手段を取られた場合か。
「――といった感じです」
「……そっか。嫌なこと聞いて悪かったな」
「いいえ! このぐらい全然……」
少し落ち込ませてしまった。
年端も行かない少女を試すような真似をするのは嫌なものだ。
だが店の性質上どうしても、疑いは晴らしておきたかった。
奴隷に落ちた事情に嘘はなさそうだ。
オレは仲間にする人物を、この子に決めた。
―キャラクター紹介③―
本名:スイカ
冒険者名:水華(塔也が名前の語感から漢字当てて登録した)
髪:ロング・青(お尻に届くぐらい)
目:二重
年齢:8歳
血筋:エルフ
誕生日:2月15日
身長:117cm
体重:21kg前後
一人称:私
武器使用頻度:杖(水魔法)>魔術書
夢:学者になること
行動理念:興味のあること(魔術や本)に対して接触的に動く
性格:素直・礼儀正しい・負けず嫌い・マイペース
趣味:読書・魔術研究
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履歴(主にカタログに載っていた内容)
エルフでは珍しい王都で暮らしていた両親を持ち、5歳の時に魔術関係の事故で両親を亡くした。
祖父祖母は街からやや離れた土地に居るが、周りの協力を得つつなんとか1人で暮らしていけた。
しかしある時、自宅に盗みに入られ両親から貰った大事なペンダントを盗られてしまう。
両親が残した財産も底を突きはじめた時偶然、王宮で働く偉い人の手にペンダントが渡っていたことを知った。
なお、知れた理由が天からの啓示であったことはカタログに記されていない。
口論の末スイカが王宮に盗みに入ってしまい逮捕された。
場合によっては死罪もありえたが、奴隷の身分に落ちるだけで済んだ。




