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26体目 動き出す尖兵

 戦闘が再開されると同時に、分身たちは錬斗の周りを走り回った。

 どれが本体か分からなくするための行為だが、本体はそこにはいない。

 そのまま持久戦に持ち込み相手の疲弊を待つのみだ。

 氷魔法で体温を奪えば、より早く体力が尽きてくれるはず。





 ≪気力操作≫を要する技能は、レベルが高いほど体力の消耗も激しくなる。

 分身も性能が上がるほど運動能力が上がり、消耗も増える。

 それでも無駄な体力の消費がほぼなくなった分、短期決戦を仕掛けなければ8体ぐらいの維持は可能だ。


 オレが分身以外の大技を魔法しか使用しないのは、体力の消費を減らすため。

 だが錬斗は体力をどんどん消費する短期決戦趣向の物理アタッカーだ。

 その差は時間が経てば経つほど大きく出てくる。

 一気に決めたくても相手を殺してはいけないルールがある。

 しかも分身をいくら相手にしても無駄でしかない。


「はぁ……はぁ……」


 当然こうなる。

 錬斗は息も絶え絶えで、流れる汗も凍り付いている。

 会場は広いが、冷凍庫の中に居るような寒さだ。

 途中から二刀流に変更して、集中力も切れてきた。

 この状況下で1時間以上も粘っただけで凄まじさが伺える。

 大技を使っていなくても、恐ろしさを覚える体力量だ。


 オレも攻防においては殺しが禁止なため攻めあぐねた。

 殺意のない魔法では大きなダメージは与えられない。

 そのため一方的に分身を削られ続けた。

 分身の消耗が激しく、3体を維持するのがやっとな状態に追い込まれたぐらいだ。

 冷気の影響は分身にも出るから、半分は自滅だが……。

 本体が安全な場所で増強剤などによる補給をしていなければ耐えられなかった。


『おおっと! ここで天谷錬斗が動きを止めた!! 流石に疲れが出たかぁ!? それにしても寒ううぅい!!』


 この隙を逃すほどオレは甘くは無い。

 数を減らしたことによる分身の連携は並みではない。

 鳩尾(みぞおち)やアゴなど、呼吸を合わせて隙なく連撃を浴びせた。


「おぼあっ――!」


 打ち上げられた錬斗はそのまま背中から倒れ、起き上がれない。

 2倍近いレベル差があったのに体力切れに持ち込まなければ勝てなかった辺り、将来性は世界有数のものか。


「お前はよくやったよ。でも――」

「……まだだ」


 錬斗の宣言を聞き、オレは攻撃準備に入る。

 それを見て審判が止めに入ろうとするが、その前に錬斗の様子が変化した。


「ムギのためにも、絶対負けるわけにいくか……!!」

「…………」


 思わず見惚れてしまった。

 生命力が目に見えるほどに強く光り輝き、蒸気のように立ち昇っている。

 おぞましい執念の(たぐい)ではない。

 善性の者が放つ命の輝きだ。


「凄いな……。ここからそこまで力を出せるのか」

「ムギのことを想えば、いくらだって力は湧いてくる……!!」


 ここまで前向きな気迫は見ていて好感が持てる。

 決闘を挑んできた理由はバカらしいが、誰かのために動けるバカは嫌いじゃない。


 錬斗は戦闘中も、治療が比較的簡単な範囲での攻撃しかしてこなかった。

 ルールのことも考えての殺意低めの攻撃だろう。

 それでもこれだけの時間戦っていれば、錬斗が善人だということは分かる。


「悪いが、ここからは容赦しない!」


 気付けば上半身と下半身が泣き別れしていた。

 このままではオレの綺麗で健康的な内臓が全国公開されてしまう。


「――ちょ! 不味いだろこれは……!」


 なんとか繋ぎなおそうとするが、分身はその前にサイコロステーキにされた。

 仕方ないのでその分身は消して、エネルギーを可能な限り回収する。


「おまえな……。細切れとかするか普通……」

「本物はそっちの方か、あるいはお前も分身だろ……」


 分身だと確信を持っていなければこんな真似はできない。

 オレは汚れの再現などを微妙にずらしたりで、≪本物はこいつだ≫というアピールを分身1体にさせていた。

 だがそれでも……。


「もし斬ったのが本物だったらどうする気だよ」

「その時は事故だ」

「おい」

「分身の1体が本物であるかのように振舞っていたようだが、流石にこれだけ戦えば違和感を感じてな。戦闘中会場を探してみたら、ついさっきあそこにお前と同じ気配(・・)を感じた。だから斬った」


 戦闘中にそこまでしていたとは気付かなかった。

 思った以上に冷静な行動を取れるらしい。


「分身だけで戦ってたのに文句はあるか?」


 この問いに対しての答え次第で、分身だけで戦うかを決める。

 だがなんとなく、どういう答えが返ってくるかは解かった。


「ない。距離が取れるなら……本体が戦場に出るのは愚策だしな。だけど気付けたからには……出てきてもらおうか。会場の人は巻き込みたくない」

「いいだろう。けど覚悟しろよ?」


 錬斗の実力なら、分身を無視して本体の下にまでこれる。

 もし文句を言おうものなら殺してしまう可能性はあるが、分身の自爆攻撃を仕掛けるところだ。

 だがこの作戦に理解を示すなら、こちらも錬斗の提案を受け入れさせてもらう。

 本体であるオレは、高い位置にある観客席から風魔法を利用しつつ跳び降りた。


「ここから先は……」


 ――消耗度外視だ。

 そう言おうとしたところで、錬斗が倒れた。


『ああっ! 天取錬斗が再び倒れたああぁぁ!! 体力の限界を超えていたのかぁ!?』


 先ほど分身に放った一撃で体力を使い果たしていたようだ。

 再び力を入れたところで、張り詰めていた緊張の糸が切れたのだろう。

 審判が呼びかけても動かない。


『審判がストップを掛けました!! ここで試合終了!! えー、飛び降りて来たトウヤ選手は、なんだったのでしょう?』

『どうやら本体は離れた位置に隠れ、分身のみで戦っていたようです。事前に審判に確認していたのでルール違反ではないです。それに気付ける要素をトウヤ選手はわざと(・・・)作っていました。賛否はあるでしょうが、私はアリだと思いますよ』


 解説に呼ばれた≪カグツチ ホムラ≫氏も気を使ってか、オレの戦術に肯定的な発言をしてくれた。

 彼には分身のみで戦おうとしていることを事前に見抜かれた。

 流石は日本在籍の最上位に君臨するパーティーのリーダーだ。

 どういうつもりかと、試合開始前に挨拶がてらで確認をされた。

 オレが審判には伝えてあると言うと納得もしてくれたから、悪い印象は持たれていないはず。


『試合も終了したので、冷えた会場を暖めておきましょう』


 そう言ってホムラ氏は、青い炎を会場の上空に発生させる。

 オレが時間を掛けて冷やした空間を軽々と戻された。

 やはりまだまだ、実力差は大きいか。





 錬斗は念のためすぐに医者に運ばれた。

 無傷のオレは会場を後にすると、マスコットキャラがオレを待ち受けていた。

 白い翼を生やしたクマといった感じのキャラだ。


「お疲れクマー! 見事だったクマー!」

「何やってんだお前……」


 声と気配でクマー本人であることが分かった。

 名前的にはハマリ役ではあるが、中身を知っていると残念感が凄い。


「あー、いや。丁度良いバイトがあってさ。それより早めに伝えておこうと思ってね」

「何を?」


 双樹の件なら、上司がやったことで間違いないと確認が取れた。

 なんでも異世界の戦力を取り込むべく、その役目を適任である双樹に任せようとしたのだとか。

 天上界とも地下界とも別の、この世界とまったく関わりの無い異世界らしい。

 テイマーが魔物に戦わせるのが主流の国に送り込んだと聞かされた。


「この会場に来てたよ。天界からの尖兵(せんぺい)。これがその尖兵ね」


 クマーは写真を手渡してきた。

 見ると、写っているのは赤い髪の子。

 サイズが合っていないペンギンのパーカーを着ていて、手が袖から出ていない。

 体格はいまいち判別できないが、身長はムギよりもやや低いか。


「子供……?」

「自称17歳だよ。隷属系配信者の≪0017号≫ちゃん。まだ配信は開始してないみたいだけどね。年齢は計算上もっと上なはずだけど、精神的にはどうだろう?」


 この見た目で17歳というのはどうなのか。

 0017号というのも、本名ではなさそうだ。


「この子は配信者関係から情報収集する役目なんだ。今回のことで結構注目を浴びちゃったし、接触してくるかも。別の時間軸で小並ちゃんとも関わったことがある子だし、西寺ちゃんに聞けば詳しく分かるはずだよ」

「ああ。聞くことにするよ」


 返事を聞いたクマーは、「クマーーーーー!」と叫びながら会場へと走って行った。

 一体どのようなバイトを引き受けたのだか……。




―キャラクター紹介②―(レイナに渡された情報)


本名:ドーレ

冒険者名(配信者名・奴隷番号):0017号


髪:赤髪・セミロング

目:垂れ目

年齢:不明

血筋:ペンギンっぽい悪魔と低級の吸血鬼のハーフ

誕生日:7月77日(9月15日)

身長:139cm(変化可能)

体重:ひみつ(変化可能)

一人称:アタシ・あーし・ごく稀に私

武器使用頻度:自動人形


夢:自由になりたい

行動理念:虐待されたくないから命令に従う


性格:嘘つき・演技派・一途

趣味:人形遊び


________

履歴

幼少期に両親を殺され、地下界(魔界)天上界に拉致された。

そこから奴隷としての日々を長年送り、自身の年齢も分からなくなる。

せめて実験体にされないために命令に従い虐待も受け入れた。

どういう苦しみ方をすれば相手が喜び満足するかを学び、演技も身についていく。


怪我を負っても種族の特性で治り、苦しみ方も気に入られ、他に拉致された者とは違い実験体にはされずに済んだ。

実験体にされてなお自我が残ったスライムの子とは大親友。


情報収集の任務を受けた現在でも、主である中位の天使から虐待される日々を送っている。


奴隷の証として(くさり)付きの首輪と手枷(繋がってはない)を付けられ、心臓(霊魂的部分を含め)を魔術により握られている。


9月15日は地下界では生涯に渡り苦渋(くじゅう)を背負いその後死ぬと言われ不吉な数字とされている。

両親に「なら7月77日だ!」と言われたのを覚えていて、その言葉を信じて待遇に耐え続けた。

777の数字が意味する通り、これまで耐え忍び続けていた努力が報われ望みが叶う日を待ち続けている。

配信を始めた理由は、「私を見つけて欲しい」「助けて欲しい」という一心から。




__


この子が尖兵だと聞かされる小並塔也の心境は如何に……!

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