24体目 決闘準備
9月も後半に入り、今月の給料明細が渡された。
天の試しに挑んだり地下では調整してたこともあり、額は少し控えめだ。
それでも地下でしか手に入らない素材も多く、先月よりは多い。
気分が良くなりそうなそんな時、突然肩を掴まれた。
「おい、お前が小並塔也だな!」
そこに居たのは見たこともない男性。
年齢は中高生といったところか。
よく見れば、傍にムギも居る。
「お兄ちゃん! いきなりそんなことしちゃ失礼だよ!」
「お兄ちゃん?」
「誰がお兄ちゃんだ! お前の兄になった覚えはない!」
「変なこと言わないでお兄ちゃん!」
お兄ちゃんというと、施設に在籍するムギの年上に当たる人物か。
亜人としての特徴は頭部の左右にある20センチ近い羽数本。
施設で見た覚えがないのは、オレが忘れているだけか。
「えっと……塔也さん。この人は≪藤嶺 錬斗≫って言って、最近判明した腹違いの兄なんです」
「≪天取 錬斗≫だ。あのクソ親父の名前は捨てたと言っただろ」
オレが疑問に感じていることに気付いたのか、自己紹介してくれた。
家庭環境が多少複雑だとは聞いている。
しかし息子にこうまで言われる親とは、いったいどのような者なのか。
天取錬斗という名を聞いてか、周りの人がざわめきだした。
有名な人物なのだろうか。
「それより小並塔也! オレと決闘しろ! 負けたら金輪際ムギに近づくな!」
「決闘ねぇ……。それってムギは承知済みなのか」
日本では決闘は禁止されている。
あっても基本的には、木刀などを使用した試合形式のものだ。
それでも流血沙汰は後を絶えないが……。
形式上だけの決闘をしたところで、人の感情は抑えられない。
国として許可できないだけで、 順路立ててちゃんと場所とルールを用意すれば、命を奪わない範囲での決闘は可能だ。
この場合は方便上≪決闘≫ではなく、≪試合≫と呼ばれる。
あくまで決闘は違法だというのを強調したいらしい。
「ムギは関係ない!」
「大ありだよ! 勝手に話を進めないで!」
「やっぱり不承知か」
本人の意思を無視した決闘に何の意味があるのか。
お互い譲れないものを賭けて戦うからこそ、決闘には意味がある。
「ムギ! お前は騙されてるだけだ」
「あ?」
聞き捨てならないことを言われた。
よりによって騙すなどありえない。
思わず反射的に威圧的な態度をしてしまった。
「どうせ美味い汁を吸いたいだとか、ムギの可愛さに釣られた輩だろ。担当になったからって、お近づきになれると思ったら大間違いだ。そんなことはオレが許さない」
「……決闘って言ったよな。なら命賭ける覚悟あるんだろうな?」
「塔也さん!?」
やってしまった。
逆鱗に触れられて気が昂ったのもあり、売り言葉に買い言葉になった。
最近は感情を揺さぶられることが多かったのも原因か。
だが引く気はない。
相手から仕掛けてきたのだから、煽り返させてもらう。
「とは言ってもお前の命なんて要らないし、条件が釣り合ってないな」
実際、命を欲しいとは思わない。
決闘をしてもこちらにメリットがない。
「どうしても決闘したいならメリットを提示しろよ。お前は何を賭けるんだ」
「もし勝てたらムギと……会うだけなら……いや……だが……」
「ふざけんな。何かを失う覚悟もなく決闘を申し込もうとしてんじゃないだろうな」
ムギと会うだけなら許すと言う気だったようだ。
しかも葛藤具合からして、条件を引き下げようとすらしている。
許可など得ずとも、ムギの意志を優先するなら普通に会う。
錬斗からの許しなど、オレにとって何のメリットにもなり得ない。
「……ならもし俺が負けたら、お前の下僕にでもなんにでもなってやる!」
「待って! 無視して話を進めないで!」
ムギは持っていたバックを振り回し錬斗を殴りつけた。
兄とはいえ自分の自由意志を無視されそうなのだ。
反感を買うのも当然か。
とはいえ、ここはオレから言わせて貰う。
「ムギ。悪いけど錬斗は叩きのめさないと気が済まない。自由意志の権利はムギにもある。けどそれは、オレにも言えることだ。だからオレから賭けさせて貰う。決闘で負けたら二度とムギに関わらないって」
「そんな……」
オレの意志で関わらないと決めたなら、もうムギにも口は出せない。
もし出そうというなら自身も相応の覚悟を示すことだ。
賭けようとしてるものが大きいから、簡単にはできまい。
「確認するぞ。賭けるものはオレがムギとの全面的な接触行為の禁止。お前は人生そのもの……」
「ちょっと待て! 下僕とは言ったがそれは……」
ツッコミが入るかと思い溜めを入れたら、案の定入ってきた。
なので退路を絶たせて貰うことにする。
「オレの生涯を縛ろうとしてるのに、縛られる覚悟はないと? それともお前のムギに対する気持ちはその程度ってことか」
明らかに不平等な賭けだ。
だがオレへのメリットはほぼないのだから、欲張らせてもらう。
ムギへの気持ちが人一倍強いのは分かった。
その部分を持ち出せば否定はできまい。
「ぐっ……。良いだろう。負けたら一生お前に付き従ってやる! 俺が勝った時は約束は守ってもらうぞ!」
「挑まれた側だからルールはオレが決めるぞ。文句とか質問があれば、調整するから始まる前に言え」
「……ああ」
周りからの視線が鬱陶しい。
場所が場所なだけに、かなり目立ってしまった。
秘密裏での決闘はできそうにない。
ならば観客も利用するぐらいの気概で挑むまでだ。
時間を掛けて相談しつつルールを決めた。
武具やアイテム、能力の使用などは全てあり。
当然ながら観客からの妨害行為は禁止だが、オレは分身を使うと宣言した。
「これも能力だ。卑怯とか言わないだろうな?」
「構わない。何人が相手になろうと関係ない」
という風に、術中にハマってくれた。
多対1になるという意味で言ったわけではない。
会場の用意などは面倒だが、心当たりはあったので予約なども手早く済ませていく。
試合場所はその建物の敷地内で、その範囲から出たら負けとさせて貰った。
これで本体は観客に混ざり、分身にだけ戦って貰うことができる。
オレなりの平時の戦闘方法が安全地帯からの分身突撃だ。
バレたら面倒ではあるが、文句を言われる筋合いもないだろう。
それに中後衛であるオレに、前衛っぽい相手に正面から戦えという方が理不尽だ。
材料は揃っているのに気付けない時点で、討論では錬斗の負けだ。
次に勝敗の決め方。
相手を死に至らしめたら負け。
相手に敗北を認めさせたら勝ち
ドクターストップはあり。
ただし誤診の場合は決闘再開。
戦闘時間が3時間を超えても決着しない場合、赤の他人に判定してもらう。
錬斗のレベルの検討は付くが、確認はさせてもらった。
オレが地下入りを果たしたことをムギは知っている。
錬斗に情報が行っている可能性は高いので、あえて地下入りしていることを伝えた。
すると律儀に、「俺はレベル96だ。地下入りしたてなら相手としては不足ない」と言ってきた。
地下入りしたてとはいっても、レベルが184あるのは内緒だ。
こういう率直な性格の者は、複雑な能力を持ち合わせてるケースはほとんどない。
不確定要素も消えたから、オレの勝利は決まったも同然だ。
勝てる……はずだ……。
―キャラクター紹介①―
藤嶺 錬斗(天取は母方の苗字)
冒険者名:天取錬斗
髪:黒髪(若干青)
目:二重
年齢:16歳
血筋:3/4日本人・1/4ハヤブサの鳥族
誕生日:9月17日
身長:168cm
体重:55kg前後
一人称:俺
武器使用頻度:片手剣>>片手剣二刀流
夢:ムギとの結婚(無理)
行動理念:冷静に物事の善悪を考え、法律違反でも己の正義に従う(ムギが関わるとバグる)
性格:冷静・神経質・几帳面・シスコン
趣味:鍛錬・サイクリング
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履歴
幼い頃から父親から虐待紛いの扱いを受けていた。
中学では親の許可が必要でなれず、卒業すると同時に家を飛び出し念願の冒険者になった。
破格の才能を持ち合わせ僅かな期間でレベルを上げ、もうすぐ100に至る鬼才。
雑誌の取材を受けたりテレビにも出たことがある。
学校が夏休みに入った頃、清川から同じ苗字の者を知っていると言われ、ムギを探し出す。
そして過剰なまでに溺愛しだし、妄想を膨らます。
――Q&A――
読者:錬斗さんは冷静に見えませんが、ムギが絡んだことに加え短期間でレベル上げた自信で冷静さを失っているのでしょうか。
作者:冷静さを失っている理由の成分は、ムギが絡んだことによるものが100%を占めています。




