22体目 帰還
天使長との戦いが始まった。
最初、オレは見ていることしかできなかった。
気づけば敵が消え、レイナが出した薄緑色の盾に守られる。
動きを予測したクマーが釘を投げる―かと思いきや、言葉を放った。
『その矛は遠隔の盾すら壊せないんだね。ねえどんな気分? 簡単に防がれてどんな気分?』
天使長の敵対心が明らかにクマー向いた。
狙いを変え突き進むのだが、単調で遅くなっている気がする。
そのままクマーにランスを突き出し――。
地面から生えてきた複数の釘に貫かれた。
「残念でした! 貫くつもりが貫かれちゃったね。ダメージは見た目ほどないよ。ただ、大幅な能力減退が発生してるだけだ」
クマーは相変わらずのデバフ特化で成長しているらしい。
天使長は巨大なランスを持つことも困難になったようだ。
武器を手放して引き下がった。
「レベル200相当までは下がったかな? 後はよろしく~」
『エンチャントファイア! ヘイスト!』
「熱っ……くはないか」
オレの体に熱を感じない炎が灯った。
視界を塞がれない不思議な炎だ。
«エンチャントファイア≫と言うと、物理攻撃に炎系の追加ダメージを与える付与魔法だったか。
そして速度アップの支援魔法も掛けたようで、体が凄く軽い。
『以下省略!!』
「どういう魔法だよ……」
よくわからないが、全能力が上がった。
半透明のシールド的なものも現れたり、魔法威力増幅系の強化まで掛かっている。
「強化倍率エグくないかこれ」
支援系の魔法は、対象に使用者のレベル分を加算できればかなり強い方だ。
対象の数が少ないほど倍率は高い傾向にある。
複数種の支援魔法を覚えている人は珍しくない。
だがこれだけのレベルのを、これだけの種類扱える人は見たことがない。
「この魔法にも制約を付けてますから!」
とんでもない内容な気がするから、その制約は聞かないことにした。
ひとまず、この過剰戦力で天使長を倒すことにする。
天視聴が少々可哀そうになった。
なんとレイナは、オレが出した分身にまで同等の支援魔法を同調させた。
集中力や体力アップや自動回復の支援もあり、分身を出せる数も増やせた。
『レベルが31アップしました』
支援特化は敵に狙われやすいからこそ、盾系統の能力も持っているのだろう。
相手からしたらレイナは、とてつもなく居てほしくないタイプだ。
『第3試練の突破を確認しました。成績を判定します……地下100階層までの挑戦権を獲得しました。能力の解放が可能な装備を確認しました。固有名≪窃盗丸≫の能力を解放しました。続けて制約付与の機能を解放します――成功しました。天の試しを終了します』
オレの天の試しは3段階で終了。
100階層まで挑戦可能になったのは想定内。
この噂は知っていた。
「100階層までが正しい情報だったか……」
説が多すぎてどれが真実か判別できなかったが、驚きはない。
他の説も多くあるのは、真実を隠すためなのだろう。
転移準備が開始され、最後にレイナの方を向く。
「お疲れ様でした。詳しくはまた後日ということで」
「……ああ」
転移された場所は、天地の魔塔の地下へ続く扉の前。
その先は長く続く螺旋階段が現れる。
階層の直径に匹敵する大きさで、ある地点を突破すると上下が反転するらしい。
地下なのに昇るなどと言われるのは、それが要因だ。
すぐに挑む気もなければ、わざわざ長い階段を使うより転移を使う。
帰宅しようと考えたが、待ったが掛かる。
「すいません。少々よろしいでしょうか」
「はい?」
スーツを着た刑事らしき男女が声を掛けてきた。
懐から手帳を取り出し証明しつつ、質問してくる。
「お疲れのところ申し訳ありません。お時間少々よろしいでしょうか」
「天の試練についてですか?」
「それもあるけど、少し事情を聴きたいことがあるの」
「事情?」
男性の方は丁寧だが、女性は少し砕けた口調だ。
手帳で確認できた名前は、高橋刑事と加藤刑事。
「別井双樹さんという方をご存じですよね」
「ええ。担当した後輩ですから」
双樹が何か事件にでも巻き込まれたのだろうか。
あるいは以前解決した一件の関連か。
「実は数日前から行方不明になってるのよ。あなたが天の試練に挑戦したその翌日辺りからね」
「天の試練じゃなくて天の試しですよ、加藤さん」
「どっちでもいいでしょ、そんなこと。それで、何か知ってる?」
天の試しを天の試練と呼ぶ人は少なくない。
別に間違いでもないので、ツッコむ人は珍しい。
「試練中だったので……。連絡してみますか?」
「他の人に頼んだけど、通じないらしいわよ」
試練中は冒険者カードの電波は妨害され、電話などはできなくなる。
それも解除されたので、取り出して確認してみた。
その時メールが入ってることに気づいた。
「そうなんですか……。あっ、でもメール入ってますね」
「本当!? どんな!?」
「少々お待ちを」
とは言うものの、肩越しに加藤刑事が覗いてくる。
嫌ではあるが、拒否するのも変なので受け入れる。
「えーっと……【なんか異世界に来ちゃったみたいなんッスけど、帰るのに時間が掛かりそうなんッスよ。先輩なんとかなりません?】って、異世界って何やってんだあいつ……」
「異世界……? それが本当ならとんでもない事態ね」
「試しに掛けてみますね」
許可を貰い電話を入れてみる。
残念ながら、通じない。
そのまま最近のことなどを聞かれた。
続けて地下入りした冒険者へのことを話され、後日書類を提出することになる。
レイナとクマーについてはメールで確認した。
やはり試練中に居たのは、本人だった。




