マイナス2体目 初めてのレベルアップ
1時間後オレたちは、ギルドの転移球を使い≪天地の魔塔≫へ入場した。
場所は初心者向けの第1階層。
そこは小さい街として様々な冒険者用の店が立ち並ぶ、活気のある階層だ。
世界中各国から様々な人が来ている。
街行く人々の中には亜人も多く居る。
中でも獣色が強い獣人が多い。
全身が毛で覆われた者や、獣的特徴が耳や尻尾など一部だけの者も居る。
『そこの兄ちゃん見たところ新人かい! 頑張れよ!』
「は、はい。ありがとうございます」
武器屋らしき人に、外国語らしき言葉で話しかけられた。
だが言葉が通じないということはない。
魔力を使った言葉を発して、相手に内容を理解させる技術がある。
そのため魔塔に店を構える大抵の人は冒険者だ。
難易度は高いが、聞き取る側の翻訳も可能。
店を構えるら、習得必須とまでされているらしい。
冒険者としての職業で、商人のジョブを修めた人と言っていいかもしれない。
「今日は森にしよっか。多くの魔物が出ているらしいから、奪い合いにならないはず」
「はい!」
魔物はどこからともなく出現する。
根源的なエネルギーに、魔素というものが存在する。
魔塔へ回収された魔素は、物質や小さな生命体に宿り、魔物となるらしい。
魔物を倒すと、魔石と一緒に基となった素材が落ちることもあるのだとか。
「ゲートでも開いてるんですか?」
「ううん。浅い階層でゲートが開くことはほとんどないから、違うかな」
「下層のモンスターだと、魔素量が少ないから……?」
魔素が貯まりすぎると不味いことになる。
消費するためにゲートが開き、そこから魔物の大量発生が起こる。
「そうそう。テストに出ない内容なはずだけど、よく知ってるね」
「魔塔については興味があったから、前に色々調べたんです」
ゲートの発生すら放置すると、塔の外側に溢れ出る。
謎が多い魔塔のシステムは、各国のギルドや冒険者のデータを参照している。
そして討伐数を比較して、規模の割に割合が少ない国へとゲートを開く。
魔塔が出現してから3年ほど経過した頃だったか。
ある国に大規模のゲートが発生した事件がある。
魔物退治を放棄していたその国は、大ダメージを受けた。
復興に10年以上の時を必要としたらしい。
雑談をしながら進むと、森が見えてきた。
木の本数は少なく、見通しが良い。
敵は全長1・5メートルはある、ウツボカズラのような植物型の魔物。
左右に生えたツルを使い攻撃してくるが、弱い。
その攻撃力は、縄跳びで強烈に叩いた時ぐらいの威力だ。
初心者向けの雑魚というだけはある。
「そこは無理に攻撃せず、牽制しながら数歩下がると連携しやすいよ」
弓での攻撃は難しい。
味方に当てないよう、お互いに位置取りを気をつける。
指示に従い、槍の先端を敵に向けた。
すると、ウツボから突き刺さりにきた。
目がないからか、避ける判断すらできないようだ。
「後はよろしく!」
ツルで攻撃してくるので、オレは槍を放棄して下がる。
距離ができたところで、のぞみに任せた。
「うん! 撃つよ!」
声掛けは大事だ。
まだオレたちは連携に慣れていない。
この状態で合図もなしに動くと、同士討ちしてしまう。
弓はフレンドリーファイアも多いからなおさらだ。
程よく削れていたのか、魔物は胴体に1発食らっただけで消滅した。
この魔物は血液などが出てこないタイプで助かった。
出てくるタイプは精神的にあまりよろしくない。
「初めてならこんなもんかな……。次は、敵の攻撃手段を潰してみようか。どんな敵にも対処できるようになれば、安全度が凄く上がるよ」
「「はい!」」
ツルを切り落とすのは楽だった。
最下層の魔物なだけあって、動きが単調だ。
両側のツルを半ばまで切り落とされたウツボカズラは、移動するのがやっと。
逃げもしないから、後はズルズルと這ってくるのを跳ね除けるだけの仕事だ。
「のぞみさん。急所はあの付け根のところだよ」
「はい……。はっ――!」
のぞみが掛け声とともに撃ち放った矢は弱点に命中した。
が――1発では倒しきれない。
抵抗がないので撃ち続ける。
3発目が命中したところで、やっと紫の煙となって消えた。
「これで8匹目。大分慣れてきた?」
「まあ、はい。にしても魔石はともかく、こんなゴミみたいなのが売れるんですか?」
地面には撃った矢の他にも、小さな黒い石と植物が落ちている。
このゴミにしか見えない植物片が、魔素による変異を受けて魔物になったわけだ。
「魔石は塔内の結界の維持だとか、色々使い道はあるけど、植物はどうなんだろ? 私もよく知らないんだよね」
「植物だから……お花屋さんの肥料とか?」
智恵さんも、素材が回収後どうなるかまでは知らないようだ。
今度調べてみようと思う。
植物片に関しては、のぞみの言うように肥料とかだろう。
ドロップする素材の種類は豊富だ。
中には興味が引かれる物もあるに違いない。
その後も狩りを続け、13匹目を倒した頃。
ようやく初のレベルアップをお目にかかれた。
「あっ! レベルが上がったって!」
「レベルアップってどんな感じだ?」
のぞみのレベルが上がったので、感覚を聞いてみる。
「ん~。凄く力が湧いてくる……かな? 塔也君はまだ掛かりそう?」
「もう少しっぽいな……」
魔物を倒すと魂の経験を吸収するそうだ。
それを一定値まで稼ぐと、魂がレベルアップする。
その数値は細かくは分からないが、冒険者カードにパーセント表記されている。
0%から始まり、100%まで貯まればレベルアップだ。
経験値はトドメを刺した人に多く入る。
集団で倒した場合は、魔物が敵だと認識していた相手に分配されるらしい。
ダメージを多く与えたり、敵の攻撃を多く妨害したりだ。
活躍度が大きいほど、多く分配されやすい。
経験値はオレのほうが得ているはず。
なのにのぞみが先にレベルを上げたのは、個人差というやつだろう。
必要な経験値は人によって違う。
それでも、タイミングが多少ずれる程度の差だ。
同じパーティーで異常な差が付くことは、あまりない。
あるとすれば、戦闘外で活躍することの多い回復役か。
その後、追加で3匹倒したところでオレもレベルアップした。