18体目 限界突破サバイバー
光の中は真っ暗な空間が広がっていた。
出口らしき場所が奥にあるので、ゆっくりと進んで行く。
『第1試練の突破を確認しました。能力の解放が可能な装備を確認しました。解放に成功しました』
半ばまで進んだところで、魔塔からの知らせが入った。
首に掛けている指輪が光り輝き、能力が解放される。
これが天の試しの報酬だろうか。
体力の自動回復量が倍増した気がする。
これはかなり嬉しい強化だ。
「これに触れればいいのか」
奥に行き着くと、転移球らしきものがあった。
人によって数は変わるが、試練の数は1つから多くても5つだ。
情報通りなら、触れ次第次の試練が開始される。
オレは気持ちを一度整え、それから転移球に触れた。
『第2試練、≪限界突破サバイバー≫を開始します』
転移された場所は、先ほど見た崩壊している街。
だが今回は、多くの魔物たちが街中で戦闘を繰り広げている。
見たところ、天子と悪魔とドラゴンが居る。
不覚にも、清川が言っていた≪ラグナロク≫という戯言を思い出した。
それにしても、魔物同士の戦闘による破壊規模が凄まじい。
ビルまでもが倒壊していく規模だ。
その戦いで傷ついたドラゴンが、こちらへ目掛け落ちてきた。
「グギャアアアァァァ!!」
「……っと。どこに居ても危ないな、これは」
咄嗟の跳躍で回避したが、後続が攻めてくる。
オレは杖を伸ばして壁に押し当てた。
その勢いで後続から離れつつ、一旦はビルの陰に隠れる。
すると、目の前に光の文字が現れた。
「……クリア条件か。【適当なところまで生き残ってください】って説明雑か!?」
せめて指定された時間生き残れだとか、魔物を全滅させろとか、そういう指針がほしい。
生き残れということは、必ずしも戦闘する必要はないのだろう。
だが≪適当≫が曖昧過ぎて、何をどうすれば良いのか分からない。
そこを考えることまで含めての試練ということか。
「まあ……分身出すか。これからどうする?」
「こんな危ないところに居られないな。安全な場所に移動すべきだろ」
「地味に死亡フラグっぽいなそれ」
「真面目に!」
「いやまあ、移動でいいだろ」
「じゃあ移動で!」
賛成多数で移動することになった。
そして最初に移動を提案した分身は、ビルの倒壊に巻き込まれて消え去った。
「キュリリリリー」
視界が開けたことで、魔物たちに見つかってしまった。
1度戦闘を開始してしまえば、どんどん注目されてしまう。
戦うのなら、速やかに排除する必要がある。
「窃盗丸貸してくれ! 邪魔なやつ倒してくる!」
「分かった! BCDも頼んだ!」
「「「「了解!」」」」
ここまで観察したところ、魔物たちは階層ボスと同様の存在らしい。
ならばあの頃よりもレベルが上昇している今、苦戦はしない。
ボスが60~80レベルであろう数値に対し、オレは115だ。
平均1・5倍の差もあるから、ドラゴン以外は楽に処理できる。
そんな楽なサバイバルも、24時間が経過したところで変化する。
それは警戒を分身に任せ、休憩が終わった頃に告げられた。
「そろそろ開始してから24時間だぞ」
「ああ……わかった」
『時間になりました。レベル2へ移項します』
「……やっぱ楽には終わらないよな」
オレは試練のタイトルから推測して、長時間掛かると考えた。
なので最初は、12時間経過に合わせ準備したが、何も起きなかった。
ならば24時間経過時点で、何か起きる可能性が高いと予想した。
多少のリスクがあっても、24時間に合わせて休息を取ったのは正解だったわけだ。
「「「―――!!」」」
魔物の雄叫びらしき音がこの世界に響き渡った。
いったいどれほどの数の魔物が追加されたのか。
「くるぞ!! やばい数だ! 全体的にこっちに向かって来てる!」
高い位置から偵察していた分身が降りてきた。
その合図のすぐ後には、数十体もの魔物が視界へ入った。
「最初に見えただけでこの数はやばいな。手薄な方向は?」
「あっちだ! 分身に釣られるか試す感じでいいか?」
「ああ! 頼んだ!」
分身1体を囮に使い、残りは魔物の数が少ない方角へ向かう。
幸い魔物たちは分身にも反応するようだ。
1体は犠牲になったが、そのお陰で虚像の分身ですら囮に使えるのが分かった。
「作戦は決まりだな。性能が高い4体を残して残り2体は敵の分断に当たってくれ!」
言うや早し、2体が虚像の分身を出しながら方向転換した。
ハンドサインで方角も指定したから上手く誘導してくれるはず。
だがしかし……。
不味い状況になった。
敵の数が予想以上に多い。
1体1体の強さはボスに比べればマシだが、レベルが高い。
ボスよりはマシ――そんなのが何十何百と連戦を重ねれば、オレの体力が追いつかない。
『レベルが1アップしました』
「……もう限界!」
使用用途を考えている余裕などない。
オレは貯まったSPを9つ、体力の増強に使用した。
筋力も5ポイント使い、戦闘に余裕を持たせようとする。
レベルも130にまで上がったから、余裕ができるはず――と、そう思っていた。
『レベルが一定値に達したことを確認しました。レベル3へ移項します』
「……勘弁してくれよ」
増強された分で分身を出したが、これではすぐに枯渇してしまう。
オレは一瞬だが、呆然としてしまった。
「ぼーっとしてる暇あったら増強剤でも飲んどけ!!」
「っ……そうだよな!」
分身に一喝されて調子を取り戻した。
しかし、だからといって体力の回復が間に合うわけではない。
数分もしない内に枯渇して、分身が消える。
『レベルが1アップしました』
それを好機と見たのか、狼型の魔物やゴブリンが飛び掛ってきた。
それを感じ取ったオレは、両腕を広げ魔力を解放。
風の刃を無数に放出して魔物を斬り刻んだ。
「ギギ……」
「確かに体力はもうほとんどない。けど、魔力ならまだまだ余裕がある。死にたいやつから掛かって来い!!」
長時間の戦闘により、オレのボルテージは増していた。
分身に割いていた意識を集中できる分、手数は減るが数段上の威力と精度を引き出せる。
魔法を使うにあたって邪魔なので、武器は手放した。
「ギャギャギャ!!」
深呼吸をして、襲いかかってくる魔物は最低限の動きで回避する。
拳を魔物の横っ腹に着けるように押し当て、氷の魔力を浸透させた。
そのまま受け流すように飛ばした魔物は、空中で凍りつき地面と衝突。
着地までに完全に凍ったようで、砕け散る。
多少の知性があるようで、魔物の動きが止まった。
相手から来ないのなら、次はこちらから攻める。
オレは意識だけを集中させ、空気の流れを作る。
その気流を一纏めに圧縮し、刃と化した。
そして瞼を力強く締め、開くと同時に魔物が纏まって居る場へ刃を流す。
素人目相手なら、何が起きたのかすら解からないはずだ。
そのまま体力が一定値回復してから分身を出し、戦況を安定させた。
時間が経つほど、レベルが上がるほど戦況はこちらに傾き、最終的には72時間が経過する。




