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17体目 在りし日の現実

 転移が終了すると、そこは魔塔の外だった。

 通学路の途中で見た覚えのある道。

 人も幾人(いくにん)か歩いている。


「おはよー! 塔也君!」

「……智恵さん?」


 これは幻術(げんじゅつ)(たぐい)に違いない。

 でなければ、智恵さんが居るはずがない。

 それに隣に、オレ自身の幻影まで居るではないか。


「はよー」

「元気なさそうだね。具合でも悪い?」

「ちょっと遅くまでプレイしてて、少し眠いだけ」


 取り合えず様子を見ることにした。

 天の試しで複数種ある内の1つに、こういった試練がある。

 精神面での何かしらを試しているのだろう。

 それが何かを見極めなければ、超えることもできない。


「また? 夜はちゃんと寝なくちゃ」

「でも折角――」

「先輩ー!」


 何か重要な事を言いそうなタイミングで、またもや知人がやって来た。

 今度はレイナだ。


「レイナか……。おはよう」

「おはようございます! 智恵先輩も!」

「おはよ!」


 おかしい。

 今気づいたが、智恵さんがオレと同じ学校の制服を着ている。

 年齢差を考えればありえない。

 登校中のようだから、付いていって確かめてみる。

 結果智恵さんは、オレと同じ下駄箱へと進んだ。


 智恵さんとは5歳ほど離れていたはず。

 しかしこうして見ると、同い年だったのが自然に思えてくるのが不思議でならない。

 そのまま教室まで見届けると、風景が変わった。

 ただし、その変わり方は酷いものだった。


 視界が渦状(うずじょう)(ゆが)みつつ、上下左右へと揺れながら回るではないか。

 普段分身との五感共有で慣れているとはいえ、このブレきつい。

 もう少しマシな変化の仕方をしてほしかった。

 

「……ここは?」


 どことなく見覚えがある風景だ。

 崩壊(ほうかい)した氾濫(はんらん)を起こしている街並み。

 あちらこちらに転がる人の遺体。


「夢……ではないよな」


 夢で見た光景とそっくりだ。

 敵らしき存在は見当たらない。

 戦いが終わった後の光景ということだろうか。


 無事な建物は見当たらないが、良く見ると先へ進める道がある。

 先は(きり)が掛かったようにぼやけつつも、()っすらと光を放っている。

 こちらに来いということだろう。


 ここで逆らう必要もないので、先へ進む。

 霧は徐々に晴れていき、そこにはみんなが居た。


「あっ! 塔也君も無事だったんだね! よかったぁ……」

「……のぞみ」


 真っ先に駆け寄ってきたのは、のぞみ。

 オレの手を握り取り、安堵の表情を浮かべている。


 後続でムギ、レイナ、智恵さん、双樹と続く。

 他にも清川や木崎さんに、久野真冬こと、クマーまでもが居る。

 当然ながら、全員が幻影(げんえい)だろう。


 周りを見てみると、だいぶ広い空間だと分かる。

 霧のようなドームに包まれ、中は明るく左右にいくつかの家がある。

 そして中心に伸びる道の奥からは、赤い光が見えた。


「塔也君。どうしたの?」

「塔也さん! あたしが使ってる家に来ませんか? 美味しいものとかも、いっぱいあるんですよ!」

 

 今度は左手をムギが掴んでくる。

 しかしオレは、両者を振り払って先へ進む。

 すると、クマーが問いかけてきた。


「小並ちゃん。まさかあの光の先へ進む気かい? あの先は地獄だぜ?」

「…………それならそれでも、構わない」


 地獄のような日々ならとうの昔に味わった。

 もしかしたら、今だって地獄の中に居るのかもしれない。

 ならばどこに居ようと関係ない。


 先へ進もうと足を進めるたび、それぞれの幻影が1人ずつオレを止めようしてくる。

 中にはその必死さに躊躇(ちゅうちょ)してしまいそうになる者も居た。

 だが所詮(しょせん)は幻影だと思い、振り払う。


「シュナイダー! 止めても行くんだな……?」

「……ああ」

「そうか……。頑張れよ。俺はお前が助けを呼ぶのを、いつまでも待ってるからな!」


 なぜか清川だけは応援してきたが、清川なので気にしない。

 最後にはのぞみが止めに掛かってきた。


「塔也君ダメだよ……。1人で行ったら……。どうしても行くって言うなら、私も――」


 オレはのぞみに最後まで言わせることなく、来た道に押し退けた。

 それだけではなく、窃盗丸をも突きつける。


「うざいんだよ。これ以上くるなら、容赦しない」

「……いいよ。塔也君がそうしたいなら。それでも私は、一緒に行くって決めたから」

「……っ!」


 オレは窃盗丸と地面に振り払い、土を巻き上げる。

 そのまま氷魔法で固めて、氷の壁を作った。


「…………」


 この程度の氷壁なら突破は容易い。

 それでもシステムでしかない幻影なら、追って来ることは叶わないようだ。


 様々な想いを振り払い先に進むと、出口目前のところで再びレイナが現れた。

 1度は振り払ったはずなのに、いつのまに回り込んだのか。

 2度目の登場だ。


「……本当にいいんですか? 塔也先輩にはこんなにも、頼ってくれる人も、頼れる人も居るのに……。それでも1人で、進むんですか?」

「……誰にも頼りたくない。深く(つな)がりたくない」


 人を頼りにすること事態はできる。

 しかしそれは、打算的な感情しか動かない場合に限る。


「なぜですか?」

「………………傷つきたくないから」


 命が関わる場面で頼れば、いずれは必ず、信頼関係などの感情が呼び起こされる。

 期待すればするほど、その(きずな)を失った時の反動は大きい。

 オレは信頼を裏切られた場合を考えてしまい、誰かに期待を寄せることができない。


「分かりました。なら私は私で、勝手にやらせてもらいますね」

「何を……」


 レイナはオレの背中を押す。

 そしてクマーが地獄だと言っていた赤い光の中に、追いやった。


なお、クマーとレイナは本人な模様。

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