15体目 生体具現
現在のレベルは84。
筋力強化にSPを5つ使ったため、残りSPは3だ。
実体具現の進化に必要なSPは17。
なのでレベルを14上げねばならない。
先は遠く見えるが、90階層を突破して100階層まで挑戦できるようになったのだ。
分身の負傷を恐れる必要のないオレなら、難しいことではない。
『レベルが1アップしました』
100層近い魔物は、1体1体を倒すのに苦労する。
それでも割合で言えば、レベル差は少なくなっている。
低階層の頃に比べれば、割合的には楽だ。
レベル85になったオレは、100階層の魔物が相手でもレベル差は2割ぐらい。
安全マージンを含めても、レベル差は3割程度しかない。
これなら現在のレベルでも、倒せない相手ではないわけだ。
『レベルが1アップしました』
ここまでくると発生する疑問がある。
このレベルの魔物は、どこから来ているのかという問題だ。
本来山奥の秘境などに生息していそうな魔物なら、このぐらいの階層に居てもおかしくはない。
しかし地下へと進んでいけば、さらに魔物のレベルが上がるのだ。
『レベルが1アップしました』
魔塔が出現する以前の上限はレベル100だった。
ならば、それ以上の魔物の存在はなんなのだという話になる。
現在は様々な仮説が飛び交っている。
一説では、魔塔事態が発生させた魔物という説。
他にも、天界や魔界のようなところが存在し、そこの魔物だという説。
異世界の魔物だと言う者もいたり、例を挙げ出したら切りがない。
『レベルが1アップしました』
『おい……。またやられたのかよ』
『しょうがないだろ。敵が強いんだから』
念話でやり取りをしつつ、分身に分身を出してもらう。
その後の維持は本体に委託され、分身の性能を向上させる。
今日はこの繰り返しばかりだ。
当然ながら、本体は自宅で漫画を読んでだらけている。
相手が強いため、無茶な戦い方をすれば修復不可能な傷を負うことが多い。
窃盗丸を使わせていないのも原因のひとつだろう。
しかし万が一分身が全滅したら困る。
武器を回収できない可能性もありそうだから、余裕ができるまでは持たせられない。
7月分の給料が入ったが、多少増えただけでは大赤字だ。
来月からは爆発的に増えるはずなので、そこに期待するしかない。
90前後の階層で活動してる者の年収は、通常で600万と言われている。
命掛けの対価としてこれなら、安いと見るか高いと見るかは意見が別れてくる額となっている。
オレの場合はパーティーを組む必要もなく効率も良いから、50万は超えてくれるはずだ。
『そろそろ1度戻るぞ』
『……素材の回収も楽にしたいな』
長時間活動させると、どうしても荷物が増える。
今後分身の数が増えれば、回収するのも手間だ。
効率を良くするなら、収納系の能力か何かを獲得するべきか。
良さそうなのがないか、今度調べてみようと思う。
『レベルが4アップしました』
だがまずは、実体具現の進化だ。
能力の進化まで後5つ……。
そして目標のレベル98は、8月上旬中に到達できた。
オレは冒険者カードを取り出し、さっそく確認する。
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トウヤ 19歳 男 レベル:98
S P:17
体 力:256(+10)
魔 力:431(+10)
筋 力:183(+50)
敏 捷:255
知 力:132
器用さ:318
―能力―
・実体具現:レベル9【進化必要SP17】
・魔力操作:レベル36【増強必要SP1】
・気力操作:レベル5【増強必要SP2】
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鍛錬不足だからか、ステータスはあまり上昇していない。
目に見えて増えたのは体力ぐらいだ。
レベルばかりが素早く上がっているから仕方ない。
オレは一通り確認した後、実体具現の項目に移った。
生み出せる虚像の限界数は12体。
実体数は4体。
虚像を同時に操作できる数は9体だ。
これがどう生まれ変わるのか……。
こういう瞬間は、何度経験しても緊張するものだ。
オレは本当に進化させるかの確認をされ、≪はい≫を選択。
そして、再び冒険者カードを確認する。
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―能力―
・生体具現レベル1【増強必要SP10】
・限界分身数:36体
・限界生体数:15体
・限界同時操作数:27体
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「……? どういう計算だ……これ?」
まず、これまであった≪分身≫の能力が消滅した。
能力が統合されたのだろう。
≪生体数≫に関しては、実体数と同じようだ。
本体なら3体出すことが可能。
そしてその3体が2体を作り出せ、追加で生み出された6体が1体ずつ作り出せる。
合計すれば15体となるわけだ。
≪分身数≫と≪同時操作数≫は、少しだけ頑張れば算出できそうだ。
しかし面倒になり、すぐに計算を投げ出した。
実際使っていけば感覚で分かっていく。
虚像は頻繁に使うような能力ではないから、事前に深く考える必要はない。
「にしても15体か……」
「どう考えても多すぎるよな」
これまで同様、限界まで出すのは悪手。
本体に余裕が残るよう、2体だけ出すとしよう。
その場合でも生み出した分身が追加で2体ずつ出せるのだ。
合計6体。
あるいは4体にまで制限して活動するのがベストだろう。
≪生体具現≫になったことで性能も大きく向上した。
現在なら本体が出す分身も95パーセントほど力を発揮できそうだ。
分身が出した分身……孫分身とでも言おうか。
孫分身の性能も9割近くまで発揮できそうだから、大進歩だ。
ほぼ100パーセントの性能に至るのも遠くはなさそうだ。
そのためには、気力操作も鍛えねばなるまい。
そして生体具現で追加された能力は……無かった。
正確に言えば、有ることには有る。
生体具現はこれまでの分身とは違い、血肉が通っている。
内臓や筋肉・骨は勿論、細胞単位で具現化しているようだ。
これがどう作用し、どう利用できるかは実験していくしかない。




