13体目 窃盗丸
テスターになるとは言った。
確かに言ったが、まさか妖刀を渡されるとは思わなかった……。
新しい規格とは、リスクを伴う装備の作成だった。
とは言っても、比較的軽いものだ。
触れていると体力や精神力を吸い取られたり、自身も火傷するほどの発火を起こすなど……。
強い代わりに無茶な使い方をすれば危険な品物。
そのような物を常用できるように、調整および実験を繰り返しているらしい。
オレが提示された武器は2つ。
まずは短剣。
これは≪気力操作≫を行わなくても、勝手に生命力を短剣に集中するという。
そのエネルギーを無駄に消費させずに、長時間留め続けさせたいらしい。
改良するためにはデータを集め実験を繰り返さねばならない。
だが体力を多く消費するオレとは、相性の悪い武器だ。
次に棍代わりの、可変式の杖。
これは魔力を大量に消費することで大きく形を変えることが可能。
ただし、重量がかなりある。
元の大きさを30cmぐらいに抑えているのは評価できるが、重すぎる。
さらには可変の機能が有るがために、魔力を纏わせることも発動媒体にすることもできない。
杖なのに杖の役割が果たせないのは、致命的欠陥としか言えない。
魔法使い並みに魔力がないと扱えないのに、魔法が使い辛くなる。
重量が原因で力のない者には振り回すのも難しく、耐久面も意外と脆いらしい。
扱える者が少なく、データも集まっていないため性能は悪い。
まだまだ改良の余地がある武器だ。
オレは、この杖モドキのデータ収集を請け負った。
短剣は相性が悪いので遠慮した。
最後に妖刀……。
これは普通に曰く付きの代物だった。
魔塔ができるよりも遥か昔から存在する物らしい。
性能だけで見るなら、一流の者が使うような武器だ。
ただし、呪われた装備だが。
持った者は正気を失い、視界に入ったもの全てを斬ってしまうそうだ。
さらには斬りつけた者の生気を吸い取り、己が物とする。
精神力が強ければ支配されずに済むが、この武器は成長する。
油断すると強力になった刀に支配されてしまう。
そんな危険極まりない武器だ。
本来はテスターに渡す物ではないのだが、事情がある。
展示されていたこの刀を見たとき、強烈に惹かれる何かを感じたのだ。
まるでこの妖刀――≪窃盗丸≫が、自身の手にあるのが本来あるべき姿だと錯覚してしまうほどに……。
試しに持たせてもらうと、手に吸い付くような一体感を感じた。
長年使っていた気すらしてしまう。
精神的干渉もしてくる様子はなく、むしろ力を貸してこようする始末。
それを赤咲さんに伝えると、何の躊躇もなく譲渡してくれた。
展示していても宝の持ち腐れだから、是非使って欲しいとのことだ。
刀を受け取る際、窃盗丸の方からオレを求めているとも言われた。
オレも求められた気はしたから、錯覚ではないのだろう。
オレは刀の試運転をしてから、70階層のボスにリベンジを果たすことにした。
本来ならレベルが足りない。
しかし、負ける気がしなかった。
2体1……1? の状態ですら戦えていたのだ。
相手が1体だけになれば、負ける道理はない。
『レベルが1アップしました』
『71階層から80階層の挑戦権を獲得しました』
前回は切断できなかった翼も容易に斬り裂けた。
分身に任せるだけで戦闘が終了。
ちなみに分身に任せるだけとは言ったが、現場には本体も居た。
試してはみたが、本体が入らないとボス戦が開始しないのだ。
窃盗丸もボスを倒したことで、ごく僅かにだが性能が上昇した気もする。
これなら80や90階層のボスも――とは思った。
しかし油断はできない。
今回の戦いで挑戦できる階層が大きく広がった。
そろそろレベルを上げる時だ。
現在のレベルは71。
ステータスは以下の通りだ。
________________________
トウヤ 19歳 男 レベル:71
S P:2
体 力:192(+10)
魔 力:398(+10)
筋 力:110
敏 捷:240
知 力:132
器用さ:318
―能力―
・実体具現:レベル8【増強必要SP5】
・魔力操作:レベル36【増強必要SP3】
・気力操作:レベル3【増強必要SP1】
________________________
≪分身≫を含め、あまり確認しない能力などは別のフォルダに移動した。
次のボス戦までに、どこまで至れるか楽しみで仕方ない。
狩場は79階層。
蜥蜴族やら蛇人族など、爬虫類系の魔物が多く生息するエリアだ。
ちなみに両種族とも、魔塔の外部にも居る。
外に居るのは対話が可能な者たちだ。
魔物には、生命体として活動している者も存在する。
理性のない亜人や、動物や昆虫なども該当。
その者たちはダメージを与えると、出血を起こす。
死体も消えずに残る魔物たちだ。
オレは血を出すタイプとはあまり戦いたくない。
特に人型が相手だと、少しだけ罪悪感が残る。
79階層にも人型は出る。
だがそいつらは生命体の定義からは外れる。
傷つけても魔素を噴出するだけだ。
生命体として活動してる魔物は、素材を多く取れる。
利益は多くなるが、日本人は敬遠することが多い。
オレも相手が出血したり死体が残るのは嫌なので、79階層で活動することにした。
『レベルが1アップしました』
初日は慎重に戦った。
武器の使用感を確かめるデーター収集や不慣れなこともあり、効率は悪い。
それでも自身以上のレベルがある魔物が相手だ。
1日でレベルが上がるのも不思議ではない。
そして2日目。
『レベルが1アップしました』
『レベルが1アップしました』
戦い方もコツを掴んだ。
分身も今では3体出している。
≪気力操作≫が安定してきたことにより、実体具現の消耗度合いが下がったのだ。
現在では2体を常用しても体力が切れない。
残す1体は性能が低いから、フォロー役に徹した。
これまでと違い連携も取れるため、戦闘が相当楽だ。
単独でやらせていた頃よりも効率がかなり上がってきた。
『レベルが3アップしました』
「よしっ! 77……!」
遊び半分で分身を限界まで解除せず、経験値を蓄えさせてみた。
2つだけ上げて実体具現にSPを使うつもりだったが、予想外に多く貯めていたようだ
そして……。
「……やっぱり来たか」
実体具現をレベル9にした。
すると、次のレベルアップで能力が進化することが明かされた。




