12体目 テスター
目が覚めると、病院らしき部屋の天上が目に入った。
貰った指輪は首にあり、体力は万全だ。
傷も塞いでもらえたようで、起き上がっても痛みはない。
むしろ、調子を上げている感覚すらある。
周りを確認してみると、荷物は傍に置いてあった。
流石に武器の類は見当たらないが、冒険者カードを手に取る。
探している最中に、お見舞いらしき人物が1名寝ているのに気付いた。
「……やっぱりか」
ステータスを調べると、魔力操作と氷魔法のレベルが大きく上昇していた。
ついでに魔力も大きく上昇。
気力操作も2つ上がって3になっている。
得た物としては少なく感じる。
しかし考えてみれば、クエストの達成はできなかったのだ。
70階層までの挑戦権を獲得できただけマシと思っておく。
「……ん。小並君?」
「おはよ」
寝ていたのは、≪木崎≫さんだ。
毎度のように≪ミナミ≫という名前で呼べと言われるが、苗字呼びはお互い様だ。
「良かった。無事みたいね。ソロでボスに挑んで怪我したって聞いたから、心配したわ」
付き合いの長さだけで言えば、1番の人物かもしれない。
濃さで言うなら、元々のパーティーメンバーの誰かだ。
「入院したって誰に聞いたんだ……? まさか2日経ってはないよな……」
「伝手があるのよ、色々とね。私が知ったのは昨日の夜よ」
オレに両親は居ないから、伝わるなら病院の関係者からだろう。
良いところのお嬢様なだけに、木崎さんはあちこちにコネがある。
少し前まで使っていた増強剤なども、その手の店から購入したものだ。
「それで、何があったの? 挑んだのは50階層なのに、70階層のボスから受けたような傷が有ったらしいけど」
「強制クエストだよ。60と70のボスを同時に相手させられたんだ」
「珍しいわね……。逃げることはできなかったの?」
当然の疑問だが、逃げられるならオレも逃げている。
オレは事情を説明して、最終的な結果も伝えた。
だが心情的部分は話さない。
「――って感じだな」
「なるほどね。ねえ小並君。相変わらずパーティーを組む気は無いの? 誘われているんでしょう?」
「無いよ。パーティーなんて面倒なだけだし」
誘われているというのは、ムギのことだろうか。
軽い誘いも含めるなら、双樹やレイナにも誘われたことはあるが……。
「……そう。ならいっそ……やっぱ無し!」
「何が?」
「何でもない! ほら! 体調も良いみたいだしさっさと退院するわよ!」
「自分で歩けるから押すなって……!」
何を言おうとしたのか訊ねるも、はぐらかされてしまった。
そして受付に行き、預かられていた分の荷物も返される。
折れてしまった刀もだ……。
「…………」
この刀は20万近くした一品だ。
奮発して買った思い出の品なだけに、ショックが大きい。
「残念でしょうけど、長く使っていれば壊れることもあるわ」
無言で刀身を眺めていると、木崎さんが話し掛けてきた。
回数こそ多くはないが、確かに長年使っている。
それでもボス戦ほどの激戦なら、壊れるのも仕方がない。
「階層突破のお祝いも兼ねて御馳走してあげるから、元気出して!」
「なら回らない寿司屋がいいな」
「お寿司ね。なら、あそこがいいかしら……」
お祝いということなら遠慮はしない。
木崎さんはさっそく店の予約を取り始めた。
オレも後輩たちがボスを倒した時は奢ったものだ。
武器のことも考えなければなるまい。
これまでは刀以外は安物を使っていた。
今より階層が上がると、安物ではオレ自身の消耗が激しくなってしまう。
だが分身に持たせるのを考えると、安く済む量産品が好ましい。
「木崎さんのところって、どんな武器扱ってたっけ」
「うちは専門外だから、上層に対応した武器はないわね。強いのが欲しいなら、カレンに頼めば調達できるんじゃないかしら?」
カレンというのは、木崎さんのパーティーメンバーだ。
名前は確か、≪赤咲 華蓮≫。
オレは数回しか会ったことがないが、名前を覚えている。
彼女は親が、魔塔自衛隊のお偉いさんだ。
ならば武器も、自衛隊の関わりだろうか。
「自衛隊の装備を貰うってことか?」
「いいえ。彼女、自分の会社を持ってるの。この前、新しい規格の武具を売り出そうと思ってるって言ってたわ」
新しい規格とはまた、難しいことをする。
武具は命にも関わる部分だ。
信頼性が求められる。
既存の範疇に無い物を作るのは大変なことだ。
「……お金とかないぞ? それに分身の分だって」
新しい規格ということは、量産は難しいはず。
したがって値段も高くなるわけだ。
オーダーメイド並かそれ以上に取られても不思議じゃない。
「分身だからこそ危険性を無視してできることもあるわ。試験者として欲しい人材でしょうから、仲介しましょうか」
「テスターって……報告書とか面倒だな」
テスターになれば高い品物を無料で手に入れられるかもしれない。
待遇によっては給料すら出るだろう。
それでも、報告書を逐一書くのは面倒だと感じてしまう。
「それこそ、分身に書かせればいいじゃない」
「……その発想は出てこなかった」
オレはテスターになることにした。
その旨を木崎さんに頼んで連絡を取ると、後日簡単な面接することになった。
そして、とんでもない品物を渡されることになる……。




