9体目 後処理
確保した連中は速やかに連行された。
本来なら過剰防衛と言われかねない状況だ。
だが証拠として録音されていた音声などを提出すると、疑いはすぐに晴れた。
冒険者同士の争いは毎日のように起こっている。
これだけ証拠があれば、もはや流れ作業だ。
自衛としても、過剰にならないように手順は踏んだ。
法律的に問題がないから、文句を言われる筋合いはない。
ムギに関しては、オレの下を卒業してからパーティーを探していたそうだ。
固定パーティーを組める相手は中々見つからず転々としていた。
そして今回の首謀者である女性に誘われ、お試しで組んでいたのだとか。
オレはよく考えてから相手を選ぶように指導していた。
それでも外面の良さと、同性であることから油断したらしい。
こういったトラブルはよくあることだ。
相手を殺害したことが割り切れないのなら、冒険者には向かない。
命掛けの仕事である以上、思う所があるなら転職した方が良いと伝えた。
ムギには即答できるだけの信念ななかった。
なので1週間ほどかけて答えを出すように助言をしてある。
今日が丁度、その1週間が経過する日だ。
答えは直接伝えたいと言われ、オレは最近よく利用している35階層にあるカフェを待ち合わせ場所にした。
「塔也さん!」
「お疲れ。答えは出たのか?」
「……はい」
学校が終わってからまっすぐ来たようで、制服を着たままだ。
髪型は毎日のように変えているが、今日は下ろしている。
ムギは休憩を入れ、少ししてから話し出した。
「あたし、この前の一件で分からなくなりました。パーティーに誘ってくる人たちの、誰を信じれば良いのか……」
「それはまあ……難しいよな…………」
身に覚えがあり過ぎて、誰も信じられないのを否定できない。
安全のためにパーティーは組んだ方が良い。
だが長らくソロで活動していたオレから言っても、説得力が無さ過ぎる。
「でも、塔也さんなら信じられるなって……。迷惑かもしれませんけど、前みたいに一緒に活動することはできないでしょうか……!」
「………………なら、双樹と組んだらどうだ? レベルも近いし」
2人のレベルは共に40近く。
中学生での1年間でここまで行きつける者はほとんど居ない。
才能の塊だと言える。
ムギの能力は召喚系で、使役系の双樹との相性は悪くない。
「双樹さんには4月の時点で断られてますので……」
中学生には制限があって、土日しか活動できない。
4月までは双樹も中学生だったが、高校生になって合わなくなったようだ。
両者がレベル21になってからは付きっ切りではなくなったから、断られているのを知らなかった。
「…………急ぐことないんじゃないか? 高校に上がるまでに、同級生の仲間でも探せば良いって」
「やっぱり、迷惑でしたか……?」
「迷惑だな。条件も合わな過ぎる」
遠まわしな言い方をする気はない。
組むのが嫌だとか言う以前の問題だ。
レベル差もあるし、活動時間も違う。
前提条件から外れているから、考えるまでもない。
「なら……条件が合ったら組んで貰えますか?」
「組まないよ。好き嫌いとかの問題じゃない。誰とも組む気はないってだけ。ボス戦とかだけなら、協力してもいいけど」
「そう……ですか…………」
仮にも担当した後輩だ。
完全に投げ出すことはしない。
それでも、固定パーティーだけは御免被る。
「分かりました。しばらく考えてみます」
「悪いな」
諦めるとは言わなかった。
この1年でムギの性格は分っている。
意訳すると、「場合によってはまた誘います」という意味だろう。
現に断られたのに、帰ることなく追加でデザートを注文している。
ムギにとってオレの拒絶は、想定内の出来事ということだ。
狙撃手関連の件も事情が分かった。
オレは5年前に新人期間を終えた後、パーティーでゲートに遭遇。
その時に担当の先輩だった智恵さんを撃ち抜かれ、死に追いやられた。
同一人物の可能性は低いと思ったが、今回関わった狙撃手に詳しく問い詰めた。
曰く、今回の件は金で雇われただけだと言う。
そして5年前の件だが、≪狩猟会≫なる裏組織が関わっていたそうだ。
2人も加入していたそうだが、その組織は既に壊滅している。
なんでも2年ほど前に、クマの被り物をした謎の人物が組織を襲撃したのだとか。
しかも殺された仲間が次々起き上がり、周りの者を攻撃し始めたらしい。
オレは知り合いの顔が思い浮かんだが、口にはしなかった。
犯人がお縄についているか死亡しているなら、誰が壊滅させようと構わない。
復讐をする気はないから、残っていた因縁も終わった件だと判断する。
過去にあった智恵さんの一件は、多少気にしていた。
真実は闇の中だが、少しだけ肩の荷が下りた。
以前より前向きに、上の階層で目指せそうな気分だ。
『レベルが1アップしました』
「このままじゃ不味いな……。とはいえボスはなぁ……」
経験値の入りが悪くなり、レベルの上がりも遅い。
そろそろ50階層のボスに挑むべき時だ。
これ以上粘れば、また長い期間を停滞してしまう。
急いでないとは言っても限界が近い。
対策を練って行けば、ソロでの討伐もなんとかなるはずだ。




