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8体目 弾丸

 まずはムギを下がらせ、オレの後方に隠す。

 位置によっては、咄嗟の状況で困るからだ。


「な、なんだよこれ! こんなこと聞いてねぇぞ!」

「アイツまさか、オレたちをハメたんじゃ!?」

「くそっ!」


 簡潔(かんけつ)に説明しようと思ったら、1人の男がいきなり逃げ出した。

 1人でも()らえたら、後からでも(つか)まえられるだろう。

 だが見失えば奇襲のリスクもあるから、逃げるのを許すつもりはない。

 オレは風の魔法を鉄のポールに(まと)い、(やいば)(じょう)にして飛ばす。


「痛っ!? あっ――!」


 足を切られた男は、そのままバランスを崩し転んだ。

 咄嗟のことで、想定以上に深く切り込んでしまった。

 放置し続けるのは不味いぐらい出血している。


「あああぁぁ……。足、足がああぁぁ!!?」

「ケイちゃん!?」

「馬鹿! 名前を呼ぶんじゃねぇ!!」


 オレは魔法の発射が苦手だ。

 その弱点を補うために、ポールを振りかぶる速度を乗せている。

 最高速度に到達したところでポールから魔法を切り離し、標的に投げつけるような感覚だ。


「魔法の加減は苦手なんだ。逃げる気なら容赦はしない」

「つぅ……。な、なんなんだよテメェは!?」


 最初に殴って悶絶していた男が起き上がり、オレから離れつつ問い掛けてきた。

 ひとまず聞く態勢を取ってくれるようだ。

 面倒がなくて助かる。

 相手が聞く耳持たずだと、問答無用でズタズタにするしかなかった。

 オレは構わないが、ムギにはあまり見せたくない光景だ。


「お前等には3つの選択肢がある! 1つ目は大人しく捕まること。2つ目は逃亡を試みて再起不能に至る重傷を負うこと。3つ目は抵抗を試みること。ただし抵抗するなら、こっちにも負傷リスクがある以上容赦なく殺す。抵抗する気なら覚悟して掛かってこい」

「ちょっと不意を突いた程度で調子に乗ってんじゃねぇぞ! お前等! この野郎を()っちま――え……」


 オレは魔力を刃状にした鉄のポールを薙いで、指揮役らしき人物の首を刈り取った。

 抵抗の意志が見えたからには、仕方がない。

 頭部が遠くに飛んだ男の体は、血を噴き出しながら背中から倒れた。


「……!? り、リー……ダー……?」

「……え?」


 宣言していたとはいえ、オレ以外の人物は理解が及ばず呆然としている。

 このことから、このこの者たちは本物の冒険者足りえないことが分かる。

 これだけの隙をさらけ出すのは、命取りでしかない。


「…………」


 ムギも呆気に取られ、力が抜けたのかゆっくり尻もちをついた。

 この子は新人期間を抜けたばかりだから仕方ない。

 スプラッタな光景や人死にを見せたくはなかったが、切り替えるしかない。

 ここで経験を積めるだけ、ある意味では良いことだと思うことにする。


「悪いがレベル的に余裕なんてないし、油断する気もない。抵抗する気がないなら武器を捨てろ」

「……」


 残す3人の男は素直に武器を捨てた。

 ある者は膝をつき、ある者は両手を上げている。

 仇とばかりに襲い掛かってくる者なら見込みもあるが、どうやら仲間意識はないようだ。


 こちらは制圧したが、全てが終わったわけではない。

 まだ2組ほど厄介なグループが残っている。


「……!」

「と……塔也さん……?」


 ムギが恐る恐るといった感じに声を掛けてくる。

 その時オレは、ステップを踏むように1歩でムギの横に躍り出た。

 直後、その場に銃声が鳴り響く……。


 弾丸はオレの胸付近に直撃し、ギリギリ貫通せずに済んだ。

 攻撃を受けたのは、当然分身だ。


「ちっ! 撃って来やがったか……!」

「撃って……? 今の音って、もしかして……」


 オレは戦闘していた分身とは別に、もう1体出していた。

 双樹に頼み周りを確認して貰ったところ、ライフルを持つ者が居たのだ。

 2人組みで狩りをするような様子でもなかった。

 なので小型の分身を送り込み、会話を確認していた。


 急に標的をムギに替えたから、対応がギリギリになった。

 撃つタイミングも会話から読み取れたのは幸運だ。

 放つ前に分身で奇襲を掛けたが、1撃だけこちらに通してしまった。


「狙撃だよ。ダメージは無いから大丈夫。制圧中だから少し待ってて」

「…………」

「ごめんな。怖がらせて」

「そ、そんなこと……!」


 怖がっていないとは言えないはずだ。

 ムギはオレの服を(つま)んできた。

 怖がっていないと伝えたいのだろうが、隠しきれていない。



 もう1体の分身の方も制圧は終わった。

 ムギの方は本体が出て行き、分身を解除する。


 狙撃手たちには、聞きたいこともある。

 すぐに問い詰めたいところだが、もう1つのグループを先に処理しなければならない。

 そう思って行動に出ようとするが、その時双樹からの報告が入る。


『先輩! こっちも終わりました!』

「ん? どういうことだ?」

「この声、双樹さんですか?」

『その通り! 双樹ッスよ!』


 詳しく聞いてみると、双樹は思いがけない行動に出ていた。

 オレを追いかけてくる最中に、≪チキチキ≫の報告が入った。

 それによると、先程までムギが行動を共にしていたパーティーが、オレとムギの居る方角に向かっていると言う。

 不意打ちの可能性を考慮した双樹は、そちらの制圧に向かったそうだ。


 相手は全員レベルが上なはずだ。

 それを制圧するとは、数的には同数でも簡単ではない。

 奇襲などを仕掛け、一気に制圧したのだろう。


「そっか。お陰で助かった」

『いえいえ! オレもこれくらいやらなきゃ気が済まないッスよ! オレが原因のことでもあるし、何より、こいつらにはムカついてたんで』


 双樹も相当、頭にきていたのだろう。

 オレでも対応は可能だったろうが、それでは気が済まなかったようだ。



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