7体目 現行犯
現在オレは分身を使い、木陰に隠れて観察対象を見ている。
奴等は犯罪行為を行うつもりなのか、森の中で行動中だ。
こちらも隠れ易いから条件は悪くない。
本体は双樹と共に、気付かれないように離れた位置で待機している。
「ん……。分身の方で動きがあったみたいだ」
「実体を得てるのも驚きましたけど、向こうのことまで分かるなんて凄いッスね……」
後輩たちには、実体具現関連のことを伝えていない。
秘密にしたかったからではない。
2人は最初から特殊能力を持っていた。
冒険者になった時点で能力に目覚めているのは希少だ。
強力な能力になることも多いから、余計な情報を入れるべきではないと判断したのだ。
「ちょっと集中するから、周りの警戒を強めてくれ」
「分かりました! ≪チキチキ≫、空から周りの様子を見てきてくれ。気づかれないようにな」
「カァ!」
双樹はいわゆる、ビーストテイマーだ。
テイマーは、魔物を使役して戦うスペシャリスト。
使役するだけでなく、魔物のステータスを一時的に向上させることも可能だ。
現在連れ歩いているのは、≪ダーククロウ≫という1メートル近いカラス。
もう1匹が≪角突きウサギ≫という、角の生えたウサギ。
双樹の場合、この2匹と意思疎通までできるいうから驚きだ。
オレは分身へと意識を向け、五感を共有した。
感覚を共有するのは、中々に違和感を感じる行為だ。
分身は小型化して隠れているので、なおさら違和感が強い。
「もう我慢できません! これ以上進むなんて危険過ぎます!」
「なら勝手にすればぁ? 私たちは先に進むから、帰るなら1人で帰りなさいよね」
「なっ……。あなた、それでも……」
どうやらムギをひたすら挑発して、危険な状況下で放り出す作戦らしい。
戦闘でもムギに負担を背負わせ、1人だけ消耗させられている。
この状況でゲートが開いている可能性が高い方向へ進むなど、命取りでしかない。
身の危険を感じる者が居れば、その者に合わせるのがパーティーを組んだ者の責務だ。
弱気な者が譲歩して、危険な場へ踏み込むことは珍しくない。
しかしこの強行ぶりは、見過ごせるようなものではない。
「なぁに? 文句でもあるって言うの? ム・ギ・ちゃん」
双樹に告白したという女性は、笑みを浮かべながら挑発染みた言い方を続ける。
隣には屈強な男が2人居て、精神的優位も取っている。
2人の男と示し合わせているのは間違いない。
これでは中学生の少女では、反論するのも難しい。
今日の会話は録音させてもらっている。
後で出すところに出すとしよう。
「……もう知りません! あたしは失礼させてもらいます!!」
「あっそ……。精々気をつけることね」
ムギに我慢の限界が来たようだ。
単独での帰還は危険だが、先に進むよりは安全だと判断したのだろう。
来た道を早足で戻り始めた。
数十秒後、何かしらを伝えに双樹のペットが戻ってくる。
「カァカァ!」
「先輩、怪しい動きをしてた男4人のグループが、移動を始めたッス。方角は……ここの北東から、南下してる感じっすね」
「他にも仲間が居るかもとは思ってたけど、やっぱりかぁ……」
胸糞悪くなってきた。
ムギを殺す気はないのだろう。
しかし、やろうとしていることは容易に想像できる。
「……1人相手に随分と、集めてるな」
殺意すら沸いてくる。
双樹に告白した女性からしたら、ムギを少し痛い目に遭わせるだけのつもりだろう。
だがされる側から、心に一生残る傷になる。
心に傷を持つ身としては、絶対に許せることではない。
「ちょ……! 先輩落ち着いて! 魔力溢れてる! 怖いから収めてください……!」
双樹の言葉を聞いて、魔力は抑えた。
感情を静める気はないが……。
「……双樹。例の2人は?」
「えっと……。崖の上から動いてないみたいッス」
「分かった。先に行くから、何かあった時用にスピーカーで電話繋いでおいて」
「…………了解ッス」
現場へ到着した頃には丁度、ムギが4人の男たちと向かい合っていた。
男たちはご丁寧に覆面までしている。
これから犯罪行為を犯しますよと、宣言しているようなものだ。
「へっへっへっ。お譲ちゃん。迷子かい?」
「お兄さんたちが保護してあげようか」
白々しい発言だ。
どう見ても、迷子を保護しようという者のする格好ではない。
「だ、誰ですかあなたたち……。顔まで隠して……!」
現状、言動に問題なし。
あいだに割り込むのは時期尚早だ。
現行犯扱いにできるまでは我慢する。
「おおっと! 逃がさないぞ」
「は、離して! 嫌!」
回り込んだ男が腕を掴んだ。
ここまではギリギリ言い逃れも可能だろう。
しかし残すもう片方で、ムギの胸を掴み押さえつけている。
オレはムギが拒絶の声を上げると同時に行動に移す。
持っている鉄のポールを振りかぶり、ムギを捕まえている男の頭に叩き付けた。
「がぁ――っ!?」
「な、なんだテメェ! どこから現れた!?」
どこからと聞かれたら、木の上と答える。
勿論、口には出さないが。
「お前ら現行犯だ。逃げられると思うなよ」
「と、塔也さん!? どうしてここに……」
オレに殴られ地面とキスをした輩が近すぎる。
逃がさない宣言をしながら、ムギを引っ張りつつ離れた。
「説明は後で。まずはこいつらだ。ムギは少し下がってて」
―キャラクター紹介②―
藤嶺 こむぎ 冒険者名:ムギ
髪:小麦色・セミロング(日によって変える)
目:二重・ブラウン
年齢:14歳(中学2年生)
血筋:1/2日本人・1/2猫妖精
誕生日:2月22日
身長:143cm
体重:39kg前後
一人称:あたし
武器使用頻度:召喚獣>笛>短剣>>小盾
夢:素敵なお嫁さん
行動理念:憧れの人物のように行動したい(東智恵や小並塔也)
性格:大胆・勝気・積極的・頑固
趣味:食べ歩き(乳製品関係)・媒体集め(人形などを中心に)・ファッション
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履歴
低階層冒険者でもある浮気性の父を持ち、生まれた頃から疎遠。
母親はどこに居るのか不明。
物心が付いた時には児童養護施設に身を置いていた。
腹違いの兄も居て、最近になってお互いの存在を知った。
塔也のことも覚えていた(塔也は言われて思い出した)。
小さい頃から見えない何者かの声が聞こえていて、周りの子には気味悪がられた。
冒険者になってからしばらくして、霊的存在をより強く知覚できるようになる。
現在では媒体に憑依させて戦ってもらうことも可能。




