6体目 レベル64
夢を見た。
3年前に共に歩んでいた、仲間との夢を。
そこにはオレ以外のパーティーメンバー3人だけでなく、亡くなった先輩も居た。
さらにはオレが担当した2人の後輩も居て、みんなで休日を楽しんでいる。
あったかも知れない世界を見せられても、オレの心は揺るがない。
これは夢だと理解すると、世界は混沌へと変わった。
塔外への国々へは魔物が溢れ出し、世界が血に染まる。
やがて強大な敵が現れ、為す術なく大切な者たちを奪われた。
「これが良い夢……? ある意味では、そうかもな」
もしオレが分身を選ばず魔法の才能を鍛え進んでいたら、きっとパーティーは続いていた。
だが、その先にこの地獄が待ち受けているのなら……。
オレは心の内で、実態分身を得ることを目指したことが、間違いではなかったと思いたいのだろう。
夢は仲間が全滅した時に終わる。
もっとも信頼を寄せていた相手――≪絆地 のぞみ≫が、オレの腕の中で息絶えたところで目が覚めた。
最悪な目覚めでしかない。
かなり気分が悪くなった。
「……もう二度と使わないな、これは」
昨晩服用した夢見の粉は、手に入れようと思えば手に入る。
だがこのような夢を見るなら、もう使うことはない。
もうすぐ7月になる。
ここ2週間ほど遊んでいる最中も、分身を1体だけ狩りに投下していた。
貰った指輪のおかげもあり、不眠不休で狩りができる。
能力のレベルが上がってきたお陰か、1体なら半分寝ているような状態でも消えない。
もし消えてしまっても経験の還元で気付けるので、再度送り込むようにしていた。
オレは装飾品をあまり付けない。
着飾るのは性に合わないのだ。
少しだけ違和感を感じるが、指輪はチェーンを着けて首に掛けている。
これでも付与されている効果は発揮するから問題ない。
『レベルが1アップしました』
「やっとか……。流石に魔物とのレベル差が大きくなってきたな」
レベルが64へと上がった。
実体具現を覚える前と比べると、こんな感じか。
レベル53は11アップして64に上がり、SPの残量は4。
体力128(+10)が172に。
魔力318(+10)は340。
筋力92が100。
敏捷181が222だ。
生命力を使う能力を使い続けていたからか、体力が凄い伸びた。
そして予想外にも、知力まで上がった。
おそらく実体具現が影響したのだろう。
128が131になっていた。
230だった器用さも同じ理由で、313に爆増している。
1人ではできないことも、2人なら可能となるからだ。
レベル6の実体具現も増強必要値が4に減っていた。
丁度良いから、SPを使用して強化した。
実体具現がレベル7になる。
次の増強に必要なSPは引き続き5のまま。
性能は2体同時に出すのが、かなり楽になっただけ。
期待してた分ぐらいには向上したので、よしとする。
他に目立つ成果は、魔力操作がレベル30になったこと。
そして最近修得しようとしている≪気力操作≫も、調子が良い。
修得に必要なSPが23だったのが、現在では15に減っている。
かなりいいペースと言える。
実体具現を使用し続けた副産物として、想像以上に上手くなったのだ。
「そろそろ、50階層ボスの攻略も考えないとか……」
今の狩場でレベル上げを続けてても、効率が悪くなる。
そんなことを考えていると、冒険者カードが鳴り始めた。
確認してみると、オレが担当した新人――≪別井 双樹≫からの電話だった。
「もし――」
『塔っち先輩ー! 聞いてくださいよ!!』
時間的に、学校も昼休み中のはず。
人気のないところで電話をしているようだ。
「何を聞けって?」
『実はまた、年上の女性に告白されたんッス』
「そりゃあ良かったな。じゃあ切るぞ」
双樹はモデルをやっていて、よく雑誌に載るほどの人物だ。
告白されるのは珍しくもない。
『ああっ! 待って! 今度良い女の子紹介しますから! 相談に乗ってくださいよぉ!』
「断る」
オレは電話を切った。
以前までは、面倒な女性に絡まれるたびに相談に乗っていた。
だが、もう担当ではないのだ。
自身の問題ぐらい自力で解決してくれ――と思うも、また電話が掛かってきた。
「もしもし?」
『いきなり切るなんてひでぇッスよ! こんなに頼んでるのに!』
「切るって言っただろ」
『そんなこと言わずに! もしかしたら、≪ムギっち≫にまで被害が行くかもしれないんッスから!』
ムギっちというのは、オレが担当していたもう1名。
冒険者名がムギという、≪藤嶺 こむぎ≫。
歳は双樹の2つ下。
オレから見て6歳下の女の子で、猫っぽい種族とのハーフ。
正確な種族は、母親を知らないため分からないそうだ。
「被害が行くって……嫉妬か? 面倒だな」
『まあ嫉妬ッスね……。よくあることッスけど、今回は相手も冒険者で、ちょっとオレの手には余りそうっていうか……』
「オーケー。そういうことなら聞くよ」
相手が冒険者となれば、命に関わる可能性を否定できない。
可能性だけでは警察なども動かないから、独自に調べて確証を得るしかない。
数日後オレは、双樹と共に27階層へとやってきていた。
現在ゲートが発生している可能性が高い階層だ。
何かするには悪くない条件が整っている。
双樹に告白した人物が行動を起こすなら、今日だろう。
「数が多い。予想通り≪ゲート≫が発生してそうだな」
「ゲートってアレっすよね。魔塔が蓄えてる魔素が溢れて~ってやつ」
「ああ。最近発生数が多いんだよな……。警戒を怠るなよ」
「了解っす!」
天地の魔塔に、世界中の魔物が収容されているのは有名な話だ。
魔物は元を辿れば、根源的エネルギーの一種である魔素が原因で発生する。
ゆえに魔素が溜まっていくと、いずれは溢れ出す。
定説では、魔塔外部にまで出さないために、定期的に魔物を大量に発生させているという。
最近のゲート発生数は、例年を大きく超えている。
良くない事が起きる前兆だと言う者もいるぐらいだ。
「彼女、行動に出ますかね」
「これだけ材料が揃ってて今日動かないなら、お前の思い過ごしってことでいいだろ」
「そうッスね……。何もないと良いけど……」
―キャラクター紹介①―
別井 双樹 冒険者名:双樹
髪:金髪
目:二重・つり目
年齢:16歳(高校1年生)
血筋:日本人
誕生日:4月19日
身長:188cm
体重:77kg前後
一人称:オレ
武器使用頻度:魔物>>拳>>盾
夢:動物(魔物)に囲まれたスローライフ
行動理念:面白いと思える事には積極的・でも責任は極力負いたくない
性格:気さく・冷徹・素直・熱心
趣味:動物(魔物)との戯れ・冒険者活動・ランニング
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履歴
中学生に上がった頃、家族に応募されモデルとしてデビューを果す。
周りの人間に嫌気が差し、これなら動物と居るほうがマシだと想うようになる。
中学2年の秋の終わり頃に凄腕の冒険者を直接目撃し、憧れるようになった。
自分もやってみたいと思い、冬の内に調べ春から冒険者となる。
そして担当となった先輩は、小並塔也であった。
初期頃はこの程度の者ならすぐに超えられると思い、内心では塔也のことを舐めていた。
現在も実力は過小評価しているが、頼れる先輩として好感を持っている。




