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5体目 夢見の粉

 体力(HP)自動回復は、基本的に回復量が少ない。

 その効果をこれだけ強くするのは、地上100階層付近の素材でも不可能だ。


「並の品じゃないだろ……。回復量が地上のそれじゃない」


 指輪自体は普通のシルバーリングだ。

 しかし、宝珠は普通ではない。

 この小さな宝珠では、地下の素材を使わねば強力な効果は付かない。

 これを付与したのがレイナなら、相当な腕前だ。


「確か地下300階層付近の素材……? だったと思います」

「さんびゃ……。いくらすんだよこれ。貯金に余裕ないし買えないって」


 地下は4桁の階層まで突破されている。

 そう見れば、300階層はまだ(あさ)い。

 オレの見立てだと、加工代も含めたら軽く100万以上はする。

 4桁万を超えることはないと思いたい。


「お金なんてとんでもない! 在学中はずっとお世話になってましたから。それに、売れない物なんです。是非使ってあげてください」

「いやいや。これが売れないなんてことないだろ」


 オレの感覚から言っても、200か300万は出しても欲しいぐらいだ。

 出せるだけの貯金は持ち合わせていないが……。


「それはその……言えない規約なんです」

「……地下に関わる件ってことか」


 地階入り冒険者は放置できないほどの力を持つ。

 レベル100を超えると、火力型の者なら装甲車すら破壊できる。

 警戒されるのも当然だ。


 100階層の試練を突破すると、警察が接触してきて説明をされる。

 そこで様々なルールが課されるという。

 なので深く追求するのは失礼だ。


 装備などに強力な魔法的効果を付与するのも、地下入り冒険者でもないと難しい。

 低レベルの者がやっても、実力不足で強い効果が付与できない。


「でも、本当に貰っていいのか? 返せるものなんてないぞ」

「私としては先輩に使ってもらえたら、それで十分なんですが……。気になるようなら、1つお願いをしてもいいですか?」


 変な気を使わなくても、レイナは望むことがあるなら言葉にしてくれる。

 何事にも見返りは必要だ。

 オレは相手が何を望んでいるか分からないと、警戒心が勝ってしまう。


「お願いって?」

「その……えっと……。遊園地とか水族館とか、一緒に行ってもらえないかなぁって。無理にとは言いませんけど、ダメですか?」


 レイナはオレがパーティーを抜けた理由を知っている。

 流れに任せて心情的部分ですら話してしまったこともある。

 それを知っていて誘ってくるのは、どういう了見か……。

 遊園地などでは、ちょっとした買い物に付き合うのとはわけが違う。


「遊びに行くけなら、構わないよ」


 オレは悩みつつも、額に手を当てて答えた。

 レイナならオレが求めていないことを分かった上で誘ってきたはず。

 ならば、その気持ち分ぐらいには答えてあげてもいい。


「やった! 先輩は、いつ頃なら予定が空いてますか?」

「大体いつでも。土日は人が多いから避けたいって程度かな」


 高価な装飾品を簡単なお願いだけで貰っては、少しの罪悪感が残る。

 しかし他人の気持ちなど分からないのだ。

 自分にとっては大したことではなくても、相手にとっては大きい場合もある。

 相手が本当に望んでいるのなら、それに答えるのが一番だろう。


「なら明日は遊園地で、明後日に沖縄の水族館で、その次は……」

「え?」

「何か、問題でもありました……?」

「沖縄……? てかその次って」


 予想外に大きな要求で驚いた。

 しかも行動が早い。

 冒険者だから肉体的には問題ないだろう。

 だが精神的には、魔力が高かろうと関係なく(まい)ってしまいそうだ。


「ダメでしたか……? 誘ったのは私ですから、費用は出しますが……」

「いいや、自分の分ぐらいは出すよ。ただ流石に、連日はきつい」


 本当ならレイナの分まで出すと言いたいところだ。

 しかし限度はある。

 飛行機まで使うとなれば、オレには気軽に奢ると言えるだけの収入が無い。


「そうですか……。なら――」





 レイナからの要求は続いた。

 数回に分けたお出かけは、合計1週間にも及ぶ。

 だが、こちらの許容できる範囲を(うかが)いながら決めている節があった。

 これを機会に、装飾品分でオレが払える行動期間を搾り取ろうという勢いだった。

 オレからしたら、装備(ゆびわ)の分の支払いは果たせたと思える。


 後はレイナが満足できたかどうか。

 デート中、はしゃぎすぎて数回貧血を起こしていたぐらいだ。

 凄く幸せそうにしていたから、満足してくれたのだろう。

 そしてオレは、精神に多大なダメージを受けた。


「今回は無理を言っちゃってすいませんでした。でも、凄く楽しかったです」

「レイナが楽しかったならよかった。オレも楽しかったし、無理なんてことはないって」


 無理ではないが、(つら)くはある。

 オレは過去にあった一件以来、対人関係での幸せを認識するたびに、精神的に落ち込むようになった。

 心から信じる相手に裏切られたがゆえに、人を信じきることができなくなった。

 いくらオレを想ってくれる相手が居ても、オレから望み求めることはない。

 望めばそれだけ、辛い想いをするだけだから……。


「……あの、今度寝る時、これを使ってみてください。高価な物ではないけど、良い夢が見れるらしいです!」

「……≪夢見の粉≫だっけ」

「ご存知でしたか」

「名前とかだけ本でな」


 過去にどこかの本で見て覚えた、魔法の花を加工したアイテムだ。

 別名≪幸せの粉≫と言われる、(かす)かに光る紫色の粉。

 強いストレスを抱える者にほど中毒性が現れるため、使用制限もある一品だ。

 夢の中に逃げ続け、そのまま衰弱死した例があるのだとか。


「よく手に入ったな」

「友達……とは呼びたくないですけど、同僚みたいな人に譲られたんです。成分を鑑定済みなので、毒とかが混入してないのは間違いないです」

「毒って……。まあいいけど」


 希少品を譲られるぐらいの仲なのに、毒を疑うとは……。

 一方的に惚れられているとか、そういうことだろうか。

 受け取るのを少し躊躇(ちゅうちょ)する品だ。

 だが夢見の粉には興味がある。

 目の前に出されたなら、受け取らない手はない。



~塔也が貰った品~

≪命の指輪+3≫

効果1:体力比率(・・)自動回復(レベル÷2/60秒)

効果2:体力比率自動回復(レベル÷2/60秒)

効果3:体力比率自動回復(レベル÷2/60秒)


制約:①装備者を小並塔也に限定

制約:②効果2、3の解放に条件を設定(条件内容省略)

制約:③鑑定され次第宝珠の効果を失い破壊される





~裏話~


 指輪を渡したその夜、西寺玲奈は自室のベッドで転げ回っていた。

 実行したことを思い返し、顔が紅潮している。


「扉も閉めずに何してるのさ」

「聞いて聞いて!! ついに塔也先輩に指輪を渡せたの! それで、デートの約束までしちゃった!!」


 玲奈は、対峙する男のことを嫌っている。

 それでも長い付き合いなため、最近は気安い関係を続けていた。


「あ~……あの失敗して壊しまくってたやつ? 結局いくらかかったの?」

「自分で付与したから安く仕上がったけど……3億ぐらい? かなり失敗したけど、損はしてないよ。効果だけならもっと出す人がいるはずだから」


 宝珠は付けられる数に限界がある。

 多くを着けるとお互いに干渉して、効果を打ち消してしまう。

 レイナが用意した指輪は、最小限で高い効果を発揮する一品となっている。


「…………強くするために制約も付けたんだよね。小並ちゃんに気付かれたら不味くない?」

「鑑定したら壊れるって伝えたから大丈夫! 指輪の制約は見られないよ」


 制約。

 それは、天の試練を果した者に授けられる新たなシステム。

 一般人や冒険者の多くにも秘匿されている仕様である。


「まあ、いいけど。どうせデートするなら、これを渡しておいてくれない? たまたま手に入ったんだ」

「……………………自分で渡せばいいじゃん」

「ボクから受け取るわけないじゃないか。それじゃあ、頼んだよ」


 こうして玲奈は、渋々ながらも夢見の粉を受け取るのだった。


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