3体目 役割分担
高校を卒業してから1年以上が経過し、6月1日になった頃。
狩りを終える時間にそれは聞こえてきた。
『レベルが1アップしました』
当初はSPが溜まり次第、実体分身のレベルを5に上げようと思っていた。
けれど今日が6月に入った日だと思い至り、少し待つことにした。
月始めの活動日には、冒険者カードのステータスデータを提出する必要がある。
未確認の能力を得てしまったのだ。
予想外な進化を遂げる可能性はゼロではない。
特別な能力を持つ者はマークされることが多い。
この程度で何かしら行動を起こされるとは思わない。
しかしオレは、今度こそは誰にも邪魔をされたくなかった。
誰かに関わられる可能性は、可能な限り下げたい。
「確認しました。カードをお返しします」
「どうも」
冒険者カードを受け取ってから、挨拶を済ませて帰宅を開始する。
向かう場所は天地の魔塔の18階層。
転移球が配置されている場から近くにあるマンションだ。
住んでいる者の多くは、この魔塔に関わる仕事を持つ者。
そして日本が保有している階層なので、日本人ばかりだ。
通信関係は特別な物を利用する必要がある。
外よりも割り増しで料金が取られるが、使えるだけありがたい。
「さてと……どうなることやら……」
借りている自宅へ到着すると、早速スキルポイントを使用。
実体具現をレベル4から5へと上げた。
詳しい説明を見るために、能力の詳細を確認する。
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―能力―
・実体具現:レベル5【増強必要SP5】
・限界分身数:12体
・限界実体数:1体
・限界同時操作数:6体
・限界オート操作数:1体
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強く望んだからか、ついに限界距離がなくなった。
相変わらず、親切なようで説明足らずなのは気にしない。
できることは何となく解かるし、細かい部分も調べればいい。
事前に使った使用感を試しておかないのは命取りだ。
特に上を目指す者なら、情報は命の価値に匹敵する。
分身の限界距離が無くなったオレは、行動を起こした。
家の中で趣味に走るという行為を……。
『マジでふざけんなよ……。こうするしかないのは解かるけどさ』
分身とは魂的な繋がりで、念話が可能となった。
繋がりが強固になったがゆえに、限界距離がなくなったのだと思う。
出している分身は、49階層に居る。
本体はエネルギーの補給をしつつ遊ぶ。
分身は魔物との死闘を繰り広げるという、役割分担だ。
敵は不人気ランキング上位に位置する、霊体系の魔物。
霊体系は基本的に、魔力を帯びた有用な素材や魔石すらも落とさないことが多い。
しかも現在対峙しているのは、即死魔法を使う。
元となった植物、鉱物、生物などの存在が、これといって無いからかだろう。
生き物の怨念などが、魔力の塊として現れた魔物だとされている。
分身に即死魔法は通用する。
しかし本体まで死ぬようなことはないし、即死魔法は抵抗できる。
自画自賛になるが、オレは生半可な精神をしているつもりはない。
即死魔法で殺されるぐらいなら、オレはとうにこの世に居ない。
もし魔法を受けても、分身の心臓が凍り付きそうな感覚をちょっぴり感じ取る程度だ。
魔塔のシステムも不人気なのは理解してるのか、魔物を発生させる数は少ない。
それでも他の冒険者と競争にはならない。
魔物としても経験値はそれなりに多いようで、効率が良い。
そして数日も経過すると、魔物の出現数まで増えた。
1日目の結果。
レベルが1つ上昇し、レベルが56へと上がる。
2日目は上がず、57へ上がったのは3日目。
その後も獲得できる経験値は減ってゆく。
だが魔物の数が増えてくれたおかげで、順調にレベルを上げられた。
『レベルが1アップしました』
そして、レベルが60に上がった。
今日までに実体具現のSPは減ってくれなかった。
持つSPをすべてつぎ込んで、実体具現をレベル6へと上げる。
すると、予想外のことが起きた。
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―能力―
・実体具現:レベル6【増強必要SP5】
限界分身数:14体
限界実体数:2体
限界同時操作数:7体
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実体を生み出せる数を増やせたのはいい。
喜ばしいことだ。
しかしなぜか、オート操作数という表記までが消えた。
魔塔のシステムは、細かい部分では雑なところがあるという噂もある。
なぜ消えたかは分からないが、深い意味などないのかもしれない。
オートで動かせる数は、実体数より多く感じる。
虚像の分身に意志を持たせれば、最大7体ぐらいまで行けそうな気がする。
「2体に増えたけど、これじゃあ体力が持たないな……」
最近は体力の伸びも大きくなっている。
頻繁にギリギリまで消耗させることで、副次的に鍛えられているのだろう。
それでも足りない。
SPで強化するのも視野に入れるべきか。
今後能力が成長していけば、分身が分身を出せるようになるのが解かる。
すると乗算的に数が増えるため、消費も倍増する。
何かしらの対策をせねば、多くの分身を具現化できない。
次の目標は、消費するエネルギー問題の解決だ。




