2体目 レベルアップ
レベルが53へ至り実体具現を覚えた。
その日、オレは検証を繰り返した。
そして分身で魔物を倒して解除した際、本体に経験値が入った。
虚像や実体の分身には確認されていない現象だ。
オレの実体具現は、本体とは別に意思を持っている。
それが何かの作用を起こしているに違いない。
「きっついなこれ……。消耗激し過ぎないか」
「レベル1だから生命力が駄々洩れなんだろうな。≪気力操作≫も修行とかしたことないし」
分身との会話で≪気力操作≫という言葉が出てきた。
≪気力操作≫、それは生命力を精神力でコントロールする技術だ。
オレの虚像の分身は、魔力的成分しか使用していない。
なのでオレは、生命力の操作はできない。
「じゃあ覚えるか? 時間掛かるだろ」
「生命力は魔力以上に制御が難しいって言うしな……。必要SPも23必要だし」
「半年近く掛かりそうだな」
気力操作は覚えるのが難しい。
一般的には修得までに3から5年必要だと言われている。
天才的に早い者でも数ヶ月は必要だ。
オレの場合でも冒険者なりたての頃は、SPが50必要な技術だった覚えがある。
「……仕方ない。少し金が掛かるけど、強引にレベル上げるか」
「体力増強剤でも使うのか?」
流石は自分自身なだけはある。
何をしようとしているのか理解できるようだ。
後日オレは、一時的に体力を増やして戦闘に臨んだ。
この前までは安全マージンのことを考慮して、35階層で地道にやっていた。
しかし現在居る場所は45階層。
安全マージンは4人パーティーで、平均レベルが55が必要。
本来はレベル53のオレがソロで挑む階層ではない。
それでも、今なら安全を確保しつつ戦闘が可能だ。
「じゃあ任せた!」
「あーい……」
オレは具現化された分身に突撃させた。
現在分身で出せる性能は、本体の8割ほどだ。
性能を下げれば長時間の維持もできる。
「……戦闘だとやっぱ多くエネルギー持っていかれるな」
多くの集中力を必要とする上に、分身は捨て身なため敵の攻撃に被弾する。
作り直すのは簡単だが、消耗速度は平常時と比べて段違いに増える。
体力増強剤がなければ、30分持たない。
このカロリーが凄まじいドリンクを飲んでも、1時間半しか待たなかったが。
「ギブ!! もう限界……!」
完全に戦闘不能になる前に、一時的に避難。
再び様々なドリンクや食材などを食い、エネルギーを補給する。
知り合いにお勧めされた品なだけあって、効果は抜群だ。
「……すっごい効果あるな、これ」
正直なところ期待はしてなかった。
しかし1本あたり1万近いお値段がするだけあって、期待を超えてきた。
元々のオレからの期待値がとてつもなく低いのは別にしても、十分目的を果たせそうだ。
午後になり、その時は来た。
実体具現のレベルが2に上がったのだ。
「だいぶ慣れてきたとは思ったけど、もうレベル2か……」
増強必要SPが1だったから、こんなものだろう。
お金の力を使い、本来必要な修業期間を強引に縮めたに過ぎない。
確かな効果が確認できたから、もうしばらく購入を続けようと思う。
能力の燃費がよくなったら、次は限界距離を延ばす努力をする予定だ。
今日は調子に乗って夜深くまで狩りを続けてしまった。
油断しているわけではないが、適正以上の狩場だ。
まだ余裕のあるうちに帰宅するのが賢明だと判断した。
「この素材は……45層のですね。いつもより高い階層のようですが……」
「最近ようやく、便利な能力を使えるようになったんだ。ソロでも十分安全だと思ってな」
強力な能力を持ち、一般の適正以上の階層へ上がる者は珍しくない。
オレの発言を聞いて、受付の猫の獣人の子も納得したようだ。
「そうでしたか。それでも、気をつけてくださいね」
彼女は、3年ほど前まで担当してくれていた受付の妹らしい。
姉が金髪で≪サン≫という名前。
今この場に居るこの子は銀髪で、≪ムーン≫だったか。
まだ新人なためか、事務的なところが薄く親身的なところが多い気がする。
「あと、これが今月の給料明細になります。やっぱり今年は、新人育成の仕事は受ける気はないんですか?」
「自分のことを優先したいから……」
「そうですか……。受ける気になったらいつでも言ってくださいね」
「ああ。それじゃあ、お疲れ様」
「お疲れ様です」
オレは去年、2人の新人教育を受けていた。
その手当が無くなったため、給料明細の額が減っている。
給料は様々な要因から決定される。
魔物から回収した魔石や素材を持ち込んだり、ギルドからの依頼を受けたり。
毎月決められたノルマを狩ることを条件に、固定給をもらうケースなどもある。
30階層代以下で活動している冒険者は、生活もギリギリなレベルだ。
『レベルが1アップしました』
1週間が経過して、自分のレベルが上がった。
実体具現のレベルは4だ。
維持が楽になり、限界距離もかなり伸びた。
相変わらず燃費は悪いが、戦闘時のみなら問題ない程度になった。
分身は魔法も使えるため、短期決戦が可能。
被弾を無視できることを考慮すると、1度の戦闘は10秒前後で終了する。
使用時間が短いため、なんとか体力が足りる。
解除する時生命力を回収しきれないのも、かなり改善してきている。
「そろそろ薬に頼らずに済みそうだな……」
実体具現の次のレベルに必要なSPは5になった。
自分のレベルが上がり55になった頃には、性能も大きく向上しそうだ。
その55へのレベルアップは、このペースなら1週間後になる。




