マイナス17体目 役割演技
ある日、冒険者カードを確認した時にはこの能力があった。
画面の説明文にはこう記されている。
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能力
・役割演技:--【成長限界】
・本心から想えば新たな心を生み出し、なりたい自分になれる
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説明文を見ても謎だった。
レベルが無いのは、覚えようとして覚えられる類の能力ではないということだろう。
役割演技――英語で言うならロールプレイだ。
ネットで調べてみるも、この能力がヒットすることはなかった。
説明文といい、能力名といい、一体どこの誰が記しているのか。
多く存在する魔塔の謎のひとつだ。
思い当たる発生原因はある。
解離性障害。
極度のストレスなどから心を守るために発生する、多重人格の障害がある。
原因は明白だ。
のぞみのことを想う両極端な感情の落差に耐えられなくなり、片方の気持ちを切り離し押さえ込んでしまったから……。
相反すると思っていた2つの感情を長く持ち続けた結果、別々の自分として共存したのだ。
今ではのぞみを嫌う自分も、もう1つの感情も認めている。
目覚めた能力はもう1つある。
≪実体具現≫だ。
役割演技が切っ掛けだと思う。
鍛えてもいないのに、ここ最近なぜか分身の能力レベルが徐々に上がっていたのだ。
49からは頻繁にステータスの確認する日々を送る。
そしてレベル50にると同時に、2つの能力が発生した。
無自覚に発生した役割演技とは別で、実体具現は芽生えただけだ。
修得するのに必要なSPは、28……。
「28……なのは良いとして、具現ってなんだ……? まあいいか」
本来現れる予定だった能力は、実体分身だ。
なぜ具現という文字が使われているのかは分からない。
考えても無意味そうだったので、「多分、役割演技関係だろ」と思い、考えを放棄した。
卒業するまでは、実体具現を覚えるために訓練を重ねる。
そして必要SPが減るのと同時に、分身のレベルも上がった。
卒業して冒険者ギルドへの就職すると、いきなり新人の担当を任された。
実体具現は覚えたいが、急いではいないから仕事を請け負う。
担当するのは通例通り2名。
ただし、初めから特殊能力を持つ金の卵たちだ。
「よ、よろしくお願いします……」
1人目は、智恵さんの家族が経営していた施設に居た子。
≪藤嶺 こむぎ≫という、猫らしき種族とのハーフだ。
出ている特徴は、猫耳と尻尾を生やしていて、人間の耳も含めて耳が4つあるぐらいか。
先に貰った書類を見た時は、時の流れを感じたものだ。
智恵さんが亡くなってから、もう4年が経過している。
「ふーん……。あなたが先輩ッスか。オレは≪別井 双樹≫! どうぞよろしくッス!」
「あっ。あたしは藤嶺こむぎです! 冒険者名はムギです!」
もう1人は人間の男性。
金髪長身の中学3年生だ。
受験を控えているタイミングで冒険者になるとは珍しい。
「冒険者名かぁ……。先輩はなんて名前ッスか?」
「トウヤだ、しばらく面倒みることになるから、よろしくな」
2人への指導を行いつつ、1年が経過。
平日は午前中に100匹のノルマを倒し、午後に時々面倒を見る毎日。
そして冒険者になり6年の時が経つ頃になる。
「100匹目……!」
ついに修得必要SPが5にまで減少。
自身のレベルも52となり、SPが4ある状態。
後一歩でレベルが上がり、実体具現を覚える時が来た。
これにて第1章完結です。
幕間とキャラ紹介(追記あり)を挟んでから第2章へ入ります。
1章というひとつの区切りということで
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