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(うつ)注意


 それは一日の授業が終わり、放課後になった時のこと。


「今日は予定も入ってないし、このまま帰るか」

「ごめんね。今日はクマ君たちとの約束があるの」

「クマーと? なんの?」


 パーティーを組んだり抜けたりするのは、書類をギルドに提出する必要がある。

 クマーと清川とは、昨日契約を解除した。

 しかしのぞみとは、まだ組んだままだ。

 解散して即日会う約束をしたとあっては、あまり良い用事だとは思えない。


絆地(ばんじ)ちゃんとパーティーを組むためだよ、小並ちゃん。居ない場所で話そうと思ってたんだけど、隠せるようなことでもないし、ここで言っちゃおうか」

「…………」


 のぞみが答える前に、クマーが後ろからやってきた。

 オレに気を使おうとしたのだろうが、結局はこの場で話すつもりのようだ。


「友達だからこそはっきり言うけど、小並ちゃんはこのままじゃ足手まといなんだ。それは絆地ちゃんにとっても同じだよ。このまま2人でパーティーを続けようだなんて間違ってる」


 図星を指された。

 確かにのぞみの才能を伸ばすなら、オレと共に居るべきではないのだろう。

 クマーからの追及は、棘は有るが間違っていない。


「絆地ちゃんだってまだまだ上に昇れるだけの才能があるんだ。それを潰すなんて、キミだって望むところじゃないだろう? それとも小並ちゃんは、私情を優先して稀有な才能を潰す気かい?」

「クマ君、なにもそこまで言わなくたって……!」


 のぞみには才能がある。

 しかしオレは、2年前に約束した通り一緒に活動を続けたいと思っている。

 身勝手な考えなのは分かっている。

 それでも……。

 のぞみの才能を潰すことになっても、一緒に居たかった。

 だがそのことを口に出せば、これまでの関係ではいられなくなるかもしれない。

 もし断られたらと思うと、口には出せなくなった。


「悪いけど言わせてもらうよ。小並ちゃんは仮にここから別の道に進んでも、結局は中途半端だ。≪実体分身(・・・・・)≫を得られたなら十分に伸びるんだろうけど、まだ芽すら出ないじゃないか。(あま)ってるSPを≪分身≫つぎ込めとは言わないけど、けじめは付けるべきじゃないかな」

「けじめか……」


 クマーが言うように、魔法に進んでも今からでは遅い。

 大きく出遅れている状態では、他の才能のある者の劣化になる。

 そろそろ力の差を誤魔化すのも、限界なのかもしれない。


 のぞみとの関係も、けじめを付けないといけない時期だ。

 中途半端な状態で居られる期間は、もう終わり。

 0か100か、はたまた別の答えが返ってくるのかは分からない。

 それでものぞみには、オレの居ないパーティーで活動して欲しくない。


「のぞみは――。オレはのぞみとは目指してる場所が違う。智恵さんには悪いけど、天の試しなんて受けたくない。それでものぞみと一緒に(・・・・・・)、冒険者を続けたい。それがオレの答えだ……」


 これがオレの出せる、精一杯の告白だ。

 最初はのぞみに回答を丸投げしてしまおうと、口に出しそうになった。

 しかし逃げの選択は()み込んで、オレの気持ちを伝えた――はずだ。


 のぞみが上を目指さないなら、適当な階層で一緒に活動するのも良い。

 もし望まれるのであれば、時間を掛けてでも一緒に上を目指しても良い。

 だが、オレの望む答えは返ってこなかった……。


「……ごめんね。私も塔也君と一緒に続けたいけれど、頂上を目指したいの。智恵さんが何を想ってたのかは分からない。でも、だからこそ諦めたくない」

「……そっか。ならパーティーを組むのも、ここまでだな」


 オレと活動を続けたいとは言ってくれている。

 だがそれは二の次だ。

 のぞみには優先したい想いがあるのだろう。


 相反する活動方針を掲げているなら、どちらかが譲るしかない。

 しかしオレは、譲れるだけの実力を持ち合わせていない。

 のぞみが時間を妥協して、共に頑張ろうと言うならオレも諦めない。

 だが、「オレと続けたい」と「頂上を目指したい」は、別の(くく)りにされている。

 ならば引き止めるのではなく、背中を押すべきだ。


「オレは1人でも戦えるから、のぞみも頑張れよ。助けになれることがあるなら、その時は協力するから……」


 オレは帰宅するために歩行を開始した。

 後方から何か言われていた気もするが、内容は頭に入ってこなかった。



 自室に着き次第ベッドに倒れこみ、冒険者カードを取り出した。

 オレは今日、冒険者としての活動などどうでもよくなった。

 上に行けるだけの実力がないのなら、目標など有って無いようなものだ。

 溜め込んでいたSPも、投げやりに分身の強化に使用した。


 まずは10ポイント使う。

 能力レベル30の、残りSP15となる。

 性能は大きく向上しても、能力は進化しない。


 レベル40。

 性能は向上しても、実体分身の芽すら出ない。


 そしてレベル45。

 強化に必要なSPは相変わらず1のまま、当然のように性能すらも変化しなくなった。


「くそっ……! どの道、ダメだったのかよ……」


 たとえ早い内にSPをつぎ込んでいても、同じ結末だったと思い知らされた。

 これだけならまだ、(あきら)めも付いたことだろう。

 しかしオレの心を壊す出来事が起きるのは、ここからだった。



 夜中の遅い時間、のぞみと2人きりになった。

 これで諦めも付くと思い、オレはSPを使ったことを告げた。


「――ってわけで、結局(けっきょく)ダメだった。性能が上がる気配すらなくなったし、頭打ちなんだろうな……」

「きっと大丈夫だよ! レベル50になれば実体だって……。私も手伝うから、もう一度頑張ろ!」


 手伝うとは言ってくれるが、もう十分頑張った。

 これ以上時間を費やすのは不毛にしか思えない。


「オレはもう良いよ。のぞみこそ頂上を目指すんだろ? なら、足踏みしてる暇はないはずだ」

「それは……ごめんなさい。私、(うそ)をついてたの」

「嘘……って、何が……」


 理解が及ばず、訊ねてしまった。

 あんなことになると分かっていたなら、聞くべきではなかったと後悔することになる。


「頂上を目指したいのは本当だけど、塔也君と一緒に行きたいの。塔也君に、智恵さんが言ってた、「頂上にたどり着いて」ってお願いを、聞き届けて欲しいかったの」

「なんだよ……それ…………」


 結局のところ、オレの都合より智恵さんの遺言(ゆいごん)かどうかも怪しいお願いを優先している。

 死者からの頼み事を大切にするのはいい。

 しかし、なぜもっと早く言ってくれなかったのだ。

 のぞみからの頼みであるなら、オレは喜んで頂上だろうがなんだろうが、目指すというのに……。

 怒りよりも、悲しさばかりが積もってゆく。


「なんで嘘なんて()くんだよ。あんな大事な場面で……!」

「どうすれば実体分身を覚えさせられるのか、クマ君に相談したら……ううん。クマ君の責任じゃないよね。私が塔也君に、智恵さんの想いに答えて欲しかったの……。そのためには、他の人には無い特別な力が必要だって思ったから……!」


 のぞみは、真っ直ぐ真剣な眼で見てくる。

 しかしオレには、最悪な気分しか与えられなかった。

 どこまで行っても智恵さんのことばかりだ。

 オレのことを、想っていないわけではないのだろう。

 しかし「智恵さんの想いに答えて欲しい」とは、つまるところオレに対して恋愛感情を(いだ)いていないと宣言されているようなものだ。


 何より、大切な気持ちを嘘で否定された。

 さらには自己満足のために利用しようとまでしている。

 あろうことか、否定していたのを無しにして、もう一度頑張ろうとまで言うではないか。

 深く聞けば、ただのすれ違いや誤解なのかもしれない。

 だが当時考える余裕など無かったオレは、オレの想いへの否定として受け取った。


「ふざけんなよ……」


 悪意はないのだろう。

 それでもオレの心は、打ち砕かれた。


 この世で(もっと)も信じていた人に信用も信頼もされず、挙句(あげく)()てには人生を左右するような場面で嘘を吐かれた。

 もうオレは、何を信じれば良いのか解からない……。


()せろ……」

「塔也君?」

「この場からさっさと消えろって言ってんだよ!! こんな想いをさせられるなら、お前とも、他の誰とだって組むんじゃなかった! もう二度と、パーティーなんて組むもんか……!」


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