マイナス13体目 ゴリラ
年月は加速するように過ぎていった。
まずは恩師が亡くなってから、落ち着いてきたある日の図書館での出来事。
いつものように本を読んでいたら、レイナが話し掛けてきた。
「塔也さん。医学系の本を読んでいるんですか?」
「ああうん。能力を覚えたくてな」
「治療系の能力をですか?」
「ん~。治療というより実体の分身を作るためだな。医学系の知識が深くなれば、怪我した時の生存率が上がるっていうのもある」
智恵さんの一件から医学の大切さを強く感じた。
応急処置などの知識は1年間での教えで覚えた。
現在は専門的なものにも手を出している。
人体に詳しくなれば、実体分身の糧になるはずだ。
続いてある日の活動日。
清川は、とんでもない武器を持って来ていた。
「清川お前、なんで銃なんて持ってんだよ……」
「資格ならばちゃんと得たぞ? 手数を稼げる武器が欲しいと思っていたからな。薬物や爆薬は悪くないが、使いどころが難しいしな」
本体だけではなく弾丸もかなりの額になるはず。
だが清川は他で稼げているため、金銭的燃費はあまり気にしていない節がある。
「魔造科学だっけ? あれは覚えられそうにないか」
「うむ。相も変わらずカードにも出ないな。多少興味はあったが、自力で作ってこそだから気にせんさ」
清川以外の3人は得るものがあったから、少し悪い気が……しない。
こいつはこいつで、動画のネタを手に入れたのだから対等だ。
無幻弾というのは、ようは魔力を効率よく矢にできる宝珠だった。
職人に加工を頼んで、現在はのぞみの弓に装着している。
事件を機に、それぞれ冒険者として一皮剥けたと思う。
遊びはするが、戦闘中などの集中力はこれまでの比ではない。
20階層ボスの狼の亜人もあっさり討伐できた。
そしてオレたちは、高校生になる。
高校生にもなると、同年代の活動者が爆増する。
そんなある日のこと。
清川が魔塔内部にて、昔の知り合いを見つけ出した。
すると清川はポーズを取り、指を差しつつ宣言した。
「む! そこに居るのはイエローゴリラだな!」
「誰がゴリラよ!? って、清川君に小並君じゃない。久しぶりね」
オレが小学生の時のクラスメイトだ。
彼女には毎年のように腹パンされていた記憶しかない。
毎回力任せに殴られ、強引に事を運ばれたものだ。
「……こんにちは」
「……なんで距離を開けるのよ」
開けるなというのは無理がある。
一体何回、ゲロを吐かされたことか。
「そりゃあ……まあ、うん……。ゴリラだし」
ゴリラと発言した瞬間、彼女の姿がブレた。
次の瞬間には目の前に現れ、拳を構えていた。
「ちょ――ぶっはぁ!」
ちょっと待ってと言えず、拳はオレの腹へとめり込んだ。
オレのレベルを見極め調整したようで、絶妙な力加減で悶絶させられた。
「前に言ったわよね。その呼び方をしたら殴るって」
「そんなんだから、ゴリラって呼ばれるんだよ……」
「おいやめろシュナイダー! これでは俺がっ――」
オレは痛みに耐えながら清川を盾にしつつ宣言した。
最初にゴリラと言い出したのは清川だ。
犠牲にならないのは気が済まない。
それでも少しだけ計算外なことがあった。
清川の防御力は高い。
にもかかわらず、一撃で沈められるとは思いもしなかった。
想像以上に高レベルなようだ。
「2人とも中々鍛えてるわね。えーっと……絆地さん? も、久しぶりね」
「う、うん……。2人とも平気?」
「へー。凄いや。清ちゃんまで一撃だなんて。ゴリラって呼ばれるだけのことはあるね。黄ゴリラってことは別の色のゴリラも居るの? やっぱ赤と青は外せないよね! 下着の色ももしかして黄色っ――」
クマーも自ら地雷を踏み抜き、結果地面とキスをした。
これで3バカ全員が腹パンを貰いお揃いとなった。
「私の名前は≪木崎 ミナミ≫よ! 失礼な呼び方しないでよね!」
そういえば、そんな名前だった気もする。
言われるまで完全に忘れていた。
「えっと……。木崎さんも冒険者なんですか?」
「ミナミで良いわよ。冒険者名もミナミだから。絆地さんは?」
「私は、のぞみっていう冒険者名です」
冒険者名は黄ゴリラにしたらどうだ。
そう口にしようかと思うも、寸前で口を閉ざした。
言えば最後、殴られる未来しか見えない。
「そう……。あなたたちの制服って専門校のよね。将来は公務員志望? もし自衛隊志望なら、良い人を紹介してあげるわよ。商人志望なら私が面倒を見てもいいけど」
「自衛隊とか規則とか厳しいから無理。接客業も対応で死ねる」
規律だのルールだのと、面倒なことこの上ない。
オレは自由な身で居たい。
「相変わらずね……。まあ、ここで会ったのも何かの縁だし、連絡先を交換しましょう。ほら小並君、冒険者カード出して!」
「そっちも相変わらず押しが強いな。その服って……どこのだっけ。お嬢様学校?」
「ええ。周りからはそんな風に言われてるわね。あなたが住んでるところから、電車一本なはずよ」
適当に言ってみたら当たった。
制服の違いなどオレには分からない。
だが昔からお嬢様的なところがあったから想像通りだ。
「じゃあ、そろそろ行くか」
「待ちなさいよ。せっかくなんだからお茶しましょう。奢るわよ」
「奢ってくれるなら行く」
オレは奢るという言葉に秒で釣られた。
貰える物は要らない物以外貰う主義だ。
特に食べ物なら拒否しない。
「ふむ……。たまには休みにするか」
「ぼ……ボクはお腹が痛くて食欲ちょっとないかな……」
などと供述しているクマーも、数十分後には山のようにお菓子を食べるのであった。
奢って貰った高級店のお菓子は、美味であったことをここに記して置く。