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マイナス9体目 緊急クエスト

 悩んでいるあいだにも、3時間の時間制限は数字が減っていく。

 このカウントがゼロになると、クエストの再受注は不可能となる。


「どうしよう……。危険……なんだよね?」

「危険とは言っても超えられない壁じゃないぜ、絆地ちゃん。楽じゃないけど、普段じゃ得られないような経験もできるしね」



 人は死線を(くぐ)ると、大きく成長するという話はよくある。

 クマーの言うように安全とは言えないまでも、これは大きなチャンスだ。

 緊急クエストは一生縁のない冒険者も一定数居るぐらいの頻度でしか発生しない。

 高みに昇る人であるほど、何度も緊急クエストをクリアしているものだ。


「普段なら危険に遭遇しても、難易度など選べないからな。それに攻略方法もなんとなく分かる。是非受けよう!」


 早々あることではないが、普段の生活で危ない場面に遭遇して、それが乗り越えられる壁であるとは限らない。

 冒険者である以上、危険はつきものだ。

 後悔しないよう、パワーアップできる内にしておくのは悪いことではない。

 清川には別の目的もありそうだが……。


「お前は、撮れ高が欲しいだけじゃないか?」

「ああ! 11階層以降は愛香も、結界の外には出れなくなるしな!」


 いっそ清清(すがすが)しいまでに宣言した。

 挑戦権の無い者は、11層以降では結界にはじかれ外には出れなくなる。

 結界内に主柱があるとは限らないから、不便になるのは間違いない。


「タイトルはこうだな。【ボスに挑んだらまさかの事態に!?】。ボス部屋での緊急クエストを撮影できた前例はないから、実に伸びそうだ!」

「……とりあえず、清川は受けるのに賛成なのな。2人は?」


 危険だから確認は必要だ。

 誰か1人でも反対するなら、やめておくのが無難(ぶなん)だろう。


「はいはい! ボクは賛成!! 苦魔っていうのも察しはつくからね。覚える切っ掛けだけでも欲しいし!」

「塔也君は賛成……?」

「どっちかって言えば反対だな。危ないし。2・2で分かれるようなら無しな」


 オレは反対派だ。

 みんなが受けたいなら受ける。

 しかしオレ自身は、危険を(おか)してまで強くなりたいとは思わない。


「どうするの? 絆地ちゃん」

「無理する必要はないからな! 危険を避けるのは賢明な判断だ。俺は受けたいが」

「なら……受けようかな。危ないと思ったら逃げようね?」


 のぞみは反対派だと思っていた。

 向上心が想像以上にあるようだ。

 オレも賛成多数になったからには、否定する気もない。


「じゃあ受けるか。獲得能力予想の分身と呪い、魔造科学……?ってのと無幻弾。クエスト名の≪幻影の使者≫から推察すると、物理に強くて魔法に弱いタイプだろうな」

「では攻撃役は、シュナイダーとのぞみんだな!」


 清川からオレがシュナイダー、真冬がクマーと呼ばれているように、のぞみは≪のぞみん≫と呼ばれている。

 オレの渾名(あだな)だけ意味不明に付けられている。

 小並の()がショウとも読め、シュに改変するのはまだ理解できる。

 だが、ナイダーがどこから来たのかは不明だ。

 小学生時代、ナイダーはないだ(・・・)()とツッコんだ。

 そして空気が死んだ。






「作戦会議はこんなもんでいいか。受注するぞ……?」

「オーケー!」

「応!」

「うん!」


 クマー、清川、のぞみの順番で返答が帰ってきた。

 空中に浮かぶ光の文字で、【受注しますか】≪はい≫≪いいえ≫という文がある。

 オレは緊張で心臓の鼓動を早くしながらも、≪はい≫に触れた。

 するとボスが現れた時のように、今度は2箇所に魔素が集まりだす。


「2体か……」


 やがて人型をした、紫色の影のような存在になった。

 1体目はクマーに近い姿であり、両手剣のような影を持っている。

 2体目は女の子のような姿で、盾のような巨大な影に隠れている。


「あのクマーみたいな両手剣の方は、(おれ)が受け持とう」

「清川もクマーみたいだって思ったんだ? 女の子っぽい方も、知り合いに似てる気がするんだよな」


 盾を持つ影は、レイナの姿をしている気がする。

 戦歴とやらには人間関係も記録されているのだろうか。


「なに? 小並ちゃんまた女の子引っ掛けたの?」

「またってどういうことだおい」

「塔也君! 真冬君! くるよ!」


 クマーに問い詰めたい。

 しかしのぞみが言うように、敵が接近してくる。


(おれ)に任せろおおぉぉ!!」


 クマーモドキの影が、クマー本人より遥かに早く迫ってくる。

 予定通り清川が守りに入った。

 すかさず横にステップを踏んだクマーが(くぎ)を投げる。

 だが近づいていた影レイナが盾で割り込んだ。


「ありゃりゃ~。連携上手そうだね。一度下がるから小並ちゃんよろしく」


 クマーとオレは立ち位置を入れ替えた。

 オレは若干速度で(まさ)っているようだ。

 攻撃するチャンスはすぐに来た。

 しかし影たちは、攻撃を避けようとしない。

 槍は影を通り抜け、すぐさま修復してしまう。

 予想していた出来事なので、動揺はない。


「やっぱ物理はダメか。ならこれで……!」


 試しに分身で攻撃を仕掛けた。

 影たちは魔力のこもっている攻撃を意識しているようだ。

 想像以上に効果覿面なようで、クマーの(くぎ)同様避けたり防ごうとする。


「よし! 分身は通用しそうだ!」

「下がれシュナイダー!」


 オレは分身の操作に集中し、敵の隙を作ろうとした。

 だがその分本体への注意が(おろそ)かになり、自身の隙を作ってしまう。

 清川のフォローで事なきを得たが、少し危なかった。


「塔也君! 私も前に出るから下がって!」

「クマーよりは後ろに居ろよ?」

「うん!」


 現在、分身のレベルは4だ。

 3で細かい操作も可能になり、4で高速戦闘もできるようになった。

 無理をすれば虚像を2体出せるが、本体が棒立ちになる。

 消耗も激しくなるため、長期戦を考え1体で対応させてもらう。


「分身が通用する相手だと楽でいいね! 21層以降は滅多に通用しないらしいけど!!」

「一言余計だ!!」


 クマーは毒舌と共に(くぎ)を投げた。

 毒を()くと悪意的な気持ちも高まって、より呪力が増すとかなんとか……。

 のぞみも遠慮なく攻撃を放ち、2人掛かりでオレの分身を貫きまくっている。


「呪いの効果が薄いなぁ……。やっぱりもっと、殺意を込めなきゃダメだよね……!」


 クマーの(まと)雰囲気(ふんいき)が変化した。

 近づくもの全てを不調へときたしそうな不気味さがある。

 両手には普段より太くどす黒い(くぎ)を構え、両手剣持ちの影へと突撃した。


「……っ! クマー!!」


 オレは一瞬言葉に詰まるが、なんとか叫ぶ。

 あまりに無謀な突撃だ。

 いくら盾役が居るとはいえ、前へ出すぎだ。


 それでも清川は多少無理のある体制で攻撃を防いでくれた。

 その好機を逃さず、クマーが影の奥深くへと釘を打ち込む。

 引き換えに強烈な蹴りをお見舞いされ、遠くへと吹き飛ばされる。

 オレは盾持ちの影を牽制(けんせい)しつつ、クマーへと駆け寄った。


「大丈夫か!? なにやってんだよ……!」

「こうでもしなきゃ、清ちゃんが危ないでしょ? 盾もボロボロになってるしさ……。ボクは居なくてもなんとかなるけど、盾役が居なくなるのは不味いからね」

「…………はぁ。怪我は?」


 緊張の糸が解け、ため息が出た。

 クマーは口から血を流している。

 しかし量は少ないから、内臓にダメージはないと思う。


「……肋骨にヒビが入ってそうかな。大丈夫。まだ戦えるよ。こんなところでリタイアなんてできないさ……!」

「…………まったく。1人で格好つけるなよな」


 目を覚まされた気分だ。

 これは緊急クエスト。

 多少の無茶を押し通さねば、クリアなどできやしない。


 クマーの突撃は間違いなく後になって大きな結果をもたらしてくれる。

 攻撃役の影は明らかに動きを鈍くし、受ける清川が楽になった。


「ちょっと本気で集中するから、クマーは敵がこっちに来たらフォローしてくれ」

「…………ああ!」


 オレは2体目の分身を出した。

 影たちにそれぞれ1体ずつ付け、連携を取らせないよう立ち回る。


 そこからはあっというまに時間が過ぎた。

 気付けば戦闘開始から30分もの時間が経過している。


 そしてようやく、少しずつ削っていった両手剣持ちの影が消えた。

 盾を持っている方は攻撃手段に貧しい。

 後味が少し悪いが、袋叩きにさせてもらう。


 倒し終わった頃には、オレは頭痛が発生するほどに疲労していた。

 他の面々も限界だったようで、全員が座るか横たわって休んでいる。


 冒険者カードを確認してみると、分身はレベル6へと上がっていた。

 そしてコツを掴んだらしく、翌日にはレベル7へと至ることになる。


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