マイナス8体目 ボス戦
冒険者になり1年が経った頃。
ようやくボスへ挑む時がきた。
レベルは全員21を超え、それぞれが能力を修得した。
魔塔の各階層にある主柱。
その10階層の主柱内部を攻略し、オレたちは最上階へとやってきた。
攻略といっても、10階層区切りの主柱内部は簡素だ。
ボス部屋以外は巨大な螺旋階段しかない。
低い階層は挑戦者も多く予約制だ。
さっそく門兵に予約を確認を取ってもらう。
「確認できました。危ないと思ったらすぐに出てきなさい。キミらの武運を祈る」
「ありがとうございます。よしみんな! 行くか!」
よくある定義文のようなセリフを言われた。
年間に何百何千回と同じようなことを言うだろうから、言葉から感情が消えている。
一応お礼を言ってから仲間たちがいる方へと振り向いた。
「みんな頑張ってね!」
「ふはははは! 任せるがいい! 我が蜘蛛なんぞ壁のシミにしてくれる!」
「もう撮影モードかよ」
この場には冒険者ではない赤城さんも居る。
清川がどうしてもボス戦を撮影したいと言ったのが発端だ。
最初は嫌だと断ったが、後に挑戦する後輩のためだと言われ押し切られた。
ボスは90階層までは写真などを含め、ネットなどに情報が腐るほどある。
もちろん動画もあって、攻略方法が分かりやすく解説されていた。
「みなさんには後日、モザイク入り、編集済み、無編集の映像3種を提供しますから、問題があったら言ってくださいね」
オレたちが戦闘中、赤城さんがドローンによって撮影する。
部屋に入るのは4人の制限がある。
だが部屋の外側からの遠隔操作なら問題ない。
撮影程度なら次の階層への挑戦権は得られるはず。
ボス部屋の扉は高さが6メートルはある。
扉を通過すると、4人が入った時点でゆっくりと閉ざされた。
内側からなら開けるが、外からはびくともしない。
開けた場合は逃亡とみなされ、ボスは部屋から消えてなくなる。
「……出てきたか」
ボス部屋は奥行100メートル。
横は50メートル近い部屋だ。
少し進むと、前方に魔素らしき紫の煙が集まる。
やがて煙は、 手足を含め5メートル近い蜘蛛の魔物へと変貌した。
「予定通りクマーから」
「うおおおおおおぉぉぉ!!」
クマーは敵弱体化特化だ。
相手への妨害にのみ力を入れている。
なので手始めに敵の弱体化を頼もうとしたら、清川が突撃した。
「……たくっ! のぞみは追撃! 隙ができたらクマー頼んだ!」
オレは指示を出しつつ清川を追いかけた。
清川は物々しい盾を前方に構え、蜘蛛に押し付けるように衝突させた。
直後――大爆発を起こす。
「ぬおおおぉぉぉ!?」
爆風で吹き飛んでくる清川を、衝撃を後ろに流すようにキャッチした。
爆発は見た目ほどの威力はないが、非常に重い。
「痛っ――! ふざけんなよマジで……。弱体化させてからのはずだろ」
「だが、隙はできただろう?」
「ダメージソースがなくなるだろうが」
確かに蜘蛛は大きく仰け反った。
のぞみが放つ追撃により、そのままバランスを崩し倒れる。
これならデバフは容易く入れることが可能だ。
クマーもタイミングを合わせ、呪いを込めた釘を複数本投擲。
爆発で蜘蛛の装甲が薄くなった部位に突き刺さり、様々な悪影響を与えた。
しかし、このパーティーに高火力持ちは居ない。
「弱体化してしまえばこちらのものだ! みなで頑張ろうぞ!!」
「やるならせめて、先に相談しろよ……」
オレはサムズアップしてきた清川の頭をはたく。
結構力を入れたのだが、耐久力を高く上げている清川には通用しない。
仕方ないので切り替えて、武器を蜘蛛へと向けた。
「深追いはなしで! ジックリやろう!」
「やれやれ。ボクは体力がないんだけどなぁ……。まぁ仕方ないよね」
クマーの呪法もあり、蜘蛛は動きが鈍い。
虚像では分身も通用しないが、これなら時間をかければ楽に倒せる。
のぞみの矢のストックも心配ない。
≪マジックアロー≫という魔力を放つ技を覚えたから、魔力切れはあっても弾切れはない。
その魔力も多少は回復しつつ戦える。
攻撃のペースを考えて戦えば、長期戦も可能だ。
『トウヤ、のぞみ、クマー、ああああ。。以上の者が11階層から20階層の挑戦権を獲得しました』
やたら固くタフなボス蜘蛛を倒すのに、15分も掛かってしまった。
時間は掛かったが、こちらに負傷者は居ない。
結果は良いと言えるが、疲れた。
倒した時レベルが22になって多少回復したが、早く帰って休みたい。
「清ちゃんの≪ああああ。≫って、塔からの声だと『ああああ句点』になるんだね」
≪ああああ。≫という冒険者名は、清川が動画で使っている名前でもある。
常用するにはあまりにも呼び辛いため、清川と呼ばせてもらっている。
本人も気にしていないよだから、動画でも清川呼びは問題ない。
「そんじゃあ帰るか」
『無傷での階層ボスの討伐を確認しました。戦歴を確認します……。科学的道具を確認。強力な呪いを確認。未使用の特殊能力を確認。≪幻影の使者≫を作成しました』
帰宅しようと口に出したら、塔からのシステム音が部屋に鳴り響いた。
他の者にも聞こえたようだ。
「緊急クエストか! 是非受けよう!!」
「待ちなよ清ちゃん。まずは内容を確認しないと。緊急クエストは危険度が高いのが常だからね。下手に受けると怪我じゃ済まないかもよ」
緊急クエスト。
それは一定の条件を満たした際、魔塔のシステムが作成する高難易度の試練だ。
クエストは戦歴を参照され、意志の強ささえあればクリア可能な難易度を的確に作ってくる。
「代わりに突破できれば、より高みに至れるかもしれない……か」
空中に光る文字が浮かび上がり、内容を伝えてくる。
そこには、【内容:このフロアにて特殊仕様のボスを討伐。逃走:可能。制限時間:3時間。クリア報酬:無幻弾。獲得能力予想:苦魔・分身のレベルアップ・魔造科学】など、クエストのタイトルなどが書いてある。
どれが誰を対象とした報酬や能力なのかは予想がつく。
オレだけ地味な気がするが、どうしたものか……。