1体目 実体具現
「100匹目……!」
≪天地の魔塔≫。
そう呼ばれる魔塔の内部で、1日のノルマにしている数を倒し終わった。
だが、レベルはまだ上がらない……。
魔物の多くは分身を見破る。
だからオレは、見破れない雑魚の討伐数を日々稼ぐ。
しかしこの日常も、後少しでお終い。
16歳から3年間――冒険者になってからは6年間経過した。
レベルが上がると、スキルポイントを1つ得る。
余剰分となる魂の経験値が、SPとして加算されるらしい。
オレは3年前の出来事があった頃に、1度SPを使い切った。
そこから再び溜め続け、もうすぐ目標値に届く。
現在狩っているのは、魔力で敵を感知していると言われる雑魚妖精――≪インプ≫。
本日のノルマは終えたが、もう少しでレベルが上がる。
オレは狩りを続けるために、次の狩場へと進む。
するとほどなくして、5匹の集団を発見した。
適正レベルの冒険者であれば、4人以下ならやや危険な数だ。
しかし適正より上であり慣れたオレなら、単独で対峙しても敵ではない。
伊達に6年も冒険者をやってはいない。
その上こいつらは、虚像でしかない分身に騙されてくれる。
分身で捨て身の攻撃を仕掛ければ、容易く大きな隙を作れる。
オレは武器として短剣、刀、鉄のポールなどをよく使う。
現在は雑魚戦用の短剣だ。
慣れた手つきで手早く5匹を斬り裂く。
魔法を使うまでもない。
とはいっても、分身が消費の少ない魔法のようなものだが……。
倒し終えると、用済みの分身は消した。
『レベルが1アップしました』
魂の声とも呼ばれる内からの声が脳内に響き、魂のレベルが上がったことを教えてくれる。
レベルアップにより基本ステータスが上昇。
力が漲ってくる感覚が全身を巡る。
レベルの低いうちは、この万能感に酔ってしまいがちだ。
だが日頃の鍛錬も、レベルが高いほどステータスに影響が出るから侮ってはいけない。
「終わったあー!」
さっそく冒険者用のスマートフォン――≪冒険者カード≫を取り出し確認する。
レベルを持たない一般成人男性の基本ステータスは10。
≪知力≫と≪器用さ≫はレベルでは上がらず、平均は100だ。
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トウヤ 19歳 男 レベル:53
S P:5
体 力:128(+10)
魔 力:318(+10)
筋 力:92
敏 捷:181
知 力:128
器用さ:230
―能力―
・分身:レベル63【増強必要SP1】
・実体具現:--【修得必要SP5】
―強化―
・魔力強化:レベル1【増強必要SP1】
・体力強化:レベル1【増強必要SP1】
・筋力強化:--【増強必要SP1】
・......... ↕スライド
________________________
括弧内の+10という数字は強化分の数値。
合計値のうち、どれだけSPで強化されたかを示している。
53というやや語呂の悪いレベルになったが、現代ではそこそこのレベルだ。
50年前の魔塔がない時代であれば、これでも別格の強さだったことだろう。
そしてステータスを確認したオレは、≪実体具現≫の項目を選んだ。
能力はSPを使う以外に、努力することで修得や強化が可能。
分身のレベルも、半分以上は自力で鍛えた。
その分身がレベル50になったその時、伝承にも残る武道家が使っていたという、実体を持つ分身能力がオレに芽生えた。
そこから長いあいだ鍛え、ようやく覚えられる時がきた。
能力は変わった物でもなければ、基本的にレベル10区切りで大きく強くなったり進化する。
以前居たパーティーは根気強く、分身がレベル20になるまでは見守り協力もしてくれた。
しかし伝承のようにはならず、見限られてしまった。
オレに実体を作れるほどの才能がなかったということだから、そこは仕方ない。
だが理解はできても、仲間の大きく変わった態度には怒りを超え悲しくなった。
その時に大きな切っ掛けもあり、人付き合いもほとんどしなくなった。
この3年間はパーティーを組むこともせず、惰性に活動するぐらいには……。
思考を能力の方に戻す。
オレは迷わず、≪実体具現≫をタップした。
本当に修得するかの確認をされ、≪はい≫を選択。
能力は実際覚えてからでないと、使い物になるかどうか分からない。
6年間の努力が報われるかが、今決まる――。
『新たな能力の獲得に際して魂に刻み込まれます――成功しました』
肉体を青白い光が包み、長い月日の修行を一瞬で済ませた感覚が全身に迸る。
冒険者カードにも追加で記載された。
内容を見なくても、何ができるかを理解できる。
しかし文字で見たいから、冒険者カードは確認する。
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―能力―
・実体具現:レベル1【増強必要SP1】
・限界分身数:7体
・限界距離:183メートル
・限界実体数:1体
・限界同時操作数:4体
・限界オート操作数:1体
________________________
理解したおおよその内容が記されている。
この説明文は、大雑把なところが多々ある。
実際のところは、少しずつ慣らして確認するしかない。
その大雑把に記されている内容で、1つ気になる文があった。
「オート操作?」
分身に独自に動いてもらうことが可能だということだろうか。
感覚を確かめると、実際にできそうだと解かる。
「こうすればいいのか」
試しに生み出してみた。
体調が悪ければ集中力が足らず、分身を具現化できなくなりそうだ。
能力のレべルがまだ1だからだろう。
「……あれ? ん? ……ああ、オレが分身か。妙な感じだな」
「自分と話すのは確かに変な気分になるな。服とか増えた武器は実力依存のハリボテか」
一応、本体か分身かの区別はついた。
裸の状態で現れなかったのは、分身で培ったイメージの賜物だ。
「数分もせず消えそう……。エネルギーが枯渇するのが実感できて余計に怖いな……。その内慣れるか? 慣れないなら何度も死ぬみたいだし嫌だぞ」
「それはオレも嫌だ。消えたら記憶的な経験も還元されるっぽいし、なるようになるさ」
現在は意識を共有していないが、消えた時に分身が体験したことが分かるのは理解できた。
その日は実験を繰り返した。
いくつか検証後、目に見えないところで分身を解除する。
その時、嬉しいことが判明した。
冒険者カードで確認すると、次のレベルに到達するまでに必要な経験値の数値が減っていたのだ。
「おぉ。見えないとこで倒した魔物の経験値まで入った……」
限界距離を伸ばせば、かなり使えそうだ。
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