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真夜中。
真夜中になった。山の中にひとりの男がいた。そして、山の麓の村を見下ろしていた。シロイが暮らしている村である。
村はもう静かになっていた。動いている人間は誰もいなかった。真っ暗だった。
その男のことをしる村人はひとりもいなかった。
男はこの村の人間ではなかった。村人との知り合いは一人もいなかった。しかし、その男は、この村のことをよく知っていた。訪れたこともなかったにも関わらずである。
男はこの闇を全く不気味だと思っていなかった。
彼はこの村でこれから起こるであろうことを考えていた。ひとりだけでその思いに浸っていた。まるで闇と一体化したような気分だった。実際、暗闇に男は溶け込んでしまっていた。
もしも、誰かがそこに通りかかっていても、気づかなかっただろう。