村役場の一階(1)
この村の村役場は3階建てである。この村に3階建ての建物はこれしかない。
その1階は受付になっている。村の男がひとりで受付にいた。村役場には、彼以外誰もいなかった。一人で留守番をしていたのである。普段はこのようなことはしない。今日だけのことだった。普段、ここには、自分ではなく、別の女が座っていた。彼女は、村長の秘書のような役割を果たしていたが、今日は、彼女もまた、別の用事があったため、村役場にいることができなかった。代わりに彼が受付としてここに座る役割を引き受けることになった。その女が自分に頼んできたのである。
別に誰もいなくてはいいのではないかと思ったが、村役場に誰もいないというのはどうかということもあるらしい。
ただ、自分が受付の役割を引き受けることになったのは、村の中で一番暇そうで、断られなさそうだと思われたからなのだろう。男はそう考えた。
男は何もしないでいた。考え事をしていたわけでもない。考えるようなこともない。考えるだけの頭もない。
そのうち、村長が帰ってくるのだろう。しかし、それがいつなのかはわからなかった。
静かである。そして、天気もよかった。村役場の入り口の扉は開けたままにしておいた。閉めたままにしておくより、空気の通りもよいからである。
男はただ宙を眺めていた。