タナカくん、トラックにはねられる。
タナカくんは高校1年生である。彼は困り果てていた。
彼はクラスメイトから携帯ゲーム機を貸してもらっていた。それを明日返すことになった。しかし、そのゲーム機の充電ケーブルがどこにも見当たらないのだ。家じゅうを探し回ったが、見つからない。どうやら外でなくしてしまったようだ。
どこで落としたのか思い出そうとしても思い出せなかった。そもそも、電池が劣化しているとはいえ、充電式のものだったため、内臓の電池をフル充電させておけば、数時間は遊ぶことができた。しかし、わざわざゲーム機と充電ケーブルを一緒に持ち出していた。人から借りたものを外にむやみに持ち出すべきではない。それくらいわかっている。それなのに、平気で外に持ち出していた自分がうかつだった。だが、反省しても、見つかるわけではない。
なくしたら、どこかで代わりのものを手に入れないといけない。しかし、決して新しいゲーム機ではないため、付属品を手に入れるのは、楽ではない。最寄りのレンタルビデオ屋に行ったが、ないとのことだった。インターネットの通販サイトで買うこともできるのだが、明日には間に合わない。
考えて、少し遠くのリサイクルショップに行くことにした。そこに行けば、10年以上前のゲームソフトがパッケージすらない裸のまま、ROMで売っている。きっとその充電ケーブルも手に入るだろうと考えた。青いワゴンの中にケーブルといった周辺機器が積まれていたことを思い出した。
「困った。」とタナカくんはぼやきながら、自転車で坂道を上っていた。充電ケーブルがいくらするかはわからない。税抜き百円で買うともできるかもしれない。もしかしたら、何百円も、してしまうかもしれない。数百円に困っているわけではないが、このような出費は気分がいいものではない。
そして、たとえ手に入ったとしても、なくしてしまったことは謝らないといけない。
そのようなことで、頭の中がいっぱいになっているうちに、彼は走ってきているトラックに気づかないまま、道を飛び出してしまった。叫んでいる余裕もないまま、自転車ごと彼はトラックにはねられた。