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双面の贄姫 〜身代わり令嬢はどうにかして悪役を回避したい!〜  作者: okazato.
第三章 身代わり令嬢の奮闘

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75 疑惑に本音①

 後ろ手を掴まれたまま、両ひざをついているテオドールは、しっかり顔を上げた。


「王太子殿下、私は悪事など働いておりません。ですがこの状況で、最も疑わしいのは自分だと理解しております」


 レオンが回復の兆しを見せたからか、彼もずいぶんと落ち着いたようだ。


 王太子は黙ってうなずくと、容疑者を立ち上がらせるよう、憲兵に向かって指示を出す。


 どうやら王太子も、凜乎りんことした態度をとる侯爵令息を、そこまで疑っているわけではないらしい。

 長いため息を漏らしてから、極めて冷静に話しだす。


「現時点では、そなたの主張だけを信じるわけにはいかない。まずは調査する時間をもらえないか? 一時的に、会場にいるフリオン家の者も王城へ連れていくが、表立って動くつもりはないので、安心してくれ」


「ありがたく存じたてまつります……」


 それから二、三やり取りをしたあと、テオドールは数名の兵らとともに、控え室を後にしたのだった。


 王太子は一息ついてから、モンドヴォール公爵に顔を向ける。


「それと公爵! 剣術大会は続行するぞ」

「承知いたしました」


 さらりと放たれた宣言に対し、公爵は異を唱えることもなく、頭を下げる。


 ソフィアはそのやりとりを、呆然と眺めていた。


 正気なの? レオン様は、まだ医師の判断もあおいでいないというのに?


 ソフィアに体を預けている護衛騎士は、時折苦しそうな声をあげていた。どう見ても、記念試合に挑める体でないのは明らかだ。


 なのになんで、誰も止めようとしてくれないの?


 ソフィアは苛立ちを覚えながら、口を開いた。


「殿下。いくら毒が抜けたからといって、レオンが試合に参加できると、本気で考えておられるのですか? それとも、これは願ってもない好機だとお思いですか?」


「ソフィ……ステファニー! 王太子殿下になんて口の利き方を!」


 まごつく公爵のことも、強くにらみつける。


 そもそも、なぜ公爵閣下も反論してくださらないのよ!? 先ほどまで、レオンのことをあんなに心配していたというのに。


 惑う公爵の瞳と、王太子の冷たい目がこちらを注視していた。

 あーもう! なんだってこんな状況になっちゃったのかしら!?


 どこかに潜んでいる犯人に恨みを募らせながら、護衛騎士を護るように、ソフィアは両腕に力を込める。


 とにかく、王太子の考えを変えなくちゃ。


 ソフィアは必死に思考を巡らせる。なぜ、レオンが狙われることになったのか?

 連続優勝を誇る彼の存在が、邪魔になる人間とは誰か。


 やはり犯人は、テオドールに優勝してほしいと願う人物だろう。レオンと最後・・に戦うことになった相手は、テオドールただ一人なのだから。


 ……あれ、ちょっと待って? ソフィアはわずかに違和感を覚えた。


 決勝の相手は、確かにフリオン侯爵令息だったけれども。大会優勝者には、決勝戦のあとに、王太子との記念試合が控えている。


 では、レオンが記念試合に出られなくなることで、利する人物が存在していた? テオドールが毒の剣を持つことに、意味があったの?


 いや、それよりも……毒を盛りたかった相手は、本当にレオン・・・だったのだろうか?


「ステファニー?」


 王太子がいぶかしげにこちらを見つめている。


 ソフィアは一つの可能性に思い至っていた。そして、それを口にすることが、どれほどの重みを持つのかということも、よく分かっている。


 けれども、王太子を止めるには、この話を切り出すしかない。ソフィアは決意を固め、ごくりと唾を飲み込んだ。


「……今回はレオンが被害に遭いましたが、これが彼を狙ったものかどうかは、定かでありません」


 王太子の眉がぴくりと動く。


「そなた、もしやレオンではなく、テオドールが……いや、違うな。私が狙われていたと申すか?」


「……確証はありませんが」


 心臓が口から飛び出るくらいに、早鐘を打っている。


 緊張をするに決まっていた。だってこれから、に対する暗殺計画が進められているかもしれないと、説明しなければならないのだから。


 やりとりを見守っていた面々も、新たな展開にざわめき始める。


「そなたの考えを聞こう」


 王太子はむすりとしながらも、続く言葉を待ってくれているようだ。

 ソフィアはしっかり息を吸ってから、大きく口を開いた。


「では、仮定の話をします! 毒に侵されていたのは、テオドール様が用いた長剣だけではなかったかもしれません。決勝戦のために用意されていた、二つの剣のどちらにも、毒物が塗られていたとすれば」


 大会優勝者は、そのまま記念試合に挑み、毒付きの剣で王太子を襲うことになっていたかもしれない。

 もちろん、恐ろしい陰謀にはなにも気づかないままに。


「最終的に毒剣は、あなたへ向けられていた可能性が高いです、ルイス王太子殿下」


 王太子は腕を組んだまま、真面目な顔つきでこちらを見つめている。


「そして、決勝に出た両名が、毒薬の入手に関与していないとすれば。試合用の長剣に毒を仕込めるのは、大会の運営関係者に限られます。けれども、大勢いる関係者の中から、犯人を探し出すのは容易ではないでしょう」


 記念試合を始めるまでのわずかな時間では、容疑者をあぶり出すことさえも、困難に思えた。


「レオンではなく、本当に王太子殿下が標的とされていたら。犯人は記念試合の場で、再びなにかを仕掛けてくるとは思いませんか?」


 “公爵令嬢”の不穏な言葉を受けて、憲兵らの表情が一層険しくなる。


 もはや、一子爵令息の傷害事件ではなくなった。次期国王を守るために、今できることはなにか、みなが考えているはずだ。


「ですから私は、記念試合を行うことに反対しているのです。御身おんみを守るためにも、いま一度お考え直しください!」


 ソフィアの演説が終わり、辺りは静まり返った。

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