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全宇宙で初の異次元一家

【第1章】




[1]




「よしっ!いいぞ死んじゃえ、そこだっ死ね、行け行けやっちゃえ、殺しちゃえ」




胸元で拳を振りながら、セーラー服の女子高生が興奮気味に物騒な台詞を口にしていた




「ちょっと美和ぁ~もう諦めようよぉ」




こちらも同じセーラー服の少女が、物騒な台詞を吐いている親友美和へ疲れ切った顔を向け囁いた




聞いているのか居ないのか?続けざまに美和が声を立てた




「そこだ!亀っ頑張れ亀よーしいいぞカニも行けぇ、やっちまぇ」




はぁ~・・と大きくため息をつき少女が呆れた顔で美和を見つめる




スレンダーな容姿にポニーテールのよく似合うこの少女の名前は南城彩子なんじょうあやこ


先程から人の死を願う物騒な事叫んでいる友人の名は戸成美和となりみわ


2人は都内の女子高に通う3年生、日課となっている学校帰りの寄り道場所は副都心池袋サンシャインの中にあるゲームセンターザ・ゴリラである




「でも本当に面白いんだって、ホントだよ彩」




「誰も嘘だなんて言って無いから、ゲームが空かないんだから仕方が無いでしょ」




少しポッチャリ顔の顔を更に膨らませ美和がブツブツと文句を言う




「あんなにいっぱい100円玉を山にして、テーブルの灰皿は山盛りで、ずーーとゲームを占拠してるんだよ、少しは他に遊びたい人の事も考えろっての」




「美和、ドンキーコングでも良いじゃん、ゲームの中のあの赤い人あれもマリオでしょ、同じじゃない?」




「ドンキーはもう飽きたぁ、あのマリオブラザースはホント面白いし、彩と二人で同時にプレイも出来ちゃうんだよ絶対に彩もハマるって」




人気の無い空いたゲームテーブル機に頬杖を付きながら彩が応える




「それは分かったけどさ、ねぇ美和ぁ~私お腹空いたぁ」




この彩子の一言にはピクリと美和も反応した「マック、ロッテリアにする?森永ラブも良いよね、どこにしよっか♪」




「最近出来たミルキーウエィにも行ってみたくない」




「あっ、そこ知ってる知ってる、あの至る所お星さまだらけの所でしょ、喫茶店蔵王のトースト食べ放題も飽きたし、それもいいね」




時はバブル経済で日本中が活気立つ1980年代、南城彩子、戸成美和、間もなく夏休みを控えた共に女子校3年生である




彩子が学生鞄を持ちテーブルゲームの椅子から立ちかけた時、美和が歓喜の声をあげた




「やったぁ!死んだ死んだよ彩、ばんざーーい、しかも赤く成った亀じゃ無くノロマな緑色の亀なのに、偉いぞ緑亀っ」




「ご飯食べに行くんでしょぉ、マリオはまた今度にしようよ、いいから早く行こうよ美和」




彩子の声に催促され美和もようやく鞄を持ち立ち上がった、その時二人の背後から声がした




「よぉ姉ちゃん達、ちょいと待ちなよ」




振り返った2人の目の前に絵に描いたようなツッパリ不良学生が立っていた




身なりは、太いボンタンズボンに白い縄ベルト、前を開いた学ランの裏地には竜や虎らしき刺繍が見え赤いTシャツの胸元には金のイミテーションらしきネックレスが光っている。


剃りを入れたパンチパーマで、口には咥え煙草が上下左右に忙しく動いている




2人に声を掛けて来たこの不良の更に2m程後方のテーブルゲーム機周囲にもやはりガラの悪い男達が5人彩子と美和を眉間に皺寄せ睨んでいた、先程から美和が心待ちに空くのを願っていたマリオブラザースを占拠していた心憎き連中であった。




不良学生が怒気を含めた声で言った


「さっきから聞こえてるんだよ、死ねだのやっちまえだの姉ちゃん達、俺達に喧嘩売ってんのか?


あぁっどうなんだよ」




咄嗟に彩子が頭を下げて謝った




「ごめんなさい、私達もあのゲームで遊びたかったからつい、度が過ぎました、ごめんなさい」




彩子の様子を横目で見ながら美和も習って渋々と頭を下げた




「ごめんなさい反省してます」




その様子を眺めながら男が意地悪そうな声をあげる、最初からからかい半分なのである




「御免で済むんだったら警察は要らねぇんだよ、なぁ~だろっおめぇら」




首だけで振り返り背後の仲間達にわざとらしく声を掛ける、如何にも悪そうな5人がニヤニヤと彩子と美和を凝視している




「特によぉ、こっちののチャウチャウ犬みてぇなお姉ちゃん、おめぇは特に許せねぇな」




美和を指差し男がそう言った時、思わず彩子が堪え切れずに吹いて失笑してしまった。




「ちょっと彩!」




美和が頬を膨らませながら肘で彩子をつついた。




「ごめん、だって美和の愛称がここで出て来るとは思わなかったんだもん、ねっやっぱり誰が見ても美和は似てるんだよチャウチャウ犬に」




ケタケタと笑い始めてしまった彩子を見て背後に居た男達迄もがガタガタと立ち上がり歩み寄って来た。




先の尖ったヨーロピアンの革靴が歩く都度にチャリチャリと踵に付けた金具の音を響かせる、


近づいて来た男達は2人を大げさに睨みながら彩子と美和を取り囲んだ




「よぉ姉ちゃん、いい加減にしろよ舐めてんのか?あぁっ」




彩子のセーラー服のスカーフを掴み一人の男がそう脅し掛けた時だった




「待て!」




彩子や美和を含めその場の全員がその声のする方へ振り向いた!


そこには背中にギターを背負ってシルクハットを深々とかぶり、波止場の船をロープでつなぎ留める


大きな鉄の塊(名前が分かりません)に片足を乗せ「チッチッチッ」と口元で人差し指を左右に振り振り




ヒュゥゥ~♪と口笛ひと吹き




「学生さん、そのお嬢さん達をどうしようてんだい?お天道様が見逃してもこの波止場のギターの渡り鳥の目の前で事が起こったんじゃぁ見逃せねぇな」




なーんて時代遅れの助ッ人ヒーローが現れる訳はございません、それは昔の日活映画にでも任せて置いて




「待て!」と、ここで声を出したのは不良仲間の1人だった


その男は仲間達に何か目で合図を送っていた、さり気ないつもりだったのだろうが、彩子の顔を再度見た男達の顔色が明らかに変わっていた




「おいっ、この女・・・」小声で一人の男が囁いたが彩子や美和にその声は届いて居なかった




最初に絡んで来た男が急に態度を変えた




「もういいから行けっ、俺達も姉ちゃん達に構ってる程暇じゃねぇんだトットト消えな」




そう憎々しげに言い放ちながらシッシッとまるで犬を追い払うが如くである




呆気にとられてる2人に背を向け6人の男達はチャラチャラと靴音を立てながら去って行った




「急にどうしちゃたんだろうね?なんかよく分からないけど、助かったね美和」




美和が応える




「ねぇ彩、今がチャンス、空いたよマリオ」




彩子が強引に美和の手を引きゲームセンターザ・ゴリラから出て行った






サンシャインシティー内の非常階段踊り場で先程の不良の男達が屯していた


しゃがみ込み煙草を吸う者、手鏡と骸骨ブラシで髪型を整えている者や雑誌のグラビアを


眺める者様々である




「しかし驚いたよな、まさかここで出くわしちまうとはな」


「だよな、少し時間が早ぇからってゲームセンターで時間潰してたけどびっくりしたよな」




「まさか獲物本人が登場しちまうとは思わなかったよな」




6人の中でもひと際身体が大きく、目つきの悪い男、リーダー格らしい男が5人を見渡しながら言った




「あの女達まだ何か食って行く様な事言ってたからな、どちらにしろ黒柳さんの計画通り俺たちは事を運べば良いだけだ」




そうだな、5人が頷く、そのリーダー格らしき男は自分の右手に視線を落とした、右手に握られているのは1枚の写真だったいつ何処で撮った物なのか、望遠レンズで捉えたであろう1枚の写真、そこには微笑む南城彩子の姿が有った。

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