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世界でいちばんわからないもの

作者: 高谷咲希

自分って、世の中で一番わからないもの。

だから、手に入らないって気づいた瞬間に傷つく。

もっと早く気づいていれば、なにか変っていたのかな?


「はい、これ使って」

「え、ああ、サンキュ」

昔から、困っている人はほっとけなかった。

だから今日も、ひとつ良い事をした。


四月、私――椿木伊織つばきいおり――は中学校に入学した。

入学式を終え、教室に入って、先生から生徒手帳を貰った。

これから始まる中学生ライフに、私の胸は大きく弾んだ。

そんなある日、授業中に隣の列から「いっ……!!」という声がした。

隣の列を見てみると、男の子が指をおさえていた。

どうやら、もらったプリントで指を切ったらしい。

私は、セーラー服のポッケに手をつっこんで、絆創膏を取り出した。

「はい、これ使って」

ほんの少し微笑んで、絆創膏を彼に渡した。

「え、あ、ああ、サンキュ」

そう言うと彼は、絆創膏を受け取った。


最初は、それだけだった。

だけどそれだけじゃ終わらなかった。

絆創膏を渡して三日経った日の事。

「ねぇ、伊織」

突然、友達の蛍坂郁恵けいさかいくえに話しかけられた。

「さっき返ってきた音楽のテスト。何点だったか山本に聞きにいかない?」

山本とは、私と郁恵が通っていた小学校の同級生、山本大希やまもとだいきのこと。

ちょっとお馬鹿なのが特徴だったりする。

「ん〜……、別にいいけど」

「よし、じゃあいこーう!」

「いくって……すぐ後ろじゃん」

「細かいことは気にしないっ!山本ーーー」

郁恵が後ろにいったので、私も後ろにいった。

するとそこには、山本と一緒に郁恵の話を聞いている人がいた。

「あ、指切った人」

「あ、絆創膏の……」


これが、室田秋久むろたあきひさと私の出会いだった。


それから、なんやかんやで私と郁恵、山本と室田の仲良しグループはできた。

たまに、そのグループの中に友達が入ってきたりして、盛大なパーティーみたいになったりもした。

そうしているうちに、私の心の中にある感情が芽生え始めた。

でも私は、それに気付かなかった。

いや、気づいてたんだけど「ないない、ありえない」って笑い飛ばした。


だけど、二年生になったある日。

私は放課後の教室で、驚愕の事実を知った。

「伊織、私ね隠してる事があるんだ……」

「隠してること……?」

「うん、室田関連の事なんだけどね……」

「もしかして……付き合ってるとか?」

軽い冗談のつもりでいったから、私の顔は笑っていた。

「なっ……んでそうなるかなぁ……!!」

「ちがうの?」

軽い…冗談で言ったんだけど……。

「ううん、そうだよ。もう……二、三ヶ月になるなぁ」

「えっ…」

私の顔から、笑みが消えた。

すごくびっくりした。

それと同時に、すごくつらくて、苦しくなった。

「う、うそぉ!!?」

だから、それが嘘であってほしいと願った。

嘘だと思いたかった。

だけど……。

「なんでうそつく必要があるのよ、ホントだよ。嘘じゃない」

「あ……、あはは。そっか〜、そ〜だよね。そんな嘘つく理由ないもんね〜?」

嘘なんかじゃなかった。

でも、そんな苦しさがばれちゃわないように、必死だった。

「へ〜……あの郁恵が、室田と、ねぇ〜?」

「な、なによ〜」

「ねぇ、どこ好きになったの?」

とにかく必死だった。

「んと……、一緒にいてておもしろいとこと、優しいとこ、かなぁ」

「ふ〜ん……、そっかー。……じゃあじゃあ、いつから好きになったの!?」

「えっ……と、去年の十月くらい」

「へぇ〜……。じゃっ、じゃあ告白は!?どっちからしたの?」

「え、ええっ!……もうっ!いい加減にしろー!はいっ!質問タイムはここまで!」

質問攻めにしていたら、郁恵が恥ずかしくなって怒った。

そんな郁恵は、あたりまえだけどわたしよりかわいくて、室田が好きになる理由もわかった。

「郁恵かーわい〜、でも、まだ二つしか聞いてないんだけどなぁ〜?」

「あーもうっ!終わりったら終わりなの!!」

そう言うと郁恵は、自分の席にいってカバンを取った。

「それじゃ、あたし部活いくけど、伊織は気をつけて帰ってね」

「わかった。それじゃあ明日ねー」

「うん、明日ね」

その後、郁恵の姿が見えなくなると、わたしは自分の席に座った。

「郁恵が、室田と……ねぇ……」

わたしは、机の上に伏せた。

この複雑な気持ちってなんだろう。

郁恵と室田が結ばれたのはいいことで、別にお祝いしたくない訳ではない。

だけどやっぱり……。

「わたし、室田の事好きなんだぁ……」

そっか、あの気持ちは正しかったんだ。

室田の事、好きだったんだ。

「あーあ……、やっちゃった……」

今更、遅すぎる。

目尻が熱くなって、机の上にしずくが落ちた。


次の日、郁恵たちといつも通りに過ごしていた。

そんなとき、郁恵が急に言い出した。

「ねぇ、この世で最も分からないものって、何だかわかる?」

「え、わかんない」

「それはね、一番分かっていそうなもの、なんだよ」

「へぇ〜、例えば?」

「例えば……自分とかね」



例え、この気持ちが届かなくても。

傍にいる、それだけで辛くても。


今が楽しいと、そう思えるようになりたい。

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