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1.120万年後からの手紙

魔女同士、女性同士の結婚は特別な幸せをもたらすという。

現代世界の何処かでそんな素敵な理論を見つけたある二人の魔女の手紙は、

かすかな消息を辿って時間と空間の最果てにまで届いていました。


そんな時空の狭間に住んでいる、人類以前に生まれた二人のお話。

どこまでも永遠に続いていく白いキャンパスの真ん中に

ちっぽけな家のようなものが浮かんでいる


百合婚姻魔女ユリレー第二話 先始の魔女


「起きて、エア。手紙が来てる」

この真っ白な場所には空間の概念も時の概念もない。

空間の概念がないから物質は存在することが出来ないし、

仮に誰かか何かが流れ着けても時の概念がないから

永遠に動かず朽ちぬオブジェにしかなれない。

そんな零次元ですらない無次元でこの家が存在して私達が生活できているのは、

私達がインチキ…定命の人々の言い方をすれば、魔法を使えるからだ。


逆に言えば、定命の人々や他の魔女たちでも魔術や技術を極めればここに辿り着ける筈だし、

幾つかは便りも届いている。

星と天国の彼方に辿り着いた定命の人々が挨拶を送ってきた時は流石に驚いた。

「サピエンス」を称するだけのことはあるよ。

…ともかく、だから。ここに新しい手紙が来るということは一大事なのだ。


私とエアは死ぬことが出来ない生まれついての魔女で、

定命の人々であるホモ・サピエンスよりも先に、永遠に二人の種族として地球に生まれた。

…ちゃんと調べた訳ではないけれど、

私達と定命の人々は同じご先祖様から生まれてはいるらしい。

しかし18歳で成長も代謝も止まって老いることも傷つくことも出来ず、

願いに辿り着きさえすればだいたいのインチキは全部出来てしまう、

そんな人どころか生き物とさえ呼べるかどうか怪しい存在は

間違ってもホモ・サピエンスではない。似ているのは見た目くらいだ。

むしろクォークとか強い力とかに近い気さえする。

私達の種族は…

何だろう、ホモ・ジェミナス・アエテリヌスとでも名乗ればいいのだろうか。

一応類人猿から発生したことには違いないし痕跡も残っているから「ホモ」、

「人」ではあるのかな。まぁ人類でなくても特に困ることもないけれど。


そんな永遠の双子である私の妹、エアを揺すって起こす。

大空のような青い髪と太陽のような赤い瞳と大地のような薄褐肌の妹。

エアのくるぶしまである長い髪が揺れると風が歌っているみたいだね、

なんて言ったことがあって。

私達よりもずっと後に出来た言語とたまたま被ったのを知った時は二人で笑いもしたなぁ。

「…え、手紙?またずいぶん古風な」

「ちなみに21世紀の紙みたいだよ。ほら、見てみて」

「うぅーん、眠い…」

エアの太陽の瞳が目覚める。

それはひどく明るく輝くから一度エアが目覚めると灯りの必要もなくなる。

私は魔女でインチキだからエアの瞳で目が眩んだりもしないけど。

つくづく二人の種族で生まれてよかったと思う。

「おはよう、アイ。呼び鈴は鳴った?」

「何時もの小鳥の鳴き声だったよ。ノックをした形跡とかも無かった」

「それじゃ私は起きれないか」

「呑気すぎるよエア、いくら何をされても傷もつかないからって」

「本当に危ない時はアイより先に動くから大丈夫。任せて?」

「確かにこの家を作ったのはエアだけれど」

見つけるのがアイ、創るのがエア。いつの間にかそんな役割分担が出来ていた。

どんなことでも出来る私達でもやりたいことの違いはある。

何時何処の時空とも接していないこの真っ白な場所を見つけたのが私。

無次元を弄ってここに安全で快適な不朽の家を創ったのがエア。

面倒をエアに任せてしまったけど得意分野が違うから仕方ない、

なんて思えるようになったのは何千年前だっけか。


…地球に生まれて千年も経った頃には、私達は普通には生きられないと分かっていた。

なんせ周りの人々が腰布で歩いている中で二人で服を着て、

言葉どころか文字まで使って、飢えず渇かず老いず死なずで

原子レベルで代謝すらしないときている。

そんな私達が存在していたら、

定命の種族は自らの手だけで文明を打ち立てることが出来なくなってしまう。

ある言語では自らに由ると書いて「自由」と読むという。

私達は他者の自由を妨げたくないのだ。

だからあの世界をさまよった末に一万年目を区切りにここに引っ越した。

果たして定命の人々が自らに由って文明を創った時には

私達はあの星にはいなかったのだ。

そしてエアがこの家の扉を、

時も空間も越えてあらゆる場所に繋がるように創った頃には、

私達は時間に囚われることも無くなった。

私達は120万年前に生まれたけれど一万二千歳を越える位である、けれど

150億年前の宇宙開闢以前から銀河の果ての時代まで行ったと言えば伝わるだろうか。


「ふむ。当たり前だけど何らかの魔法を被せた痕跡があるね」

「それにほら、宛名が付いてる。21世紀の言語だけど、アイ様とエア様へって」

「私達の事を知っている、けれど私達の文字は知らない。大分送り主は絞れるかな」

「この手紙にかかっていた魔法の由来は分かる? 何処で何時発生した魔術であるとか」

「そこまではちょっと。でも、中身を読めば何か分かるかも」

「何か仕込まれてないかな?」

「不特定多数に飛ばしたトラップとかでは無い筈だよ。宛名もあるんだから」

「うーん、じゃあ、開けてみようか」


便宜上このお話は21世紀の文字で書いているけれど、

私とエアの言語は宇宙で私達二人しか使っていない代物だ。

定命の人々が言語を発明する遥か以前に私が思いついて、

エアが私達の為だけに文字と文法を創ったのだから。

良くも悪くも完全に孤立していて

人類の言語とは言語であるということ以外には共通点すら無い。

そして私達は一切の痕跡を遺していないので、

あの世界には二人だけの文字に繋がるものは何一つ存在していない。

だから誰にも教えていない私達の文字を知りうるものは、

私達を超える存在か魔術か技術か…とにかく、私達にとっても未知の相手になる。


長くなってしまった。

遥かな未来からのメッセージですら私達だけの文字、

私達だけの「アイ」と「エア」の文字は知らなかった。

なのでこの手紙の送り主は既知に納まる存在であるとは推測できる。

おそらくは扉を開けて人類の時代に遊びに行った時の私達の名乗りを覚えている者か、

その子孫や弟子筋か。

ならば仮にこの手紙に悪意があっても対処できるだろうと判断し、

私は封を切って中の紙を広げてみた。…おや、これは中世に連なる錬金術の匂いかな?

──

「拝啓 アイ様及びエア様


本来であれば直接御二方をお尋ねしたかったのですが、

私、イスナーンの魔術では無次元に至る事が適わぬゆえ、

拙筆にて失礼仕ります。


此度は女性と女性での結婚がもたらす「幸せ」を、

私の知っている魔女の皆様方に、大いに語って頂きたく存じます。

いかなる語り口も私と我が主は歓迎します。

それを我が主がお望みになられたゆえに。

それはきっと、皆様の喜びでもあるがゆえに。


21世紀の地球から、無次元の狭間へ。

アーレア・リェイスティン及びフェーリ・ミライが名代

ホムンクルスNo.2.イスナーンより」

──

「21世紀のホムンクルスか。アラビア語の数字名前が洒脱だね。ヴィーシィ・クーシィみたいだ」

「エアは本当にその小説が好きだねぇ。確か、彼女はそのちょっと後の時代の」

うん、私達は彼女の主達を知っている。

21世紀の地球に行った時にたまたま出会った二人の魔女で、

何だかとても嬉しそうだったのを覚えている。

そういえば白い結び?であるとかを言っていたような。

「思い出したよアイ。『あれ、指輪は無いの?』って聞いてきたあの子達」

「私達とは別の種族の魔女だと言ってたっけ」

「とりあえず悪意があるわけでは無さそうかな」

「純粋な興味で私達を探り当てたんだろうね」

なるほど、この手紙の意図はだいたい分かった。

つまりは私達の近況を手紙に書いて送ってほしいらしい。


ただ私達ホモ・ジェミナス・アエテリヌスの生態では分かりにくい所もあって。

「ところでエア」

「何か思う所があるみたいだね、アイ」

「『結婚』って何だろう?」

「…さぁ?」

こんな形で種族の違いを認識するものだな、と。


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