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90:弟子兼部下と大いなる誤解

「ねえ、エペ。あなたは私の死因について知ってる? 子供の頃や、あなたたちと過ごしたことは覚えているんだけど……死ぬ直前どころか、前世の最後の方の記憶さえ、曖昧なのよね。靄がかかっているように思い出せないの」

「それも……不具合だな。直前までお前を死なせないようにとか、いろいろな魔法を同時並行で使っていたから」

「転生と他の魔法を同時併用!? あなた、よく死ななかったわね。あ、転生しているから……そういうこと?」

「うるさい。ムカツクから、お前の死因は教えてやらない」


 エペは断固として沈黙を貫く構えを見せた。こうなると、昔から彼は意地でも考えを曲げないのだ。

 そんな彼を説得しようとしていると、豪華な部屋の扉が激しくノックされた。

 器用なエペは舌打ちしながら嫌そうに魔法で部屋の扉を開ける。

 

「なんの用だ」


 エペの後ろからそっと覗くと、外には見慣れない男たちがいた。

 きっちりした服を着ているものの、立ち方はだらっとしていて髪もボサボサ。妙にちぐはぐな印象を与える相手だ。

 観察していると、私に気づいた一人が「ああっ!」とこちらを指さし大きな声を上げた。


「エペの旦那が女連れ込んでる!」

 

 彼の言葉に、全員の目が一斉に私に向けられる。


「本当だ、ボスについに女が!」

「旦那ってば、それなりにモテるのに今まで女っ気なかったですからね」

「ボス、俺らにも紹介してくださいよ!」


 盛大な勘違いだが、私が今いる場所はおそらくエペの私室。誤解を生むには十分な状況下にある自覚はある。全部エペのせいだし不可抗力だが。

 それにしても、彼らは一体何者なのだろうか。


(一、二、三、四人……エペのことを『旦那』とか『ボス』とか呼んでいるし……まさか弟子? この子ってば他人に敵意を抱いてばかりだったのに、いつの間に弟子を取ったの!? 師として私は嬉しいわ!)


 喜びを隠さずエペを見つめていると、彼は露骨に眉を顰めて私を睨む。


「アウローラ。お前、絶対に何かを勘違いしているだろ」

「何を言っているのよ。弟子を取るなんて、立派になったじゃない」

「……やっぱりか。言っておくが、こいつらは弟子じゃねえ、部下だ」

 

 私が「部下?」と首を傾げると、エペは「あとで説明する」と告げ、男たちの方を向いた。


「おい、この女に手を出したら殺すぞ」


 彼が話し終えた瞬間、入り口から「ヒュー!」と盛大な歓声が上がる。


「旦那にもついに春が!」

「ねえ、紹介してくださいってば!」


 エペはシッシッと部下だという男たちを追い払うが、効果はないようだ。

 

(誤解されたままだけど、そろそろ否定してくれないかしら)


 しかし、その思いがエペに届くことはなく、彼は「こいつを俺だと思って接しろ」などと理不尽かつ意味のわからない指示を部下にしている。「じゃあ、姐さんっすね!」などと、さらに誤解は深まっていた。


「あの~……私はエペの恋人ではないわよ?」


 横から口を出すと、部下たちはぱちぱちと瞬きし、訳知り顔で言った。


「なるほど! エペの旦那の片思いですね! そうとは気づかず……」

「俺ら、邪魔しちゃいました?」


 先ほどよりも機嫌が悪くなったのがありありとわかるエペは、無言で前方に片手をかざし闇魔法を放つ。凶悪な攻撃魔法だ。

 すると、部下たちは叫び声を上げながら扉から離れ、バタバタ走って逃げて行ってしまった。


「しょうもない奴らだ」


 ぼそりと呟くエペに私は「部下に攻撃魔法を放っちゃ駄目じゃない」と注意する。


「いいんだよ、あいつらは幹部だから。あのくらいの魔法ならどうせ避ける」

「あの人たち、もしかして魔法使い?」

「もともと、魔力持ちのはみ出し者だった奴らだ。拾って魔法を覚えさせたらああなった」

「やっぱり、弟子じゃないの」

「違う……」

 

 むっつりした表情の彼は乱暴に扉を閉めると、唐突に正面から私を抱きしめた。

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[一言] 結局死因は分からないか
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