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81/152

81:モーター教の孤児院事情

 拘束されたままのカオはゆっくり身を起こすと、仏頂面で部屋の中に佇む兄を観察し続けた。それが自分の身を守ることにも繋がるからだ。

 淡い象牙色の髪に切れ長の藍色の目は自分と全く同じもの。それはそうだ、ネアンとカオは血を分けた本物の兄弟なのだから。

 ただし、生い立ちは世間の普通の兄弟とは異なる。

 

 ネアンとカオは孤児で、モーター教総本山の街にある、小さな孤児院に保護されて暮らしていた。

 各国にある普通の孤児院とは違い、カオたちのいる孤児院は美しく……子供たちも飢えることなく身ぎれいにして過ごしていた。ただ一つの条件さえ満たせば。

 

 ――魔法の才能を持つ子供であること。

 

 美しい孤児院は、魔力の多い孤児だけが集められた特殊な施設だったのだ。

 それだけが、この孤児院の唯一の価値で、他の貧しい孤児院とは一線を画する理由なのである。

 モーター教の教えに完全に染まった、魔力が多く魔法の扱いに長けた子供。

 そういう人間をモーター教の総本山は欲しており、だから教会にほど近い街に「聖人」や「聖騎士」を生み出す施設を作った。

 孤児院では魔力を持つ子供だけが「適性あり」として好待遇を受けられる。

 そして、適性がないと判断された子供は、扱いの悪い他の孤児院へ追いやられる。

 

 でも、それはまだマシな方で、孤児院に空きがない場合、適正のない子供は処分される。

 普通に捨てられるのではない。聖人の魔法実験の材料になったり、聖騎士の訓練の「生きた的」になったりしなければならないのだ。

 聖人に選ばれた才能溢れる兄とは違って、カオもかつてはそういう……魔法の才能がないと判断され、訓練場で処分されかけた子供だった。


 聖騎士たちの訓練で、彼らが無造作に魔法攻撃してくる中を逃げ回る、対人間用の訓練のための哀れな的。使い捨ての、モーター教に反抗的な魔法使いの役。

 複数人の聖騎士に追い立てられるため、的になった人間の生存確率は限りなく低い。

 同じく使い捨てにされた孤児仲間が一人二人と倒れていく訓練場を、カオは必死に逃げ延びた。

 そうして追い詰められて、もう駄目だと思った瞬間、カオはなりふり構わず四方八方に限界まで力を込めた魔法を放ちまくった。最後の悪あがきだ。

 

 意識がつきかけるまで抵抗した結果……

 周囲の追っ手役だったはずの聖騎士たちは――気づけば全滅していた。

 

 そこから先はまるで世界が変わるかのようだった。

 迎えに来た兄の靴音、聖人の末席に据えられて特別な教育を施される自分、聖人となったなら、格下には何をしても許される。夢のようだ。

 

 だが、兄の態度は素っ気ない。

 孤児院に入った頃はそうではなかった。二人きりの兄弟なので力を貸し合っていた。

 いつからか、才能の差が明瞭になり、ネアンとカオの関係は希薄になっていった。

 だから、カオは嬉しかったのだ。倒れた自分を兄が迎えに来てくれて、聖人の末席に据えてくれて。

 

 しかし、ネアンの干渉はそこまでで、あとはただ冷めた上下関係が残るだけだった。

 聖人となってから、ネアンは兄としてカオに接したりはしなかったのだ。

 それが無性に悲しくて腹立たしくて、カオは兄を振り向かせようと、そこかしこで悪戯を仕掛けたのだが……そのどれもを頭のおかしな魔女に阻止されてしまった。

 

 そしてレーヴル王国に捕らえられた今、兄に明確な殺意を向けられた。

 また「的」に戻されるのではないかという恐怖と、兄に捨てられた悲しみとが混じり合い、カオは混乱の境地に追いやられた。


(ボクは、ボクは、どうすれば……)


 何故いつもこうなのか、周囲の足を引っ張ってしまうのか。

 ようやくあの境遇から抜けられたのに、第二位の聖人に見捨てられたら、もうモーター教での居場所がなくなってしまう。

 

「嫌だ、嫌だ、的は嫌だ、処分は嫌だ、うわぁぁぁぁっ!」


 暴れ出したカオの、大きな叫び声を聞き、その場にいた全員が驚いて動きを止めた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ラムが孤児院の内情をカオから聞いて知ったら、即日即断でモーター教を潰しに行きそう
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