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74:二番弟子との思い出3

 グラシアルはこっそり音の方へ近づき、元凶がいるであろう扉を開けた。すると……


「うをらぁぁーーっ!」


 目の前で漆黒の炎が部屋を取り囲むように吹き荒れていた。伸ばしっぱなしだった、グラシアルの長い前髪が揺れる。


「え……なに……これ」

 

 少し前に自分が魔法を大暴走させたグラシアルだが、実際に他人が魔法を使うのを見たのはアウローラが初めてだった。それだって、魔法を消したり転移したりする、目に見えない魔法だ。

 今のような、激しい攻撃魔法を目にするのは初めてである。


 扉を開けたまま立ち尽くしていると、アウローラがグラシアルに気づいた。

 彼女の隣には、むくれた様子の少年が俯いている。グラシアルよりも少し年上のようだ。


「あら、目が覚めたのね。調子はどう?」

「……平気」

 

 それだけ答えるのが精一杯だった。


「そう。それじゃあ、お風呂に入って、服を着替えて、髪を切って、ご飯にしましょう!」

「……へっ!?」


 反論する間もなく、にっこり笑ったアウローラに風呂場へ連行される。


「ちょっと。一人で入れるよっ!」


 これでも十歳の男子なのだ。女性に風呂に入れられるのは勘弁願いたい。


「王子様なのに?」

「離宮では、一人でやっていたから」

 

 使用人たちはろくに働かず、ほとんどのことを自分でやるしかなかったのだ。


「ふぅーん、そうなのね。じゃあ、タオルはこれを持っていって。石鹸は風呂場の中にあるから自由に使ってね」


 頷いて風呂場に入る。カラフルなタイル張りの浴室には、様々な石鹸が置かれていた。

 名前と、説明書きも付けられている。


「髪用しっとり、髪用さらさら、髪用変色、髪用伸びる、髪用まっすぐ、髪用ウェーブ……なにこれ、使うの怖いんだけど。こっちは、体用さっぱり、体用ほっそり、体用変色、体用強靱……すんごい不気味な色だし」

 

 とりあえず、「髪用さらさら」と「体用さっぱり」を選んだ。

 ハーブの良い香りがする。

 魔法使いは直接魔法を使うほかに、植物や鉱物に手を加えて魔法を使い、薬品を作ることもあると言う。これもきっと、アウローラの作品だろう。

 恐れるような変化は見られず、ホッとする。


 体を洗い終えて風呂場を出ると、外に着替えが置かれていた。新品ではないが、きちんと清潔な男子用の服だ。


(さっきの少年のものかな?)


 もともと着ていた服は魔法の暴走で酷い有様になっていた。ありがたく着替えさせてもらう。

 着替え終えて扉を出るのと同時に、グラシアルは声をかけられた。


「おい、てめぇ」

「……?」


 呼ばれた方を見ると、先ほどの少年が目をつり上げグラシアルを睨んでいた。

 桃色のふんわりした髪に、中性的な顔。しかし、言動は荒々しい。

 

「ちょっとアウローラに構われたからって調子に乗るなよ。アウローラはな、犬でも猫でもハリネズミでも、気になったら全部拾って持ち帰る習性があるんだからな! あと、俺はお前を弟弟子だなんて認めない!」

「……弟子? なんのこと?」


 聞き返すと少年は眉を顰め、睨みをきかせながらグラシアルに詰め寄る。

 しかし、後ろから伸びてきた手が彼の襟首を掴んでグラシアルから引き離した。


「ちょっと、エペ! 年下の子を虐めないの!」

「うるせえな、虐めてねえよ」

「はいはい。王子殿下もお風呂から出て来たことだし、さっさと食事にするわよ」

「偉そうに。作ったのは俺だろうが」

「そのあと、全部魔法で吹っ飛ばしたけどね」

「時魔法を使って戻したから文句を言うな。どうせ、お前はクソマズい泥料理しか作れねえだろ」

「泥料理とは失礼な。たくさん栄養が入っているんだから……」

「あれは食べ物じゃない。肥料だ」

 

 やいやい喧嘩しながら、二人は食卓がある方向へ歩いて行く。グラシアルも彼らに続いた。手作りのテーブルクロスがかかった、アンティーク調の机においしそうな料理が並んでいる。これをあの、いかにもがさつそうな少年が作ったなんて信じられない。

 食事をしながら、アウローラはグラシアルの処遇について話した。


「あなた、相当体が弱っているわ。あのときの魔法だけでなく、普段の生活もよくなかったみたいね。体力が回復するまで、私の弟子としてここで暮らすといいわ」


 十五歳のアウローラは、胸を反らして堂々と言い切った。

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[一言] アウローラはメシマズだったのか
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