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72:二番弟子との思い出

 フレーシュ・レネ・レーヴルの前世は、とある国の第二王子グラシアルだった。

 とはいえ、王妃だった母が浮気した末にできた不義の子であり、対外的には王子という扱いだが王宮内では冷遇されていた。

 城の敷地の片隅にある、古い離宮へ幽閉され、病弱設定を付加され、公式の行事には一切出られない。

 側室や兄王子からは虐められ、使用人にさえそっぽを向かれる。

 弱くて孤独な、行き場のない王子だった。

 

 だから、グラシアルは世間や常識や愛を一切知らずに育った。

 だが、幸か不幸か魔法の潜在能力が人一倍あったらしく、十歳になったある日、持て余した魔力を暴走させた。魔法教育を一切受けていないことが、徒となったのだ。

 朽ちかけた離宮は厚い氷に覆われ、巻き込まれた使用人も物言わぬ氷柱と化す。

 そんな中、訳のわからないグラシアルは一人冷たい床に膝をつき、頭を抱え縮こまり震えていた。


 グラシアルは、もう全てがどうでもよくなっていた。

 膝の感覚がない、寒くて動けない、だんだん体の力が抜けていく。

 どうせ、誰も自分を助けに訪れてはくれないのだ。

 ならば、こんな苦しみは早く終わらせてしまいたい。


 国王は、運良く国に滞在していたエルフィン族に声をかけ、城に来るよう命令を下した。

 息子を心配したからではなく、これ以上被害が拡大するのを恐れたからだった。

 

 エルフィン族は、今は姿を消した魔法に優れた民族。魔法の祖と言われている。

 五百年前でさえ、グラシアルの知るエルフィン族は、たったの一人だけだった。

 社交嫌いの、そのエルフィン族は、王宮に一人の弟子を寄越す。

 それが、後に伝説の魔法使いと呼ばれる、アウローラ・イブルススだった。

 

 アウローラは何も持たず、単身で離宮に乗り込んできた。

 ゴォォンと、硬い氷に覆われた離宮の門を景気よく破壊した彼女は、ブツブツ言いながら、離宮の中央部――制御できない魔法を発動中のグラシアルが蹲る場所へまっすぐ進む。


「まったく、師匠も無茶を言うわ。『子供が相手なら、お前が適任だろう』なんて。自分が王族と関わりたくないだけのくせに」


 カツカツと凍った床に高く響く足音を耳にし、意識が朦朧とするグラシアルも、さすがに誰かが来たのだと理解した。


(きっと、僕を……殺しに来たんだ。この魔法を止めるために)


 全てがどうでもいいと思いながらも、迫り来る恐怖にはあらがえない。

 床に蹲るグラシアルは、ますます体を縮こまらせた。

 

 足音が鳴り止んだタイミングで、片眼を開け周囲の様子を窺うと、目の前に細い足が二本あった。

 顔を上げると、変わった髪色の少女が、不思議そうにグラシアルの顔をのぞき込んでいる。

 それが、グラシアルとアウローラの初対面だった。


「はぁ、なるほど。魔力が多すぎて、得意属性の魔法として溢れちゃったのね」


 アウローラはグラシアルの様子を見て、一人何かを納得する。

 予想と違って、あまり怖くない人が来た。


(この人になら、殺されても大丈夫かな。痛くないのがいいな)


 そう思っていると、アウローラがおもむろにグラシアルの頭に手を伸ばす。


「坊や、ちょっとごめんなさいね」


 いよいよなのかと目をつむると、ぽんと優しく髪に手が置かれ……そこから、体内で暴走する力が吸い取られるような感覚がした。

 しばらく経って寒さが消え、アウローラが「ふぅ」と息を吐く気配がした。

 

「よし、完了」


 何が終わったというのか? 自分はまだ生きているというのに。

 不思議に思いながら目を開ければ、氷の消えた元の離宮が戻っていた。

 ところどころ、水に濡れてはいるが、厚くて冷たくて硬い氷はどこにもない。


「よかったわね、力を使い果たす前に私が間に合って。立てる?」


 ふるふると頭を振ると、彼女は「よいしょ」と、見た目からは信じられない力でグラシアルを抱き上げ、離宮の外へ連れて行った。

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