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35:嘘を重ねる令嬢と森の奥の使者

 私を乗せた馬車はガタゴトと王都を抜け、なぜか郊外へ向けて走り出した。


「ねえ、司教補佐は一体どこへ行ったの? 行き先、遠すぎない?」

 

 令嬢たちに囲まれた私は、ガタゴトと揺れる馬車での移動にげんなりしつつ質問する。

 転移すれば一瞬なのに……


「メルキュール伯爵夫人、司教補佐様はお忙しいのですわ!」

「わざわざつれて行って差し上げるのですから、文句を言わず感謝なさい」

「私たちも多忙な身ですのよ?」


 私を騙す彼女たちの指の毛も、心なしか濃くなってきている気がする。

 獲物の相手も飽きたのか、令嬢たちは自分たちのお喋りに興じ始めた。


「あら、リリロッサ様のイヤリング、素敵ですわ~! ドレスにもぴったり!」

「本当ですわ~!」

「シャール様とリリロッサ様、お二人ほどお似合いの男女はおりませんわ~!」


 リリロッサの取り巻きは、次々に彼女を褒め称える。

 にもかかわらず、彼女たちの眉毛がフサフサしてきたのはどういうことだろう?

 まさか、内心ではリリロッサを良く思っていないとか?


(貴族令嬢も闇が深いわね)


 程なくして、馬車は街道沿いの森の中へ突入する。

 道は一応舗装されているが、程なく道幅が細まり、馬車が通れなくなりそうだ。


(本当に、使者はどこへ行ったの!? 森の中に用事とか無茶がありすぎるでしょ)


 罠の匂いしかしない。

 しかもこの森、魔獣の気配がする。

 それに気づかない令嬢たちが向かったのは、森に建つ粗末な小屋だった。

 

「司教補佐様、メルキュール伯爵夫人を連れてきましたわよ」

 

 取り巻きや護衛を引き連れたリリロッサが声をかけると、広めの小屋の中から返事があった。


「こちらの準備は万端だ」


 中に入ると、使者と複数のガタイの良い男たちがいた。

 

(なんか、縄を持ってるんですけど……ものすごくこっちを見てくるんですけど)


 男のうちの一人が凶悪な笑顔でにやりと笑う。

 

「ほほう、美人な奥様じゃないか。これなら高く売れそうですぜ。貴族ってだけでも価値がある」

「ええ、性格はともかく、見た目はそこそこ良いかと。きっと隣国の好事家などに喜ばれるでしょう」

「では、我々のアジトへ連れて行こう」

 

 なんだかめちゃくちゃ言われているけれど、要するに彼らは私を売ろうとしているみたいだ。

 しかも、斡旋しているのはモーター教の司教補佐。聖職者が人身売買するなんて世も末だ。


 遠隔で組織ごと探し出し、攻撃してもいいけれど、大まかな場所がわかっていないと難しい。

 できないことはないが魔力を大幅に消費するし、今のこの体では耐えられないだろう。ゾンビリーパーを倒したときも、結構な反動が来たので。


(アジトまでついて行って、組織を潰してしまうのもいいかも。もしかしたら、他に被害者がいるかもしれないし)

 

 令嬢たちが背後で私を馬鹿にするように嗤っている。


「アッハッハ! あんな芝居に騙されるなんて、どれだけお馬鹿ですの?」

「こんな馬鹿はシャール様に相応しくありませんわ」

「目障りなメルキュール伯爵夫人、さっさと売られておしまいなさい!」


 ガタイのいい男が私の手首に縄をかけた。使者が満足そうにそれを見ている。


(感染しない悪臭魔法を再発させてやる。覚悟しておきなさい)


 実は悪臭魔法や毛深くなる魔法は細かな制御が必要な魔法で、攻撃魔法よりも繊細かつ難易度が高い。現世で鈍った勘を取り戻す練習にちょうどいいのだ。

 

 そういうわけで、私は荷車に乗せられ、さらに森の奥へと運ばれて行くのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ちょっと洒落にならない犯罪行為ですので、悪臭じゃダメかと思われます。時間経過で全身の筋力が衰えるとか性的不能になるとか視力聴力が衰えていくとかそれくらいの悪行。
[一言] しかける魔法が毎回面白すぎるんですけど
[一言] 眉毛まで… 令嬢達にも悪臭するんですかね?笑
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