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52/152

52:伯爵夫人と令嬢軍団

「それにしても遅いわね、廊下の様子を見てくるわ」


 言い置いて、私は部屋を出る。

 この宿は一階が受付と食堂、二階が寝室という作りだ。

 食堂はあっても規模は小さく、客のほとんどは部屋に食事を運んでもらう……と、宿の主人が言っていた。

 廊下を確認し終えた私は、カツカツと靴音を鳴らして木の階段を下りて行く。

 すると、途中で誰かが私の名を呼んだ。

 

「メルキュール伯爵夫人?」

「えっ?」


 見ると、階下に数人の令嬢が使用人や護衛を引き連れ立っている。

 彼女たちの派手な衣装はとても目立った。


「うふふ、ぬけぬけと一人で現れたわね? あなたがシャール様から離れる機会を待っていたのよ?」

「……はあ」


 令嬢たちは私に用があるみたいだ。使者は……いない。

 

(まったく、どこへ行ったのかしら?)


 窓の外を見ると、大聖堂所有の馬車が消えている。来たときは、たしかに宿の前へ停まっていたのに。

 近くの窓を開け放ち外を確認するが、やはりどこにもない。


(まさか、帰ったの……!? 自分でこの宿を指定しておいて、どういうことよ!?)


 シャールに報告しようときびすを返す私の腕を令嬢の一人が掴んだ。


「ちょっと、リリロッサ様を無視するんじゃないわよ!」

「そうよ、そうよ! あなた、どれだけ失礼なの!?」


 私はリリロッサとやらに目を向ける。

 ひときわ派手なドレスを着て護衛に囲まれた、不遜な態度の令嬢が睨みをきかせている。


(どこかで会ったような……? ああ、パーティーのときにビンタしてきた人ね)


 なんでこんな場所にいるのだろうか。

 彼女たちもモーター教の敬虔な信者なのだろうか。

 

(……どうでもいいわね)


 私はさっさと退散しようと決めた。


「人を探していたの。いないみたいだから帰るわ」

 

 しかし、私の腕を掴んだ令嬢は手を放さない。


(簡単に振り払えるけれど、どうしたものかしら?)


 迷っていると、リリロッサの傍にいた別の令嬢が話しかけてくる。


「司教補佐様でしたら、火急な用事で別の場所に向かわれましたわよ?」

「何の連絡もなしに!?」


 非難を込めて宿の人を見ると、ささっと目を逸らされた。


(普通は教えてくれるはずなのに……グルなのね? 嫌がらせの共犯なのね?)


 ならば、こんな場所にいても時間の無駄だ。

 やはり帰ろうとすると、リリロッサが高らかに声を上げる。


「司教補佐様がいる場所へ、つれて行って差し上げますわ! わたくし、親切ですので」


 どう考えても、そうは見えない。

 使者と知り合いみたいだし、何かを企んでいるのだろう。

 念のため、使者にかけたのと同じ、嘘に反応する魔法を令嬢たちにもかけておく。

 

「さあ、行きましょう?」

「ほらほら、リリロッサ様が馬車までご用意くださっているのよ?」

「司教補佐様もお待ちでしてよ?」


 護衛や使用人まで一斉に動き始めた。

 

(この人たち、なんでこんなに強引なの?)

 

 ここで待機していたことと言い、怪しすぎる……


(何を考えているのか、付いて行って暴いてもいいわね。使者の弱みを握れれば、シャールもやりやすくなるかもしれない)

 

 この程度の相手ならどうとでもなるので、私は彼女たちと馬車に乗ることにした。

 シャールには魔法で伝言を飛ばしておく。


(さあ、何を企んでいるのか見せてもらいましょうか?)


 私の手を引く令嬢の腕が、少しふさっとし始めたけれど……知~らないっと。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 毛深い令嬢の誕生かwww
[一言] ふっさふさの魔法は一生解かなくていいんじゃないでしょうかね~。自業自得ってやつで…。
[良い点] ご令嬢へも毛深くなる魔法は作動してしまったのですね。 毛深くなる魔法自体は、本にかかっていたのではなく 伯爵夫人本人への接触で発動条件なら、 今は常時発動待機状態? 令嬢達はドレスは長袖…
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