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18:伯爵夫人と教師役

 数日後、季節外れの嵐が訪れて、伯爵家の庭にも滝のような雨が降り続けていた。

 仕方がないので、玄関ホールで箒を振り回し体を鍛えていると、一人の男性が荒い足音を立てながらやって来た。

 オールバックに四角い眼鏡をかけた……

 

「あら、学舎の先生じゃないの。どうしたの?」

「どうしたのじゃありません、今日はあなたに文句があって来たのです!」

 

 初対面の時ほどではないが、彼は私に対して横柄だ。好かれてはいないのだろう。

 

「あなたが学舎へ来てから、カノンが授業をさぼるようになったんです。他の子供も真面目に訓練に参加せず、あなたの魔法を実践しようと勝手に魔法で遊び始める始末。どう責任を取ってくれるんですか!?」

「そう言われてもねえ。授業がつまんなかったんじゃないの?」


 あの年頃の子供を施設に押し込んで、強制的に訓練を受けさせる。

 もともと、そういう形式に無理があるのではないだろうか。

 教師は顔を歪めてラムを嘲笑した。

 

「ふざけないでいただきたい。あれは、学舎で受け継がれている重要な訓練なのです! メルキュール家を愚弄する気ですか?」

「しないわよ、しても意味ないし。でも、数世代にわたって、あのつまらない訓練を実践していたということね」

 

 面白くなさそうな教師は、眼鏡の縁をくいっと持ち上げる。

 

「まったく、世間知らずで暇なご夫人のお遊びには、付き合っていられませんな。カノンは次期メルキュール伯爵となる人材ですよ? 賢明な伯爵夫人の行動を心得ておられるなら、馬鹿な遊びを覚えさせず手を引いていただきたい」


 そもそも、どうして彼は私に対してまでも、上から目線なのだろう。

 

(あなたはカノンの先生であって、私の先生ではないわよね?)

 

 前世の私の師匠はそりゃあもう、めちゃくちゃなお人だった。

 

「あのねえ、魔法に馬鹿も賢いもないでしょう? 正しい魔法、遊びの魔法の区別なんて、人それぞれじゃない? 一見、意味がないように見えたって、突き詰めれば素晴らしい成果に結びつく……そういう研究って、魔法の世界においては珍しいことではないと思うわ」

「失礼ですが、伯爵夫人のおっしゃっている内容がわかりかねますな。魔法の研究など……どこの誰がしているというのです? 魔法の型も使い道も、全ては予め決まっているというのに」


 私はぐっと息を呑む。

 つい、五百年前の感覚で話してしまったけれど、教師の言うとおり、現代において魔法とは、決まり切った型を用途に応じて利用するだけの道具と成り果てているようだ。

 

「あなたの意見はわかったわ。事実、私は授業風景の一部しか見ていないし」

「ふっ、おわかりいただければいいので……」

「なので、学舎で授業参観をするわ! あなたの言う、馬鹿ではない重要な訓練を、もっと見せてちょうだい」

「なっ……!?」


 私の提案は予想外だったようで、口を開けた教師の顔が嫌そうに歪む。

 そんな顔をしたって、私には意見を撤回する気などない。

 息子の授業風景を見たいと思うのは、親なら当たり前のこと……だと思う。

 

「見られたら困るような授業をしているわけではないでしょう?」

 

 話していると、玄関ホールの奥にある階段から声が降ってきた。


「ほう、面白そうな話をしているな。私も混ぜろ」

 

 振り向くと、シャールが真面目な表情でこちらを覗いている。

 お説教が効いたのか、最近の彼は屋敷内にも関心を持ち、マメに見回っている。


「あら、あなたも授業参観がしたいの? シャール」

「跡取り息子の様子が気になるからな」


 教師は私の時とは打って変わり、シャールにヘコヘコし始める。


「ええ。ぜひ、いらしてください。嵐が止めば課外訓練の予定ですので」

 

 コロッと態度を変えた教師になんとも言えない感情が湧く。

 しかし、課外訓練を見に行くのは楽しみなので、とりあえずその日を待とうと思う私だった。

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