152:三番弟子のリフォーム計画
アウローラの三番弟子であるランスは現在、世界各地に建つ大聖堂を巡りながら、モーター教を解散して回っている。
そうして、代わりにラム教なる新興宗教を広めていた。
人々の、何百年も続いたモーター教への信仰心は、モーター教が解散したところで、なかなか消えない。
発端がとあるエルフィン族の野望にまみれたインチキ宗教であったとしても、世界の各地に根付いたモーター教の教えは、深く人々の心に刻み込まれているのだ。
「なので、少々大胆な方法で大聖堂をぶっ壊していく他ありませんね。心が痛みますが、第二第三のエポカを生み出さないために、私がやらなければならないことです」
それが長年モーター教を放置してきた自分にできる、アウローラへの贖罪なのだから。
聖人たちのほとんどは、兄弟子のエペがギンギラに輝くハリネズミに変えてしまった。
なので、ランスを魔法で攻撃してくる者はいない。
モーター教で過酷な訓練を施されていた子どもたちは、とりあえず保護してエペのところに送っておいた。
ああ見えて弟子の中で一番面倒見がいいので、なんとかしてくれるはずだ。
もう一人の兄弟子フレーシュのもとへ送ってもよかったが、レーヴル王国はモーター教と正面切って揉めていたため、やめておいた。
双方、相手に対して複雑な感情があるだろうし、問題が大きくなったらランスが叱られそうだ。
(こんな気遣いができるなんて、私も五百年の間に成長したものですねえ)
以前は人間の心の機微など何もわからなかったし、どうでもよかった。
今でも大半はどうでもいいが、アウローラを困らせる真似はしたくない。
「さて、次の大聖堂をぶっ壊しに行きましょうか。いや、それよりもラム教の施設としてリフォームしましょうか。うん、そっちのほうがいいアイデアだ」
世界中のモーター教の大聖堂をラム教の大聖堂にしてしまえば、この新しい宗教を広めやすくなるだろう。
(内装は先生の好きそうな、かわいらしい絵柄にしましょう。ステンドグラスはドリアン柄がいいでしょうか)
想像するだけで楽しくなってくる。
「ねえ、いい案だと思いませんか?」
ランスは後ろを振り返り、連れの二人に尋ねた。
そう、今の自分には、一緒に行動する供がいる。
もとモーター教の聖人の、ネアンとカオという兄弟だ。
ランスがアウローラのもとを去ったあと、彼らと総本山で再会した。
寄る辺をなくして途方に暮れていた二人の様子が、アウローラや兄弟子二人を亡くした頃の五百年前の自分と重なって……なんとなく拾ってしまい、今に至る。
もと教皇という身分もあってか、二人は素直に自分についてきた。
ネアンとカオはラム教の布教に熱心ではない。
ただ、カオのほうは往生際の悪いモーター教徒たちにお灸をすえる役を、進んで買って出てくれている。本人曰く、遊びたい盛りなのだそうだ。
ランスの問いかけを受けた二人は、揃って顔を顰めた。
「ランス様、本気ですか? 大聖堂を怪しい施設にリフォームだなんて」
「怪しくありません。ラム教は素晴らしい教えです」
「え~、嘘でしょ……」
カオはリフォームに乗り気ではないらしい。
「教皇様がおっしゃるなら、私はどんな命令にでも従います」
ネアンのほうも乗り気ではなさそうだが、真面目な表情で賛同してくれた。
彼はランスの言うことをなんでも肯定してしまうきらいがある。
そんなちぐはぐな二人を引き連れ、ランスはさっそく次の目的地へ赴いた。
新たな仲間との旅も悪くないと思いながら。
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