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147:魔力大暴走と造られた体

 言われたとおり、物理的に黙り込んでしまった私は、ただシャールのされるがままになっていた。

 やがて、そっと彼の唇が離れる。

 彼の肩越しに双子や子供たちが、めちゃくちゃこちらを見ている光景が目に入った。


「シャール、い、今の……」

「よし、黙ったな」

「なっ、なななな何すんのよ。こんなときに!」

「したくなった」

「あなた、最近自由すぎない? 子供たちも見ているのに」


 シャールに抱え上げられた私は、足からそっと地面に下ろされる。でも、まだ腕の拘束は解かれない。


「まるで、これから死にに行くような言い草はやめろ。私はお前を失うつもりはない」


 彼の真剣な眼差しに押され、私は先ほどの自分の発言を後ろめたく感じた。

 あれはシャールの言うような意図を含んでいたのを否定できない。


「あなたたちは、私が守るわ」

「私も双子もガキ共も、自分の身は自分で守れる。お前は体調のことだけ考えていろ。歩けるか?」

「大丈夫。あなたのおかげで、ほぼいつも通りよ」

「まだ完全じゃない」


 私を抱えたままのシャールは心配そうだが、少し貧血っぽいだけで普通に動ける。

 ラムの体調としては、いい方だろう。


「それじゃあ、皆、無理をしない範囲で力を貸してちょうだい。あの魔法アイテムの暴走を止めたいの」


 シャールはもちろんだが、双子や子供たちも力強く頷いた。


「任せてよ、奥様の教育の成果を見せてあげる」

「ええ、我々は意外と義理堅いんです。受けた恩は返します」

「私があのおっさんごと整地してあげるから、奥様は手を抜いていいわよ」

「ここならなんでも燃やし放題だな!」

「僕たちなら大丈夫。なので父上、そろそろ母上を解放してあげてください」


 息子に指摘され、シャールはようやく私に巻き付けていた腕を放す。


 エポカを見ると、彼はすでに魔法アイテムを使う準備をしていた。

 彼は憎々しげに私を睨みながら口を開く。

 

「アウローラ、お前さえいなければ、我が輩の計画が破綻することはない! 五百年前、完全に消し去っておくのだった!」


 まるで衣服のようにエポカに装着されている魔法アイテムの一部が光り、こちらに向かって攻撃魔法が放たれる。

 私たちはそれぞれ、攻撃異様の魔法や防御の魔法を放ち、エポカからの攻撃の第一波を防いだ。


「あのとき、お前が魔力暴走を食い止めたせいで、あの国では魔法アイテムの武器は恐ろしいとされ、以後使用できなくなってしまった」


 それは、至極当たり前の結果だと思う。

 エポカは人々が消え去って、魔法アイテムの使用による汚れた魔力が暴走した証拠がなくなった方がよかったとでも言うのだろうか。


「人々はアウローラを称え、我が輩は追放されて新たな実験の地を探さねばならなくなった」


 恨めしげにこちらを見てくるエポカだが。それも当然のこと。

 逆恨みをされても困る。


(しかも今、『実験』って言ったわね)


 予想していたとおり、エポカが悪意を持っているのが確定した。

 魔法アイテムを使用した影響により、犠牲になった人々もまた、『実験』の結果に過ぎなかったのだろう。


「この魔法アイテムは我が輩の最高傑作で、今のはほんの小手調べだ。最大威力はあのときの比ではない!」


 エポカは第二波を放つ。

 威力は先ほどよりも大きいが、防げない規模ではない。だが……。

 案の定、あたりに変換されて歪められた、汚れた魔力の気配が漂い始めた。

 まだ濃度はそれほどでもないが、早くエポカを止めないと、再び五百年前のようになってしまう。

 あの魔法アイテムは通常より強力なぶん、一つだけでも、かなり魔力を変質させてしまうようだ。


 ランスが今度は自分からエポカに攻撃の魔法を打った。


「先生が称えられるのは当然ですよ!」


 エポカもまた、反撃するように魔法攻撃の威力を上げていく。

 私も遠隔で攻撃魔法を放ったり、直接ぶつけたりしているが、どうも思ったほど効果が感じられない。

 転生魔法の均衡が崩れた状態なので、威力が出ないのだろうか。


「これが最大出力だ!」


 瞬間、あたりが一斉にどす黒く重い魔力に包まれる。息が苦しい。

 急速に濃度が上がっていく。


(これ、五百年前と同じ……いいえ、あのときより酷い。エポカが自分で言うだけあるわね)


 歪んだ魔力の影響を初めて体験する子供たちに動揺が走る。

 エポカの攻撃よりも、汚れた魔力の影響がすさまじい。

 あたりに蓄積された魔力が今にも暴走を起こしそうだ。そうなったら、エポカだってただでは済まないはずなのに。

 なにか、対策を練ってきているのだろうか。


「シャール。私は汚れた魔力の暴走を食い止める方に力を使うわ。この気持ちの悪い魔力を分解する」

「なら、私はあの男を攻撃する」


 だが、シャールが攻撃魔法を放つまでもなく、エポカの纏っていた魔法アイテムが爆発して壊れた。

 魔法の威力を上げすぎて、アイテムが耐えられなかったのだろうか。


「……!? エポカは……」


 爆発の煙で、彼の姿が確認しづらい。

 しかし、大きめの爆発だったので、無傷ではいられないと思う。


 すでにエポカは無事ではないだろうと考えていると、もうもうと煙の上がる中から、突如異質な魔法が放たれた。

 直撃は免れたが、子供たちが魔法の衝撃で吹き飛んでいる。


(皆、怪我はないみたいね。でも、あの魔法はなんなの?)


 煙が消え去った跡を確認すると、エポカは生きていた。

 だが、どこか動きがぎこちない。

 私は違和感の正体に気が付いた。


「彼の体、人の体じゃないわ」


 どこも怪我をしていないどころか、魔法による修復がかかっている。

 ランスの雷魔法を浴びても平気だったのは、そのせいだ。私やシャールの攻撃魔法があまり効いていないのも……。

 ところどころ、硬質な素材が飛び出ているのは……彼が人の体を捨てたという証拠。

 利便性一辺倒の無骨な素材は趣味がいいとは言えない。ケーキ柄でも散らせば、可愛くなると思うのに。


「エポカ、あなたの体……魔法アイテムでできているの?」

「ご名答。我が輩の体は五百年以上かけて生み出した、最高の強度を誇る魔法アイテムでできている。だから、魔法アイテムの使用によって生じる、汚れた魔力の影響だって最小限しか受けない」


 エポカは敢えて、こんなにも汚れた魔力を振りまくような戦い方をしていたようだ。


「そして、今放った我が輩の魔法は……歪んで汚れきった魔力から生まれている。お前たちにとっては攻撃魔法よりも、副産物として出た、汚れた魔力の攻撃こそが驚異だろう? すでにお前たちの体は、悪影響を受け始めているのではないか?」


 彼の言うとおりだ。胸は苦しいし、体は重い。


「アウローラ、お前がいくら汚れた魔力を浄化しようとも、我が輩が放出する量には追いつかない」


 状況はよくない。こちらには人数がいるが、子供たちの体は汚れた魔力の影響で限界が近づいている。


「あなたたちは、体に限界が来る前に安全な場所に撤退なさい。余裕があれば、そのへんにいるハリネズミを回収して」


 いくら元モーター教の関係者とはいえ、ここで見捨てるのは寝覚めが悪い。

 それに、ハリネズミは可愛い。可愛いは正義だ。

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